動物の心や状況を知って理解を深めよう おすすめ本の紹介

 地球生物会議(ALIVE)が制作・発行している会報『ALIVE』には「本の紹介コーナー」があり、主に動物や環境について書かれた本や映像などを取り上げ、書評を添えてご紹介しています。本稿では、著者のメッセージがより多くの方に届くことを願い、おすすめ本(および映像)の一部を掲載させて頂きます。


■動物と戦争 真の非暴力へ、《軍事―動物産業》複合体に立ち向かう

[編]アントニー・J・ノチェッラⅡ世、コリン・ソルター、ジュディー・K・C・ベントリー
   井上 太一 訳(株式会社 新評論)

 戦争は無差別に人間を傷つけ、多くの命を奪います。人間の暴力性の象徴ともいえる戦争、その恐怖と苦しみに襲われたのは人間だけではありません。人間の争いの裏で動物たちもまた、苦痛と犠牲を強いられ、悲鳴を上げているのです。

 本書では、あらゆる視点から戦争における動物利用を巡る悲痛な歴史が記されています。兵器として利用するために戦場に駆り出された動物、化学兵器の開発のために苦痛を強いられた実験動物、棲家を奪われた野生動物、そして戦争の巻き添えとなって殺されたペットや見捨てられた家畜など、その非情なまでの搾取と犠牲には思わず目を背けたくなります。

 一方的に戦争に巻き込まれ、犠牲となった動物たちの存在を知ることで、私達は人間本意ではない「真の平和」というものを考えることができるかもしれません。


■保育者と教師のための動物介在教育入門

谷田 創 木場有紀 著(岩波書店)

「動物介在教育」と聞くと、動物と子どもが楽しそうにふれあい、きっとやさしい心が育まれているのだろう、といったイメージがあるのではないでしょうか。しかし本著は、現在幼稚園や小学校で実施されている動物介在教育の現状や問題点を指摘し、警鐘をならしています。

 著者たちは、実際に動物が飼育されている幼稚園に赴き、またアンケートなどを行って、飼育動物の種類、動物の死亡率、死亡の原因、教育者の対応など、様々なデータを収集し、動物介在教育の現状を明らかにしています。そして、教育者が飼育に関する知識がなく動物を死なせてしまった事例や、動物に関する誤った知識を与えてしまった事例など、数々の問題点を指摘するとともに、具体的な改善案にも言及しています。

 一般的に、「動物とのふれあい」は教育につながる、そう安易に信じられている節があります。しかし、本著で書かれてあるように、動物は「魔法の杖」ではありません。動物から学べることは多くとも、本当にその現場に動物が必要なのでしょうか。またその前提として、教育者の知識や指導は十分なのでしょうか。 教育や動物に携わっている方は必読の一冊です。


■とらわれの野生 動物園のあり方を考える

ロブ・レイドロー 著  山﨑恵子 監修 甲賀珠紀 訳 (リベルタ出版)

 あなたは動物園にどのような意見を持っていますか? ただ感情的に「動物園はダメだ!」と主張しているだけでは、環境の改善は進みません。本書の著者レイドロー氏は、世界各地の動物園・水族館を巡ってその実態を調査し、幾多のデータをもとに動物園に対して改革を呼びかけています。

 海外の動物園も様々な問題を抱えています。本書では、「ロードサイドズー」と呼ばれる道路ぎわにある粗末な動物飼育舎など、様々な事例が挙げられています。また、そのような劣悪な環境にいた動物たちを保護している「サンクチュアリ」の存在、最先端の動物園の展示方法、動物園でチェックすべきポイントについても記されています。このように、生物学者である著者の豊富な知識と経験のフィルターを通し、野生動物を「とらわれの身」にしてしまっている世界各地の動物園・水族館の現状や問題だけではなく、展示動物の福祉、動物園に対する監視の目を持つことの重要性も知ることができます。

 本書で著者の信念や活動に触れれば、動物園とそこにいる動物たちへの見方が変わり、さらには動物への共感の気持ちに気付き、それは動物福祉向上への活動にもつながるでしょう。


■動物たちの心の科学

マーク・ベコフ 著  高橋 洋 訳 (青土社)

 動物にも人間と同じように喜びや悲しみを感じる"心"があるということを科学的に認めるのは難しいとされています。しかし、この本では、動物にも「感情」が存在しているということを、数々の事例や検証を踏まえながら主張していきます。

「動物は苦痛を感じない」、「擬人化のしすぎだ」という研究者からの批判に対しても著者は、「もし動物に感情があると仮定しても誰にも危害はない。少しでも疑いがあるのなら動物に有利に解釈すべきである」と、あくまで動物の福祉を優先すべきという立場を貫いています。

 公正に遊ぶコヨーテ、仲間の死骸を埋めようとするキツネ、傷ついた子ゾウに寄り添う親ゾウ、他にも畜産現場や実験動物への配慮についてなど、様々なエピソードを交えながら、動物にも人間と同じように「感じる心がある」いうことを著者は証明していきます。

 少し専門的な用語が使われる場面もありますが、この本を読めばきっと動物の感情や情動に対する理解を深めることができ、動物に配慮することがいかに大切なのかを感じることができます。

 動物の"心"に触れてみたいと思っている方におすすめの1冊です。


■日本の動物観

石田おさむ・濱野佐代子・花園誠・瀬戸口明久 著 (東京大学出版会)

 動物観とは、自然観や人生観と同じように、動物をどのようにとらえているかという概念のことです。この本では、私たちが暮らしている日本での動物との関わりを、ペット、畜産、野生、動物園の4つの分野をそれぞれの筆者が日本人の動物観を様々な角度から明らかにしようとしています。

「ともかく生かして可能性を探るのが日本人的感覚」と述べられており、生命を尊重する精神は日本にとって誇るべきことかもしれませんが、半面に「動物への科学的理解に関心がない」や「接触を介して家族を超えた存在となってしまう」など、やはりどこか動物に対して一方的である日本人の感覚が見えてきました。

 動物の福祉への関心も近年では高まってきているとのことでしたが、やはりまだ動物との関係はどこかあやふやなように思えます。自分の動物に対する考えを深めてみたい方は、ぜひご一読ください。


■さよなら動物園(落語)

桂三枝大全集 創作落語125撰 第43集(キング・レコード)

 これまでALIVE誌で何回も取り上げたことのある宝塚ファミリーランドの廃園をマクラに、動物園が閉鎖するとき動物たちはどこへ送られるのか、それをチンパンジーとゴリラが語る物語です。

 それぞれ別の動物園に別れさせられるトラの夫婦、なかなか引取り手の決まらないカバ、鳥取砂丘で観光用に使われることになったラクダ、韓国の動物園に送られることになったアジアゾウ、芸をしないために引取り手のないアシカ、集団脱走したアライグマなど、様々な動物たちの悲喜こもごもを、 チンパンジーのジョニーが、ゴリラのムサシに報告します。

 そして、ムサシのみは、生まれた場所がアフリカの保護区であったことから、国内外の動物保護団体が動いて、ふるさとに帰れそうだと告げます。次第に、動物園から動物たちがいなくなり、すっかり静かになったある日、ついにムサシはアフリカのふるさと(ゴリラ保護区)に帰してもらいます。そこで、自分の名前(保護区で名付けられた名前)を取り戻し、仲間と共に幸せに暮らすのですが、唯一の悩みは、夜眠れないこと。そのオチは…。

 同じ選集の中にある、養豚場でただ食っては太るだけの生き方に疑問を覚えて、うまく脱出するブタの話(「考える豚」)もとても面白いです。また、活魚店で生き作りにされるタイが、生け簀の中でいかにして生き延びるかを語る話(「鯛」)があります。桂三枝師匠は、落語では、魚であろうが豚であろうが、何だってしゃべることができると言っています。そういう視野で、落語の世界が広がると、愛好家も増えるかもしれません。


■<図説>生物多様性と現代社会:「生命の環」30の物語

小島望 著(農文協)

 生物多様性条約締約国会議COP10に関連して、様々な書籍が刊行されています。その多くは生態学的な視点で書かれていますが、本書はそれに加えて私たちが今生きているこの社会がどれほど生物多様性に負荷をかけているか、その関係をわかりやすく取り上げています。例えば、野生動物の餌付け、農薬・殺虫剤、遺伝子組み換え作物、大規模林道、捕鯨、環境ホルモン、水俣病など、自然保護に関心のある方なら誰でもが耳にしたことのある個々の問題が、自然界の多様性の破壊や喪失と関連づけられて、問題の全体像が鮮明に浮かび上がってきます。

 中でも、戦争は最大の生物多様性破壊であるとしているのは、強く頷けるものがあります。

 多くの参考文献に裏打ちされた論考ですが、研究者の論文や解説書とは異なる市民感覚にあふれた本書を読めば、生物多様性にかかわる問題を丸ごと理解することができるでしょう。


■犬を殺すのは誰か  ペット流通の闇

太田匡彦 著(朝日新聞出版)

 犬はなぜ行政の施設に持ち込まれる(処分依頼される)のでしょうか? その原因を探るべく、飼い主が犬を引き渡す際に記入する「犬引取依頼書」を全国の自治体から「引取依頼書」の開示請求をして、その書類を分析しました。その結果、行政に処分依頼しているのは、個人の飼い主ばかりでなく、ブリーダーなどの動物取扱業者が多数の犬を殺処分に持ち込んでいる実態が判明しました。 生後わずか数週間で母犬から引き離され、オークション(競り市)にかけられ、ペットショップに売られていく子犬の流通の闇を明るみに出した、はじめての本と言ってもいいでしょう。

 かつて週刊AERAで取材したペットの繁殖販売の実態、そして最後の終末処分場までの追跡のルポをまとめています。 動物取扱業の規制強化に向けて動物愛護法の改正がなぜ必要か、その根拠を示す内容でもあります。

※2012年の動物愛護法改正により、行政は動物取扱業者からの引き取りを拒否できるようになりました。


(会報「ALIVE」の「読む見る聞く 本の紹介」コーナーより掲載)

この連載について
from 動物愛護団体
提携した動物愛護団体(JAVA、PEACE、日本動物福祉協会、ALIVE)からの寄稿を紹介する連載です。
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