家族で力を合わせて3匹の猫を救い育てる俳優の東拓海さん 「責任をもって幸せに」
舞台を中心に活躍する俳優の東拓海さんは、3匹の保護猫たちと暮らしています。
高校1年の夏、近所の公園に捨てられていた子猫との出会いが、東さんにとっての猫とのファーストコンタクト。
愛する猫たちとの10年の物語の始まりです。
我が子のような存在
自他ともに認める猫好きでファンの中には「猫おじさん」と呼ぶ人までいるという東拓海さん。しかし本人は「おじさん」という二つ名があまりにも似合わない爽やかな青年だ。若手俳優のホープであり、稽古に励み舞台に立つ、忙しい日々を送る。
疲れて帰宅する東さんを出迎えるのが、ラッキー(10歳♀)、ハッピー(9歳♀)、シェリー(7歳♀)の3匹だ。血はつながっていないが、まるで姉妹のように仲が良いという。
「猫を飼う日が来るなんて思ってもいませんでした。将来は犬を飼いたいなと思っていたくらいで」
馴れ初めは2013年の夏だった。高校のクラスメートからサバトラの子猫の写真とともに、「猫を保護したけど誰か飼えないか」という内容のメールが届く。家族の了承を得て友人宅見に行くと、両手に収まるほどの子猫が段ボール箱の中で震えていた。真夏の公園に捨てられていたいう小さな命は、まだ目も開いていなかった。
「僕には子どもはいませんが、赤ちゃんを見る親のような気持ちになり、その場で飼うことを決断しました」
人生で初めて猫と直に触れ合った瞬間だったと当時を振り返る東さん。それほど猫は未知の存在だった。家族のみんなも迎えることに賛成したが、誰ひとり猫を飼った経験もなければ、猫に関する知識もなかった。
その夜から、家族全員での手探りの子育てが始まった。
幸運(ラッキー)がやってきた
情報源はインターネットだった。
「ミルクの温度は?」
「人間の赤ちゃんは人肌くらいだよ」
「いや猫だし!」
「じゃあちょっと温め?」
「ウンチは?」
「自力でできないからお尻を刺激してあげるらしいよ」
そんなやり取りが連日続く。最初こそ元気がない様子だった子猫も、動物病院で診てもらうと健康状態は良好。そのうちに目が開き、猫じゃらしで遊ぶようになった。
「猫ってゴロゴロと喉を鳴らすじゃないですか。初めて聞いたときに犬が威嚇するときのグルルルって音と同じと勘違いし、怒らせたのかなって思いました。でも実際には、ウチに来たときから僕らに甘えてくれて、家族として認めてくれてたんだと分かると嬉しくて」
この子に幸運が訪れるように、そしてみんながポジティブな気持ちになるようにと、東さんはラッキーと名付けた。
幸福(ハッピー)もやってきた
1年もすると、ラッキーはちょっと人見知りだけど、すっかり大人びた猫に成長した。その年の秋、今度は幼馴染の同級生から「うちの猫が産んだ子猫を引き取ってほしい」と連絡がくる。生後1ヶ月ほどのサバ白の子猫だった。
「様子だけ見に行くつもりが、実際に目の前にしたら案の定ダメでしたね。連れて帰りました(笑)」
それがハッピーだ。名前は語感で決めた。ラッキーと一緒に幸せになってほしいという願いを込めて。家族も「まあ2匹目ならいいでしょう」と、すんなり受け入れてくれた。そして再び、家族みんなでミルクを交代であげたり、トイレの世話をしたりの日々が始まる。
問題はラッキーの反応だった。
「最初は不ふ貞て腐くされた様子でした。なんだこいつ? って」
ただ元々の相性は良かったようで、子猫のころから暴れん坊かつ食いしん坊だったというハッピーが、まずはガツガツとラッキーとの距離を詰めていった。それを温厚なラッキーが受け入れる形で、数ヶ月後には毛づくろいし合うほど仲良くなったという。
「9年経ったいまなら、先住猫がいる場合の猫の迎え入れ方法について知識がありますが、当時は何も分からず。あのときああしてあげればという後悔はやっぱりありますね。仲良くなってくれて本当に良かった」
手がかかる子ほど愛しい(シェリー)
そして東さんが高校3年の冬に出会ったのが末っ子格のシェリーだ。きっかけは友人からの助けを求める連絡だった。親が働く工場で紙袋に入れられた子猫が捨てられているというのだ。飼う飼わないは別にして、すぐに駆けつけた。人の手で捨てられたであろう子猫は生後間もなく、衰弱していた。ここで保護しないと死んでしまうだろう。東さんはとにかく家に連れ帰ることにした。
「すぐに動物病院で処置をしてもらいましたが、目ヤニが酷く、ミルクもなかなか飲んでくれませんでした」
東さんが「どうしよう」と戸惑う中、両親がとったのが、子猫の排泄を促して体内の水分を減らし、ミルクを欲するようにする作戦。これが見事に的中し、子猫はミルクを飲むようになった。体のノミを駆除するためのシャンプーは母親の担当。手慣れた感じで、優しく丁寧に、そしてしっかりと洗いあげる。
「母は僕よりずっと上手なんです。まるで人間の赤ん坊を洗うようでした。ああ、自分もこうやって育てられたのかな? と思いましたね」
さて、一時預かりのつもりが、ここまで来ると事情が変わる。両親の口から出たのが「2匹も3匹も一緒でしょ」という心強い言葉だった。やっぱり親は偉大である。
「名前は言葉の響きで『ポッキー』と名付けようとしましたが、ちゃんと意味を持たせたかったので、フランス語で『愛しい』という意味のシェリーにしました」
ボロボロだった子猫は、丁寧なお世話で茶白の美猫に育った。末っ子らしくいつも上のお姉ちゃんたちに付いていく。いつの間にか長女気質が備わったラッキーが、妹分の2匹の面倒を優しく見る。ラッキーとの出会いから10年。巡り合わせのように東家に集った3匹は今日も健やかに過ごしている。
「猫って毎日新しい発見があって楽しい」と話す東さんは、決して大それたことをしているつもりも気負いもない。
「僕が大富豪なら、この世の保護猫すべてを救いたい。でも現実は難しい。僕も家族がいたから3匹を引き取れたし、出会うのも時の運です。僕にできることは、迎え入れた猫たちを責任もって幸せにしてあげることだけです」と、自然体で語った。
(文・片山琢朗、写真・安海関二)
- Higashi Takumi
- 俳優。1997年生まれ、東京都出身。ビーコン・ラボ所属。高校在学中に俳優を志し、演技の勉強をしながら現在の事務所に。2015年に俳優活動をスタートする。ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」や「おとぎ裁判」、「SANADA XI(サナダイレブン)」など数々の舞台に出演。テレビや映画にも活躍の場を広げている。
X(Twitter):@Takumi_Higashi_
Instagram:higashi_takumi.310
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