14年間暮らした愛猫にがん再発 残りの時間をいとおしむ夫婦
一緒に暮らしてきた猫が難しい病気になり、あとわずかな命だと宣告された時、飼い主はどう状況を受け入れ、どう向き合うのか……。がんが再発した愛猫をかかえる中高年夫婦に、動物病院の待合室で出会った。
(末尾に写真特集があります)
「腫瘍の大きさは4~5センチ、ほかにもあるって」
「年が越せるか……わからないね」
11月中旬、都内の動物病院。愛猫ミャー(メス 15歳)を検査に連れて来た清一さん(56)と、みきさん(52)夫婦は、獣医師から現実を告げられて肩を落とした。がんが再発したのだ。
ずっと元気に過ごしてきたミャーに異変が起きたのは、今年6月。「最近食欲がおちた」と清一さんが心配した矢先、頻繁に嘔吐するようになった。その吐しゃ物から便の臭いがしたため、みきさんは「腸閉そくでは?」と思い、近所の病院に連れて行った。
「予想は当たりました。でもその病院では手術ができないと言われたので、別の先生の元へ駆け込みました。検査をしたら腸壁にがんができて、腸がふさがっていたので、すぐに手術をしてもらいました」
手術で腫瘍を取れるだけ取ったが、覚悟をしたという。
「その時すでに症状は重く、夏は越せないかもしれないと思いました。でも食事ができるようになり、少し体重も増えて、嘔吐もなく、秋を迎えたんです。そのまま何事もなく、過ごせればいいなと見守っていたんですが……」
寒くになるにつれて再び食欲が落ちたため、病院に行ったところ、再び腫瘍が腸を圧迫していることがわかった。獣医師からは「好きなものを食べさせて」といわれたという。
「若い時は5キロあった体重も、今では3キロ。踏ん張る力も弱まったので、高い場所に乗せないように、と先生から言われました。でも不思議と、目力だけはあるんですよ」
確かにミャーは小柄だが、目が輝き、言われなければ病気だとはわからない。若い時からたくましく、目に力のある猫だったという。
◆キャンプ場で出会った猫
夫婦がミャーと出会ったのは、14年前の11月に訪れた群馬県前橋市のキャンプ場。当時、みきさんは30代後半。在宅介護をしていた祖父母を見送り、時間ができたため、夫婦が結婚当初に好きだったキャンプに出かけた。そこに猫がいた。
「捨てられたようでしたが、キャンパーに慣れていました。翌月、同じ場所にキャンプに行くとまだいて、私たちのロッジに入り、荷物の中で寝始めたんです」
夫婦は、その人懐こさが気に入り「連れて帰っていいですか」とキャンプ場のオーナーに頼んだのだという。
「野良ちゃんだし、どうぞ連れていって飼ってあげて、と言われました。寒い山にいるよりは東京の方が過ごしやすいのではないかと思ったのです。私も主人も猫を飼った経験がなくて、初めは家の駐車場で飼おうかと考えていました」
キャンプ場から家に戻り、車のドアを開けたら、猫が自ら外に出るだろうと清一さんは思っていた。だが、何時間しても降りる気配がなく、ふいに清一さんの気が変わった。
「主人が猫を抱いて、『中で飼ってあげよう』と部屋に入ってきた。その途端、ミャーッって鳴いたから、それが名前になりました(笑)」
夫婦は猫のことを調べ、病院でノミやダニを落とし、健康診断をしてワクチンを打ってもらい、完全室内飼いにした。一緒に生活するうちに「猫はこんなに可愛いものだったのか」と清一さんは感嘆し、翌年には「友達に」とメスのアメリカンショートヘアのルビー(現在14歳)を迎えた。
「ミャーはルビーの母代りになって育てました。その姿に主人がまたほれて、2匹、3匹と猫を迎えて。2人の息子も猫に夢中になりました。複数飼いしても、いつでも主人は“ミャー命”でしたけどね」
◆「普段通り明るく」
猫初心者だったみきさんも、すっかりベテラン飼い主になり、猫のことを話し合える仲間も増えた。ミャーの手術をしてもらった動物病院も、仲間の紹介だ。
がんの再発宣告から5日後、あらためて、みきさんと会う機会があった。
みきさんはミャーを見守るためにヘルパーの仕事を制限して、介護タクシー運転手をしている清一さんも、もしもの時は、仲間に仕事を頼む手はずを整えているという。
「獣医の先生から、がんは取りきれず、今度閉そくを起こしたら、オペをするか、そのままか二者択一と言われました。主人はオペをしたいと言っています。途中で何かあっても、何かしてあげたいんだと。もうずっと、目をうるうるさせてます」
初めて飼った最愛の猫が、日ごとに弱っていく。家族の気持ちは落ちつかない。だが、みきさんは「こんな時だからこそ、普段通りに明るく、接したい」と話す。
「私もいざという時は、キャンプ用の寝袋でミャーの横に添い寝すると思う。でも今はまだごはんを自力で食べている。どこまで彼女ががんばれるかわからないけど、見守ろうと思います。クリスマスも、お正月も、一緒に過ごせますように」
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