助かるはずの命を見捨てない! 「殺処分ゼロ」を続けます

(写真は本文と関係ありません)
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 犬の保護シェルターを運営するうえで、一頭一頭をどこまで丁寧にケアできるかは常に悩ましい課題である。一人の飼育スタッフが担当する頭数をなるべく減らし、それぞれの犬に時間をかけて健康管理やトレーニングをしてあげるのが理想だが、多くの犬を保護している状況では、それも無限にというわけにはいかない。


 受け入れを制限し、全体の頭数を一定以下に抑えれば、より手厚く世話ができるのは間違いない。しかし、それでは助かるはずの他の命を見捨てることになってしまう。


 実は、ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)が20年以上にわたって世界で展開している人道支援でも、同じジレンマを抱えながら仕事をしてきた。


 私たちはイラクやケニアなどのキャンプで、紛争を逃れた何十万人もの難民や国内避難民を支援している。キャンプでは難民たちの安全が守られ、住居、水、食料、さまざまな生活物資のほか、教育や医療などのサービスも提供される。しかし、周辺地域で紛争が激しくなると、さらに新たな難民が保護を求めて押し寄せ、キャンプの平穏が脅かされることもある。


 そんなとき、「キャンプが窮屈になる」「難民同士のいさかいや暴動が心配だ」などの理由で新規の難民に対して門を閉ざせば、彼らは行き場を失う。それは紛争地では死を意味する。人道支援団体としては本末転倒だ。私たちは、“No one left behind(誰も取り残さない)”というポリシーを、可能な限り守ってきた。多少無理をしてでも拒むことなく彼らを受け入れ、先住者と折り合いをつけながら生活環境の改善に努めることをこそ、プロの支援者として目指すべきだと思うからだ。


 5年前に犬の保護活動を始めるにあたり、私はドイツ・ベルリンのティアハイムを妻と初めて見学した。そのとき、保護している動物が約1500頭、年間の運営費が約6億円と聞き、「これなら数年以内に自分たちにもできる」と思った。大きな施設を作りたかったわけではない。だが、殺処分される犬や猫が何千、何万といる以上、事業体として一定の規模を追求することが必要だと考えた。実際にいま、ピースワンコのシェルターはそれに近い規模になった。


 これまで長く動物保護の分野で苦闘してきた方たちの目には、素人の無謀な挑戦と映るかもしれない。「飼育環境が悪化しているのではないか」といった批判も聞くし、事業の継続が危うくなることを心配し、無理せず受け入れを抑えた方がいいと忠告してくださる方もいる。


 それでもやはり、私は「殺処分ゼロ」の旗を降ろすつもりはない。一部で批判されても支援は減らなかったし、事業を継続していく自信もある。難民キャンプと同じように、施設やスタッフを急ピッチで拡充し、“No one left behind”の信念を貫く覚悟だ。


 常識にとらわれないからこそ、新たな発想でイノベーションを起こすチャンスも生まれる。それならあえて「素人」のままでいるのも悪くないと思っている。

大西健丞
1967年生まれ。NPO法人「ピースウインズ・ジャパン」代表理事。広島県神石高原町にシェルターを設け、捨て犬の保護・譲渡活動に取り組むプロジェクトを運営している。

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この連載について
大西健丞のピースワンコ日記
NPO「ピースウインズ・ジャパン」代表の大西健丞さんが、殺処分ゼロをめざして犬の保護活動に取り組む日々を語ります。
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