野犬の子のシェルター、ボスは元捨て猫「コタロウ」 子犬と遊び、時には眼力でしつけ
「野犬の子」と呼ばれていた犬たちや捨て猫たちを預かる個人シェルターが千葉県市川市にある。犬猫を束ねる長は、元捨て猫のコタロウ(7歳♂)だ。子猫を育て、子犬の遊び相手にもなり、やんちゃが行き過ぎる時は眼力一つでしつける彼は、みんなの敬愛の的である。
いつもみんなの真ん中に
「home for paws(ホーム・フォー・パウズ)」は、市川市で家族と暮らす加藤紗由里さんの個人シェルターの名だ。譲渡までを預かる犬は、みな野犬、もしくは野犬の母親から生まれた子である。保護した猫たちもいて、にぎやかに共同生活を送っている。
春めいた一日、シェルターを訪ねると、ワシャワシャと野犬の子たちが迎えてくれた。常時10匹近くいるという野犬の子のパワーはすさまじい。あっという間に、子犬とは思えぬ力でもみくしゃにされる。
はしゃぐ彼らを、一段高い段の上から、眼光鋭く見渡している猫がいた。焦げ茶色の凛々しい長毛猫だ。これぞ、シェルター長のコタロウである。
紗由里さんは言う。
「犬たちにとって私は寮母さん的存在。でも、コタロウはここのれっきとしたリーダーでありボスであり、シェルター長です。みんなコタロウを怒らせたら大変だと思ってる。でも、大好きだから遊んでほしい。で、のべつみんなして寄っていくんです(笑)」
体一つで、元気すぎる子たちを、どうやって統率するのか。その日、コタロウは敬愛される長の働きを目の当たりにさせてくれた。
やんちゃな子猫時代
コタロウは、紗由里さんの長年の友人「福田くん」に茨城県で保護された猫である。公園の自転車置き場に、段ボール箱に入れられてきょうだい3匹で捨てられていた。福田家でチワワのショコラお父さんに愛情深く育てられたコタロウを迎えたのは、2016年の9月。いつも保護活動を手伝ってくれている長男の久蔵くんと次男の玄蔵くんも賛成してくれて、初めて迎える猫だった。
だが、やってきた夜、一緒に寝た玄蔵くんの布団におしっこを盛大にしたり、久蔵くんの制服にうんちを隠したりと、いろいろやらかす猫だった。
「最初からデキたリーダーではなかったんです。次々と新入りが来て、どんどん落ち着いた頼れるリーダーになっていって、びっくりです」と、玄蔵くんは感慨深げ。
シェルターには、週替わりのごとく、卒業しては、新入りも入ってくる。昨年1年間で送り出した犬猫は37匹にもなるという。
初代から役を受け継ぐ
動物の団体生活で、いいリーダーがいることは必須だ。シェルターを始めるきっかけとなった初代リーダーは、愛護センターに収容されて殺処分当日にレスキューされた柴犬の「このは」だった。その老年期に、シェルターにやってきた初めての猫であるコタロウを慈しんで育ててくれた。2年前の夏にこのはが亡くなるまで、コタロウはいつも添い寝をして介護を尽くした。
このはからシェルター長を引き継いだコタロウは、天職とばかりに、みごとな働きぶりを発揮する。威厳があるが威張らず、分け隔てもないので、野犬の子たちが一目置くのだ。コタロウのあとから、やはりセンターにいた柴犬の「こみみ」がやってくると、リーダーはふたり体制となったが、毅然たるシェルター長としての貫禄はコタロウだけのものである。
厳しいしつけも
コタロウは、シェルターにしている居間のある1階と、2階とを自由に行き来している。ゆっくり寝たい時は玄蔵くんの部屋などにいるが、たいていは、犬たちの真ん中でどっしり構えている。周りがどんなに騒がしくとも、全く動じない。
「新しくどんな犬が来ても猫が来ても、すべて受け入れますね。子猫が来たら、遊び相手も添い寝もします。犬も猫も相手が小さいうちは高いところから垂らしたシッポを揺らして遊ばせてやります。子犬が噛みついて遊んでもまるで怒りません」と、紗由里さん。
ところが、卒業までの教育も請け負うシェルター長の面目躍如たるところは、子犬たちに「行き過ぎ」があった場合だ。痛いほど噛むと、「いい加減にしなさい」「それ以上やると怒るよ」と、にらみつける。その眼力だけで、相手は目を伏せる。机の上の食べ物を取ろうとするなどお行儀の悪い時も同様だ。
高い座にいて、下のほうで犬たちのふざけが過熱しすぎて収拾がつかなくなりそうな時がある。雲行きを察したコタロウは、悠然として真ん中に降臨する。一瞬にして座を鎮め、「ボス、遊んで、遊んで」と追いかけられる役を買って出るのだ。
「私から『やさしくしてね』とか言ったことは一度もないのに、犬猫の種を超えて新入りを可愛がり、教育し、愛情を循環させていく。本当にすごいと思います」と、紗由里さんも日々感動の連続だ。
コタロウの功績
シェルター長の仕事はそれだけにとどまらない。
「犬を飼っているけれど、猫も迎えたい」という家庭や、「猫を飼っているけれど犬も迎えたい」という家庭への譲渡がとてもスムーズになるということだ。ここでの犬猫共同生活を経た犬たちは、猫への手加減や愛情表現を覚える。猫たちは、犬にフレンドリーになり、警戒心を持たない。コタロウがツボをしっかり押さえて、叩き込んでいるおかげであろうか。
そして、現在高校3年生の玄蔵くんは、こんなことを言う。
「僕は読書が好きなので、学校で変わり者扱いされることもありました。でも、家に帰ると動物たちがいつもいたので、全然さびしくなかった。今も、気持ちが落ち込む日もあるけれど、コタロウがそっとそばに来て寄り添ってくれます」
「そうそう、疲れた夜はフミフミマッサージで、心地よい眠りにいざなってもくれるよね」と、紗由里さん。
愛情深く賢く働きもののボスに見守られ、シェルターは、今日も楽しくにぎやかだ。
(文・写真 佐竹茉莉子)
home for paws
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