猫と少女が外の世界へと踏み出す姿に感動! 映画『ルー、パリで生まれた猫』

 パリ生まれの子猫と少女が出会い、かけがえのない絆を築きつつも、互いに勇気を出して外の世界へと踏み出していく成長物語『ルー、パリで生まれた猫』。イノセントな瞳で大人顔負けの熱演を見せる小さな演技派女優キャプシーヌ・サンソン=ファブレスと、ルー役のキジトラ猫が絶妙な化学反応を起こし、見る者の琴線を大きく揺さぶります。

(末尾に写真特集があります)

人間や猫たちが繊細な心のあやを表現

 パリで暮らす10歳の少女「クレム」が、母猫とはぐれたキジトラの子猫を拾い、「ルー」と名付けて一緒に暮らし始めます。クレムの両親はどうやら夫婦仲が悪そうで、彼女にとってルーは、心の癒やしとなっていました。

 ある日、両親に誘われ、森の別荘を訪れたクレムとルー。好奇心いっぱいのルーは、早速“プチ脱走”をしますが、別荘の近くに住む偏屈な芸術家マドレーヌ(コリンヌ・マシエロ)に保護されます。

 森で大型犬のフリョ、別名“ランボー”と暮らすマドレーヌは、ルーの中に眠る野生ぶりに気づいているようですが、クレムはあくまでも自分の手でルーを守ろうとします。そんななか両親が離婚することを知り、ショックを受けるクレム。一方でルーは森で、ある出会いを果たし、クレムのもとを離れようとします。

 本作では、ただ純真な子ども、とても分別のある大人といったストレオタイプの優等生は1人も登場しません。それぞれが親子関係のしこり、自立心への葛藤など、生々しい問題を抱えているからこそ、見る者はいろんな登場人物に自身を投影できそう。

 また、冒頭でクレムが「これは私たちの物語。“2人”の成長の物語だ」と語るように、ルーもクレムと並び、主役的なポジションにいます。「動物の視点に立って撮影する」というスキルに長けた動物映像監督ギヨーム・メダチェフスキの演出も見事。ルー役のキジトラがクレムに寄り添いつつも、冒険心をかきたてられて、外界へと飛び出していく様が、絶妙に切り取られています。

名子役と芸達者な猫が織りなす名シーンに感動

 クレム役のキャプシーヌ・サンソン=ファブレスは、800人の候補者から選ばれた名子役で、映画出演2作目の本作で、堂々の初主演を飾りました。クレムが親の離婚問題に心を痛める様子がとてもリアルで、「こんなにつらいなら大人になりたくない」という言葉も切ないのです。

 また、ルー役をメインで演じた芸達者なキジトラには目がくぎ付けになりそう。このキジトラを演出したのは、動物行動学を学び、これまで1000作以上の作品に携わってきたフランスの動物トレーナーの第一人者、ミュリエル・ベック。キジトラは生後2カ月で撮影現場に入り、物語さながらに現場で成長していったそうです。

 全編、動物への愛に満ちあふれていますが、まずは冒頭でルーの親猫ときょうだいの子猫たちが登場するシーンで、猫好きの心をがっちりとわしづかみ。その後も、猫ならではの生き生きとした動きに、見る者はほっこりさせられそう。私も、特にルーがウインクをするシーンには瞬殺されました(笑)。

 もちろん、アクションシーンも満載です。本棚を駆け上ったり、時には天敵から隠れたり、獲物に鋭い視線を送ったりと、キジトラはかなりの演技派でした。そうかと思えば甘えるような表情ですり寄ったり、ボタンを押すとおやつがもらえるおもちゃで無邪気に遊んだりと、猫好きのツボを押さえたシーンもたくさん。

自分らしく生きることの大切さを伝えてくれる

 本作はクレムと子猫のルーがいわゆる“大人への階段”を上っていきながら、自身のアイデンティティーを模索していく物語です。そんなクレムたちを一歩離れた立ち位置から見守っているのが、クレムから「魔女」と恐れられているマドレーヌです。

 演じるのは映画、テレビ、舞台俳優として活躍するベテラン女優のコリンヌ・マシエロ。マドレーヌは自身のアイデンティティーを確立していて、クレムの母から便利な都会暮らしを勧められても、自分らしく暮らせる森での生活を続けるという孤高の人です。

 メダチェフスキクレム監督から「野生の動物を撮るようにあなたを撮りたい」と宣言されたマシエロですが、野生の恐ろしさとともにロマンも知り抜いているマドレーヌを見事に体現。後半では勇ましく銃を手に取りますが、常に自然の中で動物たちと向き合って暮らす彼女の厳しくもたくましい生き様に説得力を与えています。

 クレムはマドレーヌから人生においてとても大事なことを学びますし、猫としての自我に目覚めたルーにとっても、マドレーヌは良き理解者となります。

 また、“ランボー”というあだ名にふさわしいマドレーヌの相棒である大型犬、ナポリタン・マスティフの素晴らしい助演ぶりもお見逃しなく。

 決してこれ見よがしの生ぬるい動物映画に終わることはなく、血の通った見応えのあるドラマに仕上がっている『ルー、パリで生まれた猫』。猫好きの方だけではなく、何事かに一歩踏み出す勇気がほしい方など、多くの方にぜひ見ていただきたいです。

『ルー、パリで生まれた猫』は9月29日(金)全国ロードショー
監督:ギヨーム・メダチェフスキ
出演:キャプシーヌ・サンソン=ファブレス、コリンヌ・マシエロ、リュシー・ローラン、ニコラ・ウンブデンシュトックほか
配給:ギャガ
公式サイト:gaga.ne.jp/parisnekorrou
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山崎伸子
ライター、ときどき編集者、カメラマン。映画やドラマのインタビューやコラムをメインに執筆。趣味は旅行、酒場&酒蔵巡り、パンダグッズ集め。好きな映画と座右の銘は『ライフ・イズ・ビューティフル』。実家に帰るとやんちゃなわんこが二足歩行でお出迎え。

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