犬ビジネスの「闇」 流通システムが犬を殺す②
都内のIT企業で働く男性(29)は2006年夏、大手ペット販売チェーンでアルバイトをしていた。勤務先は関東のロードサイド店。30歳代前半の店長と4人のアルバイトで随時約50匹の子犬を管理、販売していた。
ペット店の悲惨な現実
明るい照明でこぎれいに見える店頭の裏側、そこに子犬が13匹、段ボールに入れられていた。皮膚病にかかっていたり、店員が誤って骨折させてしまったりして「商品」にならないと見なされた子犬だった。
「もう持っていって」
8月下旬のある朝、店長がベテランのアルバイト女性にそう声をかけた。昼頃、ふと気付くと段ボールごと子犬がいなくなっていた。男性がそのアルバイト女性に尋ねると、こんな答えが返ってきたという。
「保健所に持って行った。売れない犬を置いておくより、その分、スペースを空けて新しい犬を入れた方がいい」
この後も生後8カ月のダルメシアンと奇形が見つかった生後4カ月のミックス犬を保健所に連れて行くのを目撃した。『犬は「しつけ」で育てるな!』などの著書がある堀明氏はいう。
「犬の流通システムに問題があるのは明らか。一つは流通過程での遺棄や病気を放置するなどの虐待。もう一つは、早くに親元から離されることで起きる問題行動と、そのために飼い主に捨てられる問題です」
行政もつかめない流通
犬が飼い主の元まで来る流通経路は主に3パターンある。
(1) 生産者(ブリーダー)→競り市(ペットオークション)→小売業者(ペットショップ)→飼い主
(2) ブリーダー→ペットショップ→飼い主
(3) ブリーダー→飼い主
オークションは日本独特の流通システムで、国内のペット流通の主流だ。その流通量は全体の2割とも6割ともされるが、確たるデータはない。またブリーダー、オークション、ショップなど犬の販売にかかわる業者は全国で約2万件登録されているが、所管の環境省も「実態はつかみ切れていない。私たちが把握できているのは流通経路の3、4割ではないか」。
今回、ペットオークションの業界団体に取材を申し込んだが、「内規で取材は受けないことになっている」(業界団体幹部)の一点張り。
07年度に推定110億円の売上があったペット販売チェーン大手にも、犬の流通にどのような問題があるか、取材を申し込んだが、「受けられない。断る理由もいえない」(広報担当)。
環境省が03年に公表した「ペット動物流通販売実態調査」によると、犬は年約8万9300匹(01年度)が生産されているものの、約2割が飼い主まで達していない。傘下にペット用品販売チェーンをもつ大手流通グループ幹部もこう話す。
「犬の流通はトレーサビリティー(生産履歴)が明確でなく、消費者に売る自信が持てません。生体販売への参入は現状ではあり得ない」
親離れと犬の問題行動
堀氏が指摘する犬の問題行動も、この流通システムに原因の一端が求められる。
「動物行動学的に生後8週齢ごろまでは犬としての生活を身につける社会化期。それ以前に親きょうだいから引き離されると、吠えたり噛みついたりという問題行動を起こしやすくなる」
日本動物福祉協会調査員で獣医師の山口千津子さんはそう指摘する。海外の事例をひけば、「8週齢未満の子犬は母犬から引き離してはならない」(ドイツ)、「8週齢に達していない犬を販売してはならない」(英国)などと法令等で定めている。
ところが日本では、ショップがオークションから仕入れる際の子犬の平均日齢は41・6日(環境省調べ)。流通側の事情を、大手ペット販売チェーン幹部はこう明かす。
「犬がぬいぐるみのようにかわいいのは生後45日くらい。それを超え、8週齢にもなってしまうとかわいくなくなり、競合他社に勝てなくなります」
そんな勝手な事情が不幸な犬を生む。例えば東京都動物愛護相談センターの集計では、「犬の問題行動」を理由に捨てに来た飼い主は15%にのぼる。開示資料でも「よく噛む」「吠えてうるさいと近所から苦情が来た」などという内容が目立った。
(AERA 2008年12月8日号掲載)
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