犬は最期、飼い主を待ってくれると言うけれど①
犬は飼い主に忠実です。彼らは「虹の橋」を渡ろうとするときも、飼い主の帰宅や、動物病院に駆けつけるのを待っていてくれる――とも言います。
本当にそうなんだろうか……。ピンが悪性リンパ腫と診断され、「治療しなければ余命3カ月」という告知を受けた2013年6月から、私はずっと〝そのとき〟のことを考えていました。
私は、読者の皆さんが想像していらっしゃるほど〝留守がち〟ではありません。特にピンを迎えた03年からは、泊まりがけの仕事は一切受けず、実は海外旅行にも一度も行っていないのです。
すばしっこいミニチュア・ピンシャーがひとたび脱走(?)を図ると、すぐには見つけられません。実際、ピンが我が家にやってきてから1年ぐらいの間に、大小の「脱走事件」が4回も起きていたので、万が一のことを思うと、ヨソに預けて何泊も家を空けることなど、とてもできなかったからです。
実は、ピンが旅立つ前日、動物病院でピンと別れたときのことを私は覚えていません。
息も絶え絶えのピンを抱えて動物病院の待合室で「大丈夫だよ、大丈夫だよ」となでながら待っていたことは、はっきり覚えています。その後、主治医ではない先生から「ピンちゃんの様子を見かねた別の飼い主さんが、山田さんの順番を早めてくださいました」と言われ、診察室に入り、若い男性の先生にピンを渡したところから、記憶が不鮮明なのです。たとえば、そのときピンがどんな顔をしていたのか、まったく思い出せません……。
その後、ピンは輸血をしていただくことになりました。適合試験をし、輸血が可能になり、その間、それまで入ったことのない「VIPルーム」のようなところに通されました。そのとき、ずいぶん前から約束していた夜の会合に行こうか行くまいか迷っていたことは、うっすら覚えています。
先生から、「何かあったらすぐに連絡しますから」と言われ、ケータイを握りしめて帰宅したのが昼過ぎ。地方に出かけていた夫に事情を説明したところ、彼は「明日の昼過ぎには戻るから」と言います。ピンの面会とココの爪切りを兼ねて、動物病院には翌日午後の予約を入れました。
その日の夜は予定通り会合に参加。ほかの参加者に事情を話し、ずっとケータイをテーブルの上に置いておくことの許しをもらいました。その晩、動物病院からの電話はありませんでした。
翌日は午前11時に様子を聞かせてもらうために電話をする約束をしていました。でもそれよりも前、ピンが「お別れ」を言いにきたのではないかと思えるような出来事がありました。
その日は日本テレビ系で「24時間テレビ 愛は地球を救う」をオンエアしていました。番組のテーマは「奇跡」でした。
女性のトレーナーさんが、30匹の犬をヒナ壇に並べ、一斉にお座りをさせる、という奇跡に挑戦していました。その中にミニピンがいたのです。その子は、他の犬が「待て」や「おすわり」ができているのに、1匹だけヒナ壇からチョコチョコと降りてきてしまい、画面からフレームアウトしてしまうのです。
「さすがミニピン(笑)。ピンもこうだった」と思いながら、私はそのことをTwitterにあげました。なんてのんきな飼い主だったのでしょうか……。
実は夫は、その前の前の晩から「ピンちゃん、死んじゃうのかな」と心配していました。そして動物病院で、順番を譲ってくださった飼い主さんから見ても、明らかにピンは余命わずかだったのだと思います。
でも私は、ピンが亡くなるとはまだ思っていなかったのです。だから、テレビでミニピンを見たときも「かわいい」と思うだけで……。このときのことを、私はいまだに後悔しています。
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