ペットのための栄養学 日本の環境に合う栄養学の必要性
栄養学環境の整備が健康長寿を作る
現在、日本の市場には欧米のペット栄養学の基準に沿ったペットフードが出回っている。欧米に本社を持つメーカーが長年の研究データの蓄積を基に商品開発を進めていること、日本にはペットフードに関する独自基準がなく、米国のAAFCOの基準を参考にせざるを得ないことなどが理由だ。
犬は国際的に血統がほぼ統一されていること、猫は犬ほどの個体差がないことから、欧米の基準に沿ったペットフードでも健康は維持できるのだが、やはり日本独自のペット栄養学が必要なのではないだろうか。
そんな疑問に答えてくれるのが、日本ペット栄養学会だ。1998年に発足し、学会員数は1600人あまり。獣医師や動物看護師、大学教員、ペットメーカーの社員、ペットショップのオーナーや販売員などが所属している。
圧倒的に足りない栄養学の専門家と指導者
「日本と欧米ではペットの飼育環境やペットに対する飼い主の意識、犬種の好みなども異なります。日本の実情に合わせたペットの栄養研究と情報発信が必要との考えから発足しました」
と同学会理事の大辻一也氏は説明する。
大辻氏は農学博士。大手化学メーカーの社員だったとき、人に対する脂肪の栄養研究を進めるなかで、ペットの肥満対策にも応用できるのではないかと、ペット栄養学にも研究を広げた。そのことから退職後、帝京科学大学アニマルサイエンス学科でペット栄養学の教鞭をとることになった。そんな大辻氏の経歴が象徴するように、日本にはペット栄養学の専門家が少ない。
「家族のように飼育される犬と猫が増えるにつれて、獣医師や動物看護師がペット栄養学の知識を持つ必要性が高まっています。ところが彼らを指導する人材が足りない。講座を開きたくても適切な教授が見つからないために断念している獣医大もあるのです」
そこで今、日本ペット栄養学会が力を入れているのが「ペット栄養管理士」の資格認定制度だ。ペットの栄養に関する知識の普及と人材育成を目的に2002年5月に作られた。現在、資格登録者は約1600人。ペットフード総論、ペット基礎栄養学、ペット臨床栄養学に関する養成講習会をすべて受講すると受験資格が得られる。
「ペット栄養管理士が学ぶ内容は、タンパク質やビタミンなどの栄養成分の基礎知識、ペットのライフステージで必要な栄養、疾病と食事療法、栄養評価のガイドライン、ペットフードの原料や動物試験法、法規制など、多岐にわたります」
合格者と受講者の多くは、獣医師や動物看護師、動物看護系大学や専門学校で学ぶ学生、ペット関連産業の従業員など、ペット業界に関わる人たちだが、ペット栄養学を体系的に学べるとあって飼い主の姿も珍しくないそうだ。
徐々に増えているペット栄養管理士だが、動物病院などの現場で活躍していると言えるほど普及していないのが悩みだ。
健康な犬猫対象の栄養指導が予防につながる
大辻氏はペットの栄養指導には二つの面があると指摘する。一つは日常生活の健康管理のための栄養指導、もう一つは病気になったペットの栄養指導だ。後者は病気に応じた特別療法食になるため、獣医師は薬と同様に効果やリスクを考えた上で使うことができる。問題なのは日常の栄養指導だ。健康な犬と猫の栄養を指導できる人材が日本には少ない。
「動物病院の動物看護師への質問で一番多いのが食事のことと言われています。人間と同じで栄養のことは獣医師より、看護師のほうが聞きやすいのでしょう。動物看護師が栄養指導を担い、正しい知識と指導の経験を持つようになればペットの健康はもっと向上すると思います」
飼い主が専門家に栄養相談できる動物病院の環境整備はペットフードメーカーも重視し、獣医師や動物看護師を対象にしたセミナーを開催したり、獣医師による勉強会などを支援している。
「これからの動物病院は、専門医が揃った総合病院とホームドクターを目指す小規模な病院の二つに大きく分かれていくと思います。その中で、ペット栄養学を正しく伝える場として動物病院の役割も高まるでしょう。医療関係者が正しい栄養学の知識を身につけて指導することは、ペットの健康長寿に直結します。予防医学の最たるものが栄養学なのです」
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