犬猫はこの病気で死に至る がん/犬猫ともに死因第1位

原因と対処法を学ぶ

犬や猫の死因の多くを占めるがん、心臓病、腎臓病。
ほとんどの飼い主が直面することになる、死に至る病――。
原因と対処法を知っておけば、予防や症状を抑えることも可能だ。
長く健康寿命を保つために。いざという時の覚悟をするために。
それぞれの病気の専門家から、学んでおこう。
文=石原美紀子


 

人間並みの診療水準
長期の治療を覚悟しよう

 埼玉県三郷市に住む女性(39)は、ラブラドール・レトリバーのさくらをブラッシングしているとき、左前脚の付け根が少し膨らんでいるのに気付いた。ピンポン球くらいのしこりがあるような気がする。気になって全身をくまなく見てみると、右の頬に、左の頬には感じられないうずらの卵くらいのしこりがあるようだ。最近、ちょっと痩せたような気もする。

 散歩のついでにかかりつけの動物病院に立ち寄って診察を受けた。すると、触診をしていた獣医師の顔が曇った。

「腫瘍の可能性があります。良性だったら問題ないが、悪性だと『がん』です。いろいろと治療が必要になります」

「がん」という言葉に女性は動揺した。そういえば、散歩仲間が飼っていたゴールデン・レトリバーが、9歳で「リンパ腫」になり、亡くなっている。さくらは、どうなってしまうのか。

 その日から、二次診療機関で月に1回放射線治療をしながら経過を観察し、週1回、地元の動物病院で抗がん剤を投与する日々が始まった。早期に発見できたのと、家族の全面的な協力が得られたこともあって、さくらはそれから2年以上生きた。女性はこう話す。

「宣告の日から亡くなるまで、家族で1日1日を大切に過ごしてきました。出費は多いときで月10万円ほどになり、金銭的につらいときもありましたが、何かを察したのか、以前はゲームを買ってとうるさかった息子がほしがらなくなりました」

犬や猫のがんも人間同様の治療ができる

 女性は、息子が、がんと闘うさくらから、いろんなことを学べたと思う。さくらが息を引き取るとき、息子は「さくら、ありがとう」と言って泣いたという。

 がんは、犬にとっても猫にとっても、死因の第1位にあげられる病気だ。犬の47%、猫の32%が、がんが原因で亡くなっている。それだけに、犬や猫のがんも人間のがんと同じような診断と治療ができるほどに、獣医学が進歩してきている。

 まず、犬や猫はどのようながんにかかるのか。公益財団法人日本小動物医療センター附属日本小動物がんセンターのセンター長で、獣医師の小林哲也氏はこう話す。

「犬や猫に多く見られる悪性腫瘍はリンパ腫(図1)、肥満細胞腫(図2)、乳腺腫瘍などです」

 リンパ腫はどこにでも発生する可能性があるが、その場所によって徴候が異なる。若い猫では「縦隔型」や「多中心型」が多く、これらは猫白血病ウイルス(FeLV)感染症の発生が多い一部地方で多発するなど地域性がある。

 また、FeLVや猫エイズウイルス(FIV)感染症にかかった猫に多く発症するとも言える。呼吸困難、咳、運動量の低下、食欲不振、嘔吐などが見られる。

 犬によく見られるのは、体表面にあるリンパ節がまんべんなく腫れを起こす「多中心型」。食欲不振などが伴う。リンパ腫は、抗がん剤による化学療法が効果的で、「以前は心配されていた抗がん剤による副作用も、現在ではだいぶ管理できるようになりつつある」(小林氏)。

 太った犬や猫に発生するものと誤解されがちな「肥満細胞腫」は、白血球の一種である肥満細胞が腫瘍化したもの。いわゆる「肥満」とは無関係だ。体の表面に発生する悪性腫瘍で、猫、そして犬ではパグにできるものなどはたいへん小さく、見落としやすい(図3)。ゾエティスが2014年5月から動物病院向けに新薬の販売を開始した。

 一方で「乳腺腫瘍」は、犬や猫の胸のあたり(乳腺)にしこりがあったら、すぐに動物病院に相談すべき病気だ。悪性の乳腺腫瘍は近くのリンパ節、さらには肺に転移することがある。発症するのはほとんどがメスだが、ごくまれにオスも乳腺腫瘍になることがあるという。

 犬猫の死因第1位のがんに、飼い主はどう備え、どう対処していくべきなのか。小林氏はまず、早期に発見し、なるべく早く適切な治療を始める必要があると指摘する。

(図1)猫のリンパ腫のCT画像 リンパ腫は体のどこにでもできる可能性があり、このCT画像では猫の鼻腔内にリンパ腫がある。鼻腔内にリンパ腫が発生すると、慢性鼻汁や鼻出血、くしゃみなどが見られる。これらの徴候を「風邪」と思い込まず、動物病院に相談することが重要だ

 

(図2)犬の典型的な肥満細胞腫
犬の左後ろ足にできた直径20㎜ほどの肥満細胞腫。肥満細胞腫はその大部分が体表にできる腫瘍で、腫れや出血、かゆみを伴うものも多い。できものに針を刺して検体(腫瘍細胞)を採取し、細胞診検査を実施することで肥満細胞腫かどうかを判断できることが多い

 

(図3)パグの肥満細胞腫
印の部分に肥満細胞腫があるが、典型的な肥満細胞腫と比べるとかなり小さいことがわかる。猫の肥満細胞腫も非常に小さいので、よく体に触ってしこりを早期に発見することが重要だ。肥満細胞腫は多くの場合単発性だが、パグや猫の場合、多発することも多い

 


ペットががんになったらよりふれあいを

「毎日、飼っている犬や猫の目を見たり、体を触ったり、よく観察することです。たとえば、ふだんは何でも食べる動物が『好きなものなら食べる』ようになったというのは、食欲が一段階落ちているサインと言えます。また乳腺腫瘍については、犬も猫も早期に不妊手術を実施すると発生率を抑えられるというデータもあるので、飼い始めの段階でよく検討してほしい」

 小林氏はさらに、定期的な体重測定をすすめている。10日に1回、月に1回でもいいので、朝の食事前などタイミングを決めて体重を測定し、変化を見るのだ。もし、普段と変わったことを何もしていないのに体重が10~20%落ちていたら、がんに限らず何らかの重たい病気にかかっている可能性があるという。かかりつけの動物病院に相談してみよう。

 ただ、がんが疑われる場合、かかりつけ医によっては、二次診療機関の受診をすすめることがある。移動時間が長くなって犬や猫の心身の負担が大きくなってしまう可能性も考慮したい。

「がんは治療期間が長期にわたりがちな疾患です。犬や猫のストレスを軽減しつつ、最適な治療を施すにはどうすればいいか、かかりつけの獣医師や二次診療機関とよく話し合うべきです」(小林氏)

 そして、ペットががんになったとき、いままで以上にふれあう時間を増やしてほしいと小林氏は考える。がんという病気を抱えた犬や猫にとって、それがストレス軽減につながり、幸せな時間となる。

「治療中は、犬や猫と遊んであげる時間をより多く取ってください。お互いにとって、いい時間を過ごすことが大切です」
(図1~図3は小林哲也氏提供)

猫の死因

1位 がん32%

2位 腎・泌尿器系疾患 23%

3位 心臓疾患 9%

4位 糖尿病 6%

 中年齢以降の発症が多いが、若齢時に見られることもある。病状が進むと、様々な合併症を起こすことがある。初期には症状があまりないが、多飲多尿が見られるようになる。食欲があるのに体重が減少する場合もある。

5位 伝染性腹膜炎 5%

痛みを示すことが多く、進行するとショック状態から虚脱状態に陥る。対症療法として輸液、抗生物質の投与、ショックの治療を行う。

犬の死因

1位 がん 47%

2位 心臓疾患 12%

3位 腎臓疾患 7%

4位 肝臓疾患 4%

 慢性肝炎や肝硬変などの慢性肝臓病、急に肝臓の機能が維持できなくなる急性肝不全などがある。症状は原因や進行の程度によって異なるが、共通して、食欲不振や抑鬱などが見られる。急性肝不全の場合はさらに嘔吐や下痢、発熱なども。

4位 てんかん 4%

 発作的に繰り返される全身のけいれんや意識障害を主な症状とする脳疾患。前兆として、落ち着きがなくなる、一点を見つめる、口をもぐもぐとさせる、感情が不安定になるなどの症状が見られる。抗てんかん薬を毎日投与することで発生を抑えることができる。

各疾患の説明は『イヌ・ネコ 家庭動物の医学大百科 改訂版』を基に作成。
死因データの出典はMorris Animal Foundation

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from AERA Mook「動物病院 上手な選び方」
AERAムック「動物病院上手な選び方」(朝日新聞出版)に掲載された、ペットの飼い主に役立つ記事を集めた特集です。
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