写真家が自宅で愛猫を撮影 フォトコンテストの最優秀賞
東京・新宿で8月に開催したsippo写真展「みんなイヌ、みんなネコ」の一環としてインスタグラムで募集した犬・猫の写真コンテスト。約1万1000点の投稿写真の中から、最優秀の「五十嵐健太賞」には、千葉県の理恵さん(26)が選ばれました。「賞品」は、プロの猫写真家・五十嵐健太さんによるペット自宅撮影。10月初旬、撮影に同行して、お話を聞きました。
(末尾に写真特集があります)
◆シャイな猫「春」
千葉県北部の理恵さん宅を五十嵐さんと訪ねた。玄関先で心配そうに話す飼い主の理恵さんの後ろに、茶トラの猫が隠れていた。今日の主役、春ちゃん(メス、2歳)だ。
「うちの猫は照れ屋さん。大丈夫でしょうか。私も慣れていなくて」
理恵さんのいう通り、春ちゃんはちょっとシャイ。「可愛いですね」と五十嵐さんが声をかけると、ウーと小さく唸り、階段を上がって2階に行ってしまった。
「少し落ち着くまで様子をみましょう。いきなりレンズを向けられたら猫ちゃんもびっくりしますからね」と五十嵐さん。
1階でカメラの準備しながら、撮影場所の相談をする。庭に面した和室には丸い形の爪とぎが置いてある。和室でまったり撮るのはどうか、と五十嵐さんは提案した。だが、春ちゃんが2階から下りてくる気配はない。
階段をあがって部屋を覗くと、春ちゃんは理恵さんの部屋の奥にある、ダンボール製の“猫用5段シェルフ”の一番上に、ぽつんと座っていた。
「ねえ春ちゃん、そこから降りてこない?」。理恵ちゃんが優しく呼ぶが、春ちゃんはじっとこちらを見下ろすばかり。撮影場所は2階の理恵さんの部屋に変更になった。春ちゃんと一緒に寝ているというベッドのカバーは白く、柔らかなイメージ。部屋には余計なものがなく、実にすっきりしている。
◆道ばたで保護された子猫
理恵さんと春ちゃんの出会いは2年前の5月。当時、理恵さんは千葉県内で一人暮らしをしていた。近所の人が2匹の子猫を道ばたで保護し、「1匹、飼いませんか?」と相談された。春ちゃんは推定1カ月半で、小さく心細そうだったという。
「もともと私の家族は犬派。私が5歳の時に迷い犬を保護して飼ったんです。ところが病気ですぐに亡くなって……以来、別れのつらさを考えると、動物と暮らすことができなかった。けれど『春』と出会った時、この子をなんとかしなくては、という気持ちになったんです」
理恵さんは一人で春ちゃんの子育てに奮闘し、成長の様子を残したいとデジカメで写真を撮り始めた。昨春には“猫連れ”で実家に戻り、写真を撮り続けた。寝転んだり、甘えたり、小首を傾げたり。SIPPOの企画に投稿したのはそんな何気ない日常を写したショットだった。
◆猫待ち1時間半、撮影30分
話しているうちに、春ちゃんの緊張も解けてきたのか、シェルフの5段目から4段目、3段目へと下りてきた。目線の高さが一緒になったところで、五十嵐さんが春ちゃんに声をかけた。「おやつを食べる? あれ、僕のこといや?」
春ちゃんは尾をぴんと立て、五十嵐さんの手から直接、おやつぺろりと食べた。だんだん距離が近づいてきたようだ。さらに、理恵さんが「今日のために買った」というおもちゃを棚から出すと、春ちゃんは目をキラキラさせて、ベッドに下りてきた。
理恵さんと見つめ合う。「ああいいですねえ」
五十嵐さんはその瞬間を逃さず、シャッターを押した。「いいお顔だねえ」。時々声をかけながら、静かに撮り続ける。
「『春』はレンズを向けられることに慣れていますが、私以外の人に撮られるのは不慣れ。男性がこの部屋に入るのも初めてなので(笑)ドキドキしちゃったのかも」
理恵さんが思わず笑うと、春ちゃんの表情もさらに和らいだように見えた。
理恵さんは、仕事の都合で来月また引っ越すそうだ。春ちゃんも一緒だ。「母がペットロスにならないか心配・・大丈夫、ちょこちょこ春と里帰りをするからね」
猫の心をほぐすのに約1時間半、撮影は30分足らずだったが、春ちゃんはその間にいろんな表情を見せてくれた。最後の1枚を撮影し終えると、春ちゃんは安心したようにフワッとあくびをした。
(藤村かおり)
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