野良猫から生まれたセラピー猫 子どもたちが本を読み聞かせ

図書館で活躍するセラピー猫タイ
図書館で活躍するセラピー猫タイ

 日本でもアメリカでも、セラピー猫は犬に比べてはるかに数が少なく、希少な存在だ。だが、幸運なことに、この9月にワシントン州で、セラピー猫タイのデビューに立ち会うことができた。

 

(末尾に写真特集があります)

 

 タイはまだ1歳の若いオス猫で、人と動物の絆についての啓発とアニマルセラピーの普及をおこなう団体「ペット・パートナーズ」のセラピーアニマルとして認定されたばかり。初仕事の舞台は図書館だった。


 アメリカでは1999年にユタ州で始まったR.E.A.D.(Reading Education Assistance Dog) というプログラムが全国津々浦々に広がっており、多くの町の図書館や学校で、子どもたちが犬に本を読み聞かせをするプログラムがおこなわれている。参加する動物はほとんどがセラピー犬だが、タイのようなセラピー猫も少数ながらいる。


 土曜日の午後、ワシントン州アーリントンの公立図書館でおこなわれた読み聞かせプログラムに登場したタイの周りには、あっという間に子どもたちが集まった。みんなタイをなでたり、ブラッシングしたり、本を読むよりふれあいに熱中だ。幼い子どもにいきなり鼻の頭をさわられても、尻尾をつかまれても、タイはまったく動じない。なでられると、すぐごろんとなっておなかを出す。このおおらかさ、さすがはセラピー猫である。

 

図書館デビューの日、タイはすっかり子どもたちの人気者に
図書館デビューの日、タイはすっかり子どもたちの人気者に

 タイの飼い主でハンドラーのジェニーによると、タイは野良の母猫から生まれた5匹の子猫のうちの1匹。アニマルシェルターでボランティアをしているジェニーの友人が、おなかの大きい母猫を預かり、自宅で出産させた。ところが、慣れない環境であまりにストレスが大きかったのか、母猫は養育を放棄、子猫たちは人の手で育てられたそうだ。母猫が野良なのに、その子猫がセラピー猫になれたのには驚いたが、人の手で育てられたことも影響しているのかもしれない。


 タイはたぶんメインクーンかラグドールとシャムのミックスではないか、とジェニーは言う。


「タイはおしゃべりだから、たぶんシャムが入っていると思うわ。とても好奇心が強くて、積極的で、人間が大好きな子。バスケットを出して、『出かけるよ』と言うと、喜んで入るの」


 ジェニーはそんなタイの気質を見込み、セラピー猫となるべく育てたわけだが、具体的にはどんなことをしたのだろうか?


 ジェニーはタイを引き取った生後10週間から6カ月までの成長期に、できるだけさまざまな人や状況に慣らすようにした。車での外出、お風呂、犬、そして小さな子どもや高齢者などさまざまな年齢や性別の人たち。とくに念を入れたのは、ハーネスとリードに慣らすことだった。活動中、ハンドラーは必ずセラピー猫のリードを持っていなければならないことになっているからだ(犬も同じ)。


 その結果、タイは車での外出が大好きになり、ハーネスにリードを付けると、喜んでバスケットに入るようになったという。


 図書館デビューのあと、タイは地域の小学校で月1回おこなわれる『Paws for Reading』という放課後のイベントにも初参加。タイの兄貴分にあたるセラピー猫スモーキーも来て、2匹の猫と2頭の犬に子どもたちが読み聞かせをするという、なんとも楽しい会となった。


 じつはスモーキーのハンドラーであるオルガはこの学校の教師。彼女の提案で、このイベントが始まった。当初、学校側は犬や猫がかんだり引っかいたりするのではないか、アレルギーが出るのではないかと心配したそうだが、参加する動物はすべて信用ある団体のセラピーアニマル認定を受けていること、それぞれの団体の保険によってカバーされていることで、許可が下りた。それ以来8年間、無事故で今日まで続いている。


 動物たちの存在は、子どもたちの読書への動機付けになるだけでなく、ふれあいの喜びも与えてくれる。絵本を読んでいるあいだ、ほとんどの子は片手でタイのふわふわの毛をなで続け、読み終わるとほおずりしたり、キスしたり。

 

読み聞かせのあいだも、この女の子はずっとタイを撫で続けた
読み聞かせのあいだも、この女の子はずっとタイを撫で続けた

 猫は犬に比べて警戒心が強く、飼い主以外の人にはなかなか撫でさせてくれないものだ。でも、セラピー猫は、初対面であってもそばにいてくれる。そして、あの柔らかく温かい体にふれる喜びを与えてくれる。それはやはり、とても特別なことではないだろうか。


◆大塚敦子さんのHPや関連書籍はこちら

大塚敦子
フォトジャーナリスト、写真絵本・ノンフィクション作家。 上智大学文学部英文学学科卒業。紛争地取材を経て、死と向きあう人びとの生き方、人がよりよく生きることを助ける動物たちについて執筆。近著に「〈刑務所〉で盲導犬を育てる」「犬が来る病院 命に向き合う子どもたちが教えてくれたこと」「いつか帰りたい ぼくのふるさと 福島第一原発20キロ圏内から来たねこ」「ギヴ・ミー・ア・チャンス 犬と少年の再出発」など。

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この連載について
人と生きる動物たち
セラピーアニマルや動物介在教育の現場などを取材するフォトジャーナリスト・大塚敦子さんが、人と生きる犬や猫の姿を描きます。
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