不幸な犬を減らすために 4年前の文書をひもとく

行政処分だけじゃない 「在庫処分」の対象に

「殺処分ゼロ」という言葉が持つ力強さに最近、多くの人がまどわされている。私自身、拙著『犬を殺すのは誰か』でこの言葉を使っており、反省も込めて言及したい。
「殺処分をゼロに」と言えば、悪徳業者でも賛意を示す。だがこの言葉は多くの場合、地方自治体による殺処分数をゼロにするという「行政の数値目標」だけを意味している。もちろん達成しなければいけない。しかしそれは、世界的な潮流である「動物福祉実現」のための一手段である。
 行政殺処分をゼロにしても救えない、不幸な犬たちがたくさんいる。たとえば昨年9月に施行された改正動物愛護法では、第35条で「犬猫等販売業者からの引き取り」を行政は拒否できるようになった。一方で製造、流通、小売の過程で「在庫処分」などの対象となる犬が「ゼロ」になることはない。行政殺処分ゼロが達成できたとしても、闇に葬られる犬は存在し続ける。
 欧米先進国では常識の8週齢規制は、子犬が適切に社会化期を過ごせるように存在している。ところが日本では、動愛法の附則第7条によって8週齢規制が骨抜きになっている。つまり日本で生まれる子犬たちは、幼すぎる時期に生まれた環境から引き離され、そのために精神的外傷を負うという「虐待行為」を受け続ける環境にある。
 今年6月に環境省が発表した「人と動物が幸せに暮らす社会の実現プロジェクト」のアクションプランでは行政殺処分ゼロに主眼を置き、動物取扱業の規制強化などの施策はほとんど盛り込まなかった。動愛法改正後にわざわざ発表した計画としては、ちょっと物足りない。

 

4年前に立ち戻る 達成されない理由は

 実は環境省は、動物福祉実現に向けた課題設定を過去に既にしている。それが2010年6月の中央環境審議会動物愛護部会で示された「動物愛護管理法見直しにおける主要課題案」だ。「動物取扱業の適正化」をトップに掲げ、9項目に課題を整理している。部会の議事録からは、当時の政務三役以下環境省職員の高い理想に裏打ちされたものであることがわかる。この4年前の課題設定に立ち戻り、何がどうして達成されていないのか、それぞれのセクターはこれからどう課題の解決にあたるべきなのか――改めて検討してみることが、今こそ求められている。

(イラストレーション/石川ともこ)

 

(朝日新聞 タブロイド「sippo」 No.23(2014年7月)掲載)

太田匡彦
1976年東京都生まれ。98年、東京大学文学部卒。読売新聞東京本社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当した後、AERA編集部在籍中の08年に犬の殺処分問題の取材を始めた。15年、朝日新聞のペット面「ペットとともに」(朝刊に毎月掲載)およびペット情報発信サイト「sippo」の立ち上げに携わった。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』『「奴隷」になった犬、そして猫』(いずれも朝日新聞出版)などがある。
この連載について
いのちへの想像力 「家族」のことを考えよう
動物福祉や流通、法制度などペットに関する取材を続ける朝日新聞の太田匡彦記者が、ペットをめぐる問題を解説するコラムです。
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