「折れ耳」スコティッシュ 繁殖は動愛法に抵触

イラストレーション/石川ともこ
イラストレーション/石川ともこ

 猫ブームの影響で、純血種の猫をペットショップで買う消費行動が浸透してきた。大手ペット店チェーンでは前年比2割増のペースで猫の販売数を増やしている。


 そんななかで絶大な人気を誇っているのがスコティッシュフォールドだ。アニコム損害保険の調査では、2017年まで9年連続で人気1位の猫種となっている。だがこの猫の販売は、動物愛護法に抵触している可能性が高い。猫種名の由来であり、人気の理由にもなっている「折れ(fold)耳」が問題だ。


 実は折れ耳は、骨軟骨形成不全症の症状のひとつ。症状に程度の差はあるが、四肢に骨瘤(りゅう)ができて脚を引きずって歩くようになるなどし、鈍痛に苦しみ続ける、根治困難な病気だ。


 この病気は優性遺伝する遺伝性疾患。つまり、折れ耳同士で繁殖すれば75%以上の確率で折れ耳の子猫が生まれ、折れ耳と立ち耳を繁殖した場合でも50%以上の確率で折れ耳が生まれる。これをペット店の店頭で売られている「折れ耳の子猫」の側から見ると、両親または片親は必ず折れ耳だということになる。


 動物愛護法では「動物取扱業者が遵守(じゅんしゅ)すべき動物の管理の方法等の細目」が定められている。細目の第5条第3項のイにはこうある。


「販売業者は(中略)遺伝性疾患等の問題を生じさせるおそれのある組合せによって繁殖をさせないこと」


 遺伝性疾患が出ることがわかっていて繁殖させる行為は「細目に抵触する」(環境省)わけだ。細目に違反した場合、自治体は業者に対して状況を改善するよう勧告、命令することができる(動愛法第23条第1項及び第3項)。命令に従わない業者には100万円以下の罰金が科される(同第46条第4項)。つまり動愛法に照らせば、折れ耳のスコティッシュフォールドは繁殖が禁じられているはずなのだ。


 獣医学の見地からも、鹿児島大学の大和修教授(獣医臨床遺伝学)は「発症した猫は、四肢や体に生涯ずっと痛みがある。そのような猫種は作らない選択をすべきだ」と指摘する。消費者保護の観点からも、「診療費の負担などを考えれば消費者にとっていいことではない」(環境省)。


 ところが全国のペット店の店頭で平然と、折れ耳のスコティッシュフォールドは売られている。ペット店の経営者らは、その繁殖が動愛法に抵触していることを認識し、一刻も早く仕入れ、販売をやめるべきだろう。


 繁殖業者やペット店などを監視・指導する自治体がこの状態を放置していることも問題だ。店頭に折れ耳のスコティッシュフォールドがいれば、自治体はその仕入れ先を確認し、繁殖業者に対して改善を勧告、命令しなければならないはず。その繁殖業者が命令に従わなければ当然、100万円以下の罰金だ。


 消費者もよく考える必要がある。「人気の折れ耳」に飛びつくから、業者は繁殖する。もちろん、人気をあおるマスメディアの罪も重い。


 子犬、子猫の段階で症状があらわれる遺伝性疾患はほかにもいくつかある。そうでなくても、検査方法が確立されている遺伝性疾患は、繁殖段階で発生を抑えることができるものだ。業者、行政、消費者、メディアが一体となって、この事態を解決していく必要がある。

 (朝日新聞タブロイド「sippo」(2017年7月発行)掲載)

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太田匡彦
1976年東京都生まれ。98年、東京大学文学部卒。読売新聞東京本社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当した後、AERA編集部在籍中の08年に犬の殺処分問題の取材を始めた。15年、朝日新聞のペット面「ペットとともに」(朝刊に毎月掲載)およびペット情報発信サイト「sippo」の立ち上げに携わった。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』『「奴隷」になった犬、そして猫』(いずれも朝日新聞出版)などがある。

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動物福祉や流通、法制度などペットに関する取材を続ける朝日新聞の太田匡彦記者が、ペットをめぐる問題を解説するコラムです。
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