ゴールデンレトリバーの故郷スコットランドにゴールデンレトリバーが集まった
ゴールデンレトリバーの故郷スコットランドにゴールデンレトリバーが集まった

数分のために世界中のゴールデンレトリバーが集結 466匹の集合写真どう撮った?

 ゴールデンレトリバーの一大イベントがあると知った、映画監督・作家の山田あかねさん。ご自身も3匹のゴールデンレトリバーと暮らしてきた愛犬家でもあります。そんな山田さんが、イベントを尋ねてスコットランドへ出向いた記事の後編です。

(末尾に写真特集があります)

ゴールデンの一大イベント

 みなさま、犬や猫の写真をどのように撮影していますか?

 かわいい表情をとらえたり、何げない動作を写したり、ついついたくさん撮ってしまいますよね。

 しかし、カメラを向けた瞬間にあらぬ方を向いたり、動いてしまったりと失敗も多いはず。1匹や2匹でもベストショットを撮るのは難しいのに、それが400匹も集まったら?

 400匹の犬の記念撮影なんてできるんでしょうか?

 そんな大イベントを取材してきました。

 前編でご紹介したように、ゴールデンレトリバーの故郷は、イギリスのスコットランド。5年に一回、最初にブリードした貴族の城跡、グシカンハウスに世界中からゴールデンレトリバーが集まるイベントがあります。今年は7月10日(月)から5日間開かれました。

 イベントの目玉は参加したゴールデンレトリバー全頭による記念撮影。前回(2018年)は361匹が集まったのですが、今年はそれを越えて466匹になりました。

ゴールデンレトリバー像

 撮影場所はツイードマス卿という貴族のお城があった場所です。現在は城壁しか残っていないのですが、広大な敷地にそびえ立つれんがの城跡は壮大で、当時の繁栄が偲(しの)ばれます。

 ここで最初のゴールデンレトリバーが生まれたんだなー、私と暮らしてきた犬たちのDNAはここで誕生したんだと思うとしみじみしました。

 集合時間は12時ですが、記念撮影までにはたっぷり時間がありました。犬とピクニックしてランチを食べる人、周辺を散歩させる人など自由に楽しんでいます。

愛犬とピクニック

 その後、飼い主と犬とのゲーム大会がありました。飼い主が投げたボールを犬が取ってくる競技や飼い主同士の綱引きなどなど。ハギス投げというスコットランド伝統の砲丸投げみたいな競技もありました。ハギスとは、羊の肉でできた丸いソーセージみたいなもので、これを投げて、飛距離を競うんですね。どの競技も勝ち負けや記録より楽しむことが優先で、ボールを追いかけていった犬がちゃんと戻って来なかったり、ボールとは違う方向に走り出す犬がいても、会場は大笑いに包まれていました。

 今、考えるとこれらの競技は、ゴールデンレトリバーたちに少し疲れてもらうのが目的だったかもしれません。飼い主と一緒に遊び、広い敷地を走りまわることで、充分満足してもらい、記念撮影の時、おとなしく座ってもらう。ここからすでに準備が始まっていたのかもしれません。

466匹のゴールデンをどう撮る?

グシカンハウス

 15時過ぎ、いよいよ466匹の記念撮影の始まりです。撮影場所はグシカンハウスの前。スコットランドゴールデンレトリバークラブのメンバーがロープを使って、撮影場所を仕切ります。次に飼い主には、長い金具のようなものが配られます。キャンプなどでテントを固定するために使う打ち込み棒でした。この打ち込み棒を使って、犬をつなぐんですね。

 飼い主たちは打ち込み棒を手に、仕切りの中へ入り、好みの場所を見つけます。自分の犬がどの位置で記念写真に写るか、なかなか悩みますよね。私はお城の直前に行ってみました。それぞれの飼い主が棒を地面に打ち込んでいました。体重3~40キロのゴールデンレトリバーをつないでおくのですから、抜けないようにしないといけません。

 打ち込み棒が固定できたら、そこに犬をつなぎます。3〜4匹を一度につないでいる人もいました。犬たちを落ち着かせ、飼い主はその場を離れる合図を待ちます。周り中は犬だらけですから、興奮する犬もいました。

 いよいよ号令がかかりました。

「犬を置いて、すみやかに外に出てください」

 スコットランドゴールデンレトリバークラブのメンバーがマイクで繰り返します。飼い主たちは犬に「いい子に待っててね、すぐ戻ってくるよ」と声をかけ、そっとその場を離れます。

 とにかく時間との闘いです。犬にストレスを与えないため、撮影時間は数分です。センターに陣取ったメインカメラマンが脚立に上がって、カメラを構えます。

飼い主たちが仕切りの外で見守る中、466匹のゴールデンレトリバーたちが鎮座しています(もちろん、座っていない子もいますし、隣の犬にほえる子、落ち着かずに動く犬もいました)。

「撮りますよ!」

 カメラマンの号令で、シャッターが切られていきます。ほんの数分のことでした。私も必死で何枚か撮りましたが(同時に動画も撮りました)、ホントに一瞬のシャッターチャンスでした。

466匹の記念写真(c)small hope bay production

「飼い主さん、戻って」

 次の号令で飼い主は犬の元へ。このわずか数分のイベントのために、世界中から駆け付け、何日も準備するとは……! ゴールデンレトリーバーへの愛の深さとメンバーたちのユーモアに、思わず笑ってしまいました。

 これも犬好き、猫好きあるあるですよね。撮影をしていていつも思うのは、人は愛するもの、好きなものを撮るんです。撮りたいものなんです。あなたの写真フォルダーを埋めるものがあなたが一番好きなものですと言いたいくらい。もちろん、私の写真フォルダーには、うちの犬たちがもっとも多く登場します(笑)。

山田あかね
テレビディレクター・映画監督・作家。2010年愛犬を亡くしたことをきっかけに、犬と猫の命をテーマにした作品を作り始める。主な作品は映画『犬に名前をつける日』、映画『犬部!』(脚本)、『ザ・ノンフィクション 花子と先生の18年』(フジテレビ)、著書『犬は愛情を食べて生きている』(光文社)など。飼い主のいない犬と猫へ医療費を支援する『ハナコプロジェクト』代表理事。元保護犬のハル、ナツと暮らす。

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