久しぶりの動物病院 足を運ばせてくれた出来事
ピンが旅立ってからというもの、ピンが最期までお世話になった動物病院の前をクルマで通るのも嫌だった私。
いや、そこの先生方は、ピンが自力での〝最後の息〟をし終えた後も、私が「わかりました。これ以上はもうけっこうです」と言うまで、代わる代わる、数十分にもわたって懸命に心臓マッサージをしてくださったんです。その後も、人工呼吸器が外されたピンの身体をキレイに拭いてくださり、ピンク色のリボンがたくさん付いた白いタオルにピンをくるんで、私たち家族に返してくださった方たちでもあります。
ピンは最期の夜をそんな動物病院で過ごしたんです。その日は、晩年のピンを最も診てくださっていた若い男性の獣医師さんが、たまたま当直でした。朝までピンの様子をしっかりチェックしてくださっていたと、翌々日になって知りました。
「ピンちゃんは、オシッコした後、ぬれたシートに座りたくないっていう顔をして、僕に訴えかけたんです」と先生……。プライドがとても高かったピンらしいエピソードだと、この原稿を書くために思い浮かべただけで、涙が出てきます。
そんな親切な方ばかりの動物病院でしたが、でもやっぱり、ピンが亡くなった場所には足が遠のいていたのです。幸い、妹犬のココはとても健康で、元気いっぱいだったせいもありますが、次に健康診断や狂犬病の予防注射をするときには、もっと近所にある別の動物病院に行こうと私は決めていました。
ところがある夜、ハンターのために救急で、ピンが通っていた動物病院の門をたたくことになってしまったのです。
自宅の仕事場で原稿を書いていると、リビングから「カリッ、カリッ」と、まるでペットボトルのふたをかんでいるような音が聞こえてくるではありませんか。「誰? 誰がイタズラしているの?」と見に行くと、まだ正式譲渡前だったハンターの様子がおかしいのです。
「カリッ、カリッ」という音は聞こえるのに、口元には何もありません。なのに口はずっと半開きで、かみ合わせが左右にズレていて、時折、前脚を口に突っ込むしぐさもしています。慌ててハンターを抱きかかえ、ケータイの電話帳に登録してあるなじみの動物病院に電話をしました。
時間はもう午後9時過ぎ。大慌ての私は、ろくな説明もできません。
「山田ピンですけれど……。あ、ピンは去年の8月に亡くなりまして……。つい先日、同じミニピンで保護犬の男の子が来たんですけど……、だから年齢はわからないんです……。推定3~5歳って言われてますけど、2歳に近い3歳だと思います……。なんか、ペットボトルのキャップを食べちゃったみたいなんですけど……」
それでも当直の副院長先生は、落ち着いたテンポで事情を聞き取ってくださり、「ハンターを連れて来てください」と言ってくれました。
タクシーを拾って気づいたのは、ハンターが恐らく〝初タクシー〟だということ。当然、パニック状態になるハンター……。「大丈夫だよ、もうすぐだよ」と言い聞かせ、背中をなでながら、ビルの2階にある動物病院への階段を駆け上がりました。
ロールカーテンが降ろされた見慣れたガラスのドアの前に立つのは、実に7カ月ぶりのことです。インターホンを鳴らすと、すぐに動物看護師さんと獣医師の先生が出て来てくださり、診察室へ通してくださいました。
「これ、あごがズレてるねぇ……」
と言う副院長先生。
(どうしよう、まだ正式譲渡にもなっていないのに、ハンターに何かあったら「the VOICE」の皆さんに何て言ったらいいんだろう……)
今度は私がパニックになりました。
が、副院長先生がハンターの口内を懐中電灯で照らしてくださった瞬間、「あ、いま、なんか見えた」と……。副院長先生がピンセットでつまみ出してくれたのは、ペットボトルのキャップではなく、家具の滑り止めのプラスチックでした。
どこに落ちているのを拾ったのか、それをカリカリとかじっているうちに奥歯に挟まって取れなくなってしまったハンター。取れた瞬間、私とハンターはいっきに安堵の表情になりました。
やっと落ち着いた私たちに対して副院長先生が、「この子は、いい子ね」「すごくキレイな顔をしている」「ピンちゃんに似ている。最初、ピンちゃんかと思いました」と言ってくださったのです。
まだハンターとは私は「慣れている」とは言い難かった頃のこと。この先、どうなるだろうと多少の不安を抱いていただけに、副院長先生にそのような言葉をかけていただき、病院を出るときには、なんだかあったかい気持ちになっていました。
そして、ハンターがまた、この動物病院の先生方に会わせてくれたのだと思ったのです。それから1週間後、今度はココも一緒に連れて、健康診断と狂犬病の予防注射、そしてフィラリアの検査のために訪れました。
ココは血液検査で色々なポイントを診ていただきましたが、1カ所も悪いところがなく、健康そのものだと言っていただきました。ホッとした半面、こんなことを考えてしまいました。
同じ父親で、同じブリーダーさんのところで生まれ、一緒に我が家で暮らしてきたのに、ピンだけ、なぜあのような重い病気になってしまったのか。ピンだけ、なぜ、あんなに早くに旅立ってしまったのか――。また涙があふれてきました。
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