犬にかまれて怪我 2千万円超の損害賠償!

 先日、犬の咬傷(こうしょう)事故に関するニュースを目にしました。

 飼い主の留守中に家から逃げ出した大型犬(バーニーズマウンテンドッグ)が、駐車場で車から荷物を下ろしていた女性に飛びかかって腕や腹などにかみつき、指を骨折させるなどした事案――ということのようです。

 被害女性は、治療費や慰謝料などの損害賠償請求訴訟を提起し、裁判所は飼い主に対して約2150万円の支払いを命じる判決を出しました。なお、飼い主側は裁判所に出頭せず反論書面も出さなかったようです。このような場合でも、裁判所は被害者側の請求が合理的で根拠のあるものかを確認しますので、裁判に欠席したから賠償額が高額になったというわけではないと思われます。

 2千万円をこえる高額な損害賠償となれば、大多数の人にとって払える額ではなく、今回の飼い主は自己破産を考えないといけない状況かもしれません。一方で、被害者も、事故の被害によってそれまでの生活が一変し、判決が出ても満足に損害賠償されないとすれば、非常に不幸なことです。

 さて、犬の咬傷事故があったときの飼い主の損害賠償責任について民法は、原則として、動物の飼い主(占有者)が他人に加えた損害を賠償すべきだと定めつつ、例外的に、動物の種類や性質によっては「相当の注意」をもって管理をしていたときは責任を負わないと定めています。

 ここでいう「相当の注意」とはどのようなことを指すのか。一般的には「異常な事態に対処すべき程度の注意義務ではなく、その動物の種類や性質から通常要求される注意義務」と言われています――が、このように説明されても、わかりにくいですよね。

 どんな場合にどんな対処をしておけば、飼い主は「相当の注意」を尽くしたと言えるのでしょう。それがあらかじめわかっていれば、飼い主としても心づもりや適切な準備ができるかもしれません。しかし、「こうすれば大丈夫」というものを事前に示すことは困難なのです。具体的に咬傷事故が発生してしまった後で、そのケースのあらゆる事情に基づき個別的に判断される、としか言えないというのが現実です。

 ただ過去の裁判例をみる限り、ほとんどすべてのケースで飼い主の責任が認められており、「相当の注意」を尽くしたとして免責されているのは極めてまれである、ということは言えそうです。

 飼い主に責任はないとした珍しい裁判例(2007年3月30日東京地裁判決)は、次のようなものです。

 犬をノーリードで走らせることができるドッグランにおいて、フリー広場中央部を突っ切って反対側に小走りに進んでいった被害者に、日本犬の雑種が衝突し、被害者が右足を骨折したという事案でした。裁判所は、犬が走り回っているドッグランの中央部に人が立ち入ることは危険な行為であり、「異常な事態」にあたるから「そのような事態を想定して飼い犬の動向を監視し制御する必要まではない」として、相応の注意を尽くした飼い主は損害賠償責任を負わないと判断しました。

 法律や裁判例を通じてみると、人との共同生活の中で動物を飼う以上、飼い主に相当厳しい義務や責任が課されていることが読み取れます。

 こうした中で、突然の事故によって高額な賠償責任を負うリスクから自分の身を守るためには、普段からの正しいしつけや訓練が大切です。自分の愛犬も「社会の一員」なのだという意識を持って、それにふさわしい振る舞いを、飼い主自身がまずは心がけるようにしてください。

細川敦史
2001年弁護士登録(兵庫県弁護士会)。民事・家事事件全般を取り扱いながら、ペットに関する事件や動物虐待事件を手がける。動物愛護管理法に関する講演やセミナー講師も多数。動物に対する虐待をなくすためのNPO法人どうぶつ弁護団理事長、動物の法と政策研究会会長、ペット法学会会員。

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