保護犬の譲渡先を決める時、保護団体がチェックすることは? ミスマッチを防ぐために
7回にわたって「保護犬の迎え方」を紹介する当連載。第4回は、保護団体がチェックする譲渡希望者の情報や、必要な手続きについて取り上げます。希望の保護犬に出会っても、すぐに迎えられるわけではありません。多くの保護団体が希望者に合う保護犬を探したり家庭の生活環境を確認したりするために、「譲渡申込書」の提出や家族との面談を必須にしています。
譲渡を受けるために審査が必要な理由
保護犬という選択肢が身近になった分、ペットショップにはない保護団体の審査や手続きに驚く人もいるかもしれません。じつは犬を迎えてから「こんなはずじゃなかった」と後悔するミスマッチの問題が少なからず起きています。ペットショップやブリーダーから迎えた犬が飼育放棄され、保護犬になってしまうケースもあるのです。さらに譲渡された保護犬が再び飼育放棄によって二次レスキューへとつながっては、保護団体の活動が本末転倒になってしまいます。
保護犬は少なくとも一度は人から見放されてしまった経緯があるため、二度三度と悲しい目に遭わないように、保護団体ではマッチングの精度を高めるために譲渡希望者の情報を申込書や面談で確認します。
たとえばキャンプが趣味の家庭には運動が好きな犬、未就学児がいる家庭には子どもとの触れ合いが苦ではなく攻撃性がない犬や人に慣れていて落ち着きがある犬、高齢者には飼い主自身の体力や体調に合わせた犬……といったように、保護団体では家族も犬もハッピーになれる組み合わせを考えてくれます。“一目ぼれ”ではなく“お見合い”を想像するとイメージしやすいのではないでしょうか。
審査とはいえ、初めて犬を飼う人や保護犬との暮らしに不安がある人には、的確なアドバイスを受けられる機会にもなります。「どうしてもこの犬を迎えたい」という強い希望がある場合も、保護団体に相談しながら準備を整えられるので心強いはずです。
まずは家庭の状況をセルフチェック
希望の保護犬に出会ったらすぐ迎え入れたくなるかもしれませんが、新たな家族になる大切な存在だからこそ、まずは家庭に犬を迎え入れられる状況かどうかを確認しましょう。以下の確認事項を例にセルフチェックをしてください。
- 現在の住居で犬を飼える
- 犬の習性をある程度知っている
- 必要な日用品やフードついてある程度知っている
- 犬を飼育できるスペースと時間があり、経済的にも問題ない
- 犬が寂しさを感じないように配慮できる(留守番が長時間ではない)
- 生涯に責任を持って飼育できる(犬の平均寿命は約15歳)
- 先住犬の不妊手術をしている
もし当てはまらない項目があれば、勉強したり対策したりしてすべてにチェックをつけられるように準備しましょう。保護犬をすぐに迎える予定がない場合も、関心がある人は必要な準備について保護団体に相談してください。
保護団体が設けている確認事項
多くの保護団体がシェルターへの見学や譲渡会への参加の前後に、譲渡希望者の情報や家庭の状況などを記載する「譲渡申込書(アンケート)」の提出を必須にしています。個人情報の提出に疑問を感じるかもしれませんが、保護犬は人から見放されてしまった経緯があるため、二度三度と憂き目に遭わないようにマッチングの精度を高める目的で使われます。逆に、優良な保護団体からは希望の保護犬に関する情報(保護された経緯、性格、既往歴など)もすべて開示され、質問にも真摯(しんし)に答えてくれます。
確認事項は保護団体によって変わりますが、おもにチェックされる情報を知っておきましょう。立ち入った答えづらい質問や記入をためらう項目があれば、面談の際に口頭で説明するのも一案です。保護団体は個人情報を集めることが目的ではないので、相談に応じてくれるかもしれません。
(1)申込者について
まずは見学や参加を申し込んだ譲渡希望者の情報を記入します。信頼できる保護団体では譲渡後もさまざまな相談にのってくれるので、普段から使っている連絡がとりやすい電話番号やメールアドレスを記入しましょう。
- 氏名
- 生年月日
- 住所
- 電話番号
- メールアドレス
- 職業 ……など
(2)希望する動物について
次に、家庭に迎えたいと思っている動物の種類や大まかな年齢を記入します。すでにウェブサイトや譲渡会で気になる保護犬を見つけている場合は、希望する動物の名前や登録番号も記入しましょう。「この子がかわいい」という見た目に加えて、「犬を迎えてどのような暮らしを送りたいか」と考えることも大切です。
- 動物の種類
- 年齢
- サイズ
- 希望する動物の名前や登録番号
- 申し込んだ理由 ……など
(3)家族について
続いて、譲渡希望者自身や家族、居住環境などの情報を記入しましょう。犬を手放す理由には「家族の反対」や「アレルギー」が多いので、家族のチェックも兼ねて確認しておくことが大切です。
- 家族構成
- メインで世話をする人
- アレルギー症状の有無
- 動物の飼育経験
- 犬を迎えることに家族全員が賛成している ……など
(4)住居について
犬のために室内の環境を安全・快適に整えられることが重要です。もし住居が頻繁に変わる状況であれば譲渡の時期を延期する必要もあるでしょう。
- 居住環境(一戸建て、集合住宅、持ち家、賃貸)
- 集合住宅や賃貸の場合、ペット飼育
- 犬を飼育するスペース(間取り図など)
- 将来的な引っ越しの可能性の有無
- 引っ越す場合の犬の処遇 ……など
(5)ライフスタイルについて
- 申込者や家族の趣味
- 休日の過ごし方
- 想定されるライフスタイルの変化への対策(入院、結婚など) ……など
単身者や高齢者には譲渡不可?
保護団体では申込書をチェックした結果、譲渡を断るケースもあります。実際に保護犬を迎えようとした人から「一人暮らしだから断られた」「60歳以上には譲渡できないと言われた」という声も上がっています。
犬にとって環境の変化は一つのストレスになるため、譲渡の際には住み慣れた自宅で飼育を継続できることが重視されます。ところが単身者と高齢者は引っ越しやライフスタイルの変化、飼い主の入院などで環境が変わる可能性が高いので、保護団体では犬がストレスを感じたり飼育放棄されたりすることがないように条件を設けているのです。
しかし「保護犬を迎えようと思ってくれた人が離れてしまうのは惜しい」と要望を聞いたうえで相談にのってくれる保護団体も少なくありません。万が一のときに犬を手放す選択肢しかないと見なされると譲渡を受けるのが難しくなるため、事前の対策を伝えて交渉してみましょう。
<単身者の場合>
・環境の変化をできる限り避ける方法を検討する
・やむを得ず引っ越す場合には、次の住居にもペット可物件を選ぶ
・残業や出張のときに犬の世話を頼める家族やペットシッターを確保する
<高齢者の場合>
・最後まで世話ができる年齢の犬を選ぶ
・自分と家族の体力や体調に合わせた犬を選ぶ
・飼い主の入院に備えて自宅で犬の世話を頼める家族やペットシッターと、ペットホテルなどの預け先を確保する
動物愛護センターや個人間取引との違い
行政が運営する都道府県の動物愛護センターでも、譲渡希望者には事前確認書の記入、もしくはセルフチェックによる条件確認を定め、ほとんどの自治体が事前講習会やしつけ方教室を開催しており、それらに参加してから譲渡を受けられるシステムになっています。
保護団体と似ていますが、譲渡後のアフターフォローには人員不足で十分に対応できない場合があり、保護団体を含むボランティアに協力を頼んでいる自治体もあります。
(環境省「子犬と子猫の適正譲渡ガイド」)
SNSや地域のコミュニティーサイトを利用した個人間取引には明確なルールがない分、手続きが簡略化されているものの、互いのことをよく知らないまま取引することになるのでトラブルが起きやすいのが問題です。犬を手軽に迎えられる方法が必ずしも幸せな結果につながらないことを知っておいてください。
保護犬を迎えるのはハードルが高いのか?
ペットショップでは子犬をすぐ連れ帰れるケースもあるため、保護団体の確認事項を知ってハードルが高いと感じた人もいるかもしれません。手順を踏む必要はありますが、譲渡希望者と保護団体の間に信頼関係ができれば家庭にぴったりの犬とマッチングできる可能性が高まるのです。
優良な保護団体では「1匹の犬や猫との出会いは結婚のようなもの」と家族と動物の幸せを真摯に考えています。大切なパートナーとの暮らしを考えたら慎重に考えるのは当然とも言えます。保護団体から犬を迎えてから5年後、10年後も親しく付き合いを続けている飼い主も少なくありません。たとえ譲渡まで時間がかかっても心強い相談先ができるのは大きなメリットではないでしょうか。
●監修=奥田昌寿(認定特定非営利活動法人 アニマルレフュージ関西)
(取材・文/金子志緒)
次回は、「迎える前の手続き」をお送りします。
(次回は11月17日公開予定です)
sippoのおすすめ企画
「sippoストーリー」は、みなさまの投稿でつくるコーナーです。飼い主さんだけが知っている、ペットとのとっておきのストーリーを、かわいい写真とともにご紹介します!
LINE公式アカウントとメルマガでお届けします。