犬オークションの現場 ペット流通のブラックボックス②
このペットオークション(競り市)というビジネスモデルが誕生したのは約20年前といわれる。それ以前はペットショップとブリーダーが相対で取引をしていた。次第に異業種からの参入者が増え、犬の流通量も増えたことから相対取引が限界になった。犬ビジネスの拡大が、オークションを生み出したといえるが、同時に別の問題を生んだ。
悪徳ブリーダーの温床となり、幼い子犬(幼齢犬)が流通する舞台となり、トレーサビリティー(生産出荷履歴追跡)の障壁ともなっているのだ。ある大手ペットショップチェーンの幹部はこう話す。
「オークションは動物取扱業の登録さえしていれば、特別な審査もなく誰でも入会できるのです。またブリーダーとペットショップが直接交渉できない仕組みになっていて、出品生体の親の情報やその管理状況などの情報もわかりません」
悪徳ブリーダーも利用
今年3月、化製場法違反(無許可飼養)と狂犬病予防法違反(予防注射の未実施など)の容疑で経営者が逮捕、書類送検された「ペットショップ尼崎ケンネル」(化製場法違反は起訴猶予)。10年以上にわたり違法営業を続け、売れ残った犬を6年間で200匹以上、尼崎市に引き取らせ、殺処分させてきた。業者が利用していたのが、大阪府内のオークションだ。このオークションの経営者はいう。
「生体管理は適切で、いい犬を作出していた。しかし法律は二の次になっていたようだ。違法営業をしていることには気づきませんでした。事件が発覚してすぐ、1年間の出荷停止処分にしています」
問題発覚後も悪徳ブリーダーがビジネスを続ける。そんな事例も今年4月まで、あるオークションを舞台に起きていた。
毎週月曜日に開催されるこのオークションは多いときには1000匹もの子犬、子猫が取引され、日本最大といわれる。そこで子犬を売っていたのが、茨城県内で約10年前からブリーダーをしていた70代の夫婦だった。
このブリーダーの動物虐待とみられる行為が明らかになったのは昨年夏のこと。2度にわたり計約20匹の犬を茨城県動物指導センターに捨てに来たことなどで発覚した。動物愛護団体の関係者らがブリーダーを訪問すると、鉄骨2階建ての建物からは吐き気がするほどの悪臭が漂っていたという。そこには金属製の網カゴが2段重ねにぎっしりと並べられ、約100匹の犬と約60匹の猫が飼われていた。なかには繰り返し行われた帝王切開の跡が膿んでいる犬や、ケガした足を放置され第一関節から先が腐っている犬もいた。
ビジネスモデルに問題
ブリーダーは昨年11月、動物愛護法と狂犬病予防法に違反しているとして茨城県警牛久署に刑事告発されるに至った。それでも、ビジネスは継続できた。
「市場に持っていくんだ」
そう話し、毎週のように子犬をオークションに持ち込んでいた。立ち入り調査や文書による指導を行っている茨城県では、今年3月にも十数匹の子犬を出荷していることを確認している。
このオークションを経営している会社は東京の六本木ヒルズにオフィスを構えている。親会社は投資ファンドで、社長や役員は親会社出身。担当幹部はこう説明する。
「子犬の適切な健康管理を行い、価格決定の透明性を確保するために、オークションという機能が必要になったのです。ただ、実態を把握できなかった点は我々としてもたいへん遺憾です。現在会員業者は約2000に上っており、直接訪問して実態把握と指導に努めています」
だが実は「生体を競る」というビジネスモデルそのものが、遺棄を助長する構造問題を抱えている。もう一度チャート1を見てほしい。流通の過程で「行方不明」になってしまっている犬が約1万4000匹もいることがわかる。その実態は依然不透明だが、高値で売れる犬とそうでない犬が「一目瞭然」となるオークションによって、ふるいにかけられた可能性が否定できない。この点は全国14のオークション業者で作る「全国ペットパーク流通協議会(PARK)」の宇野覚会長も認めている。
「オークションでシビアに子犬の品質を選別するほど、売れない『欠陥商品』が生まれ、それを持ち帰ったブリーダーがどんな処置をしてしまうかという問題は、確かにあります」
(AERA 2010年5月31日号掲載)
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