「ここで野宿してもいいのかな」(小林写函撮影)
「ここで野宿してもいいのかな」(小林写函撮影)

野菜とササミでとった手作りスープ! 愛猫「はち」の定番おやつはいいこと尽くめ

 元野良猫「はち」を家に迎えて1年と5カ月が過ぎて初夏になった頃、私ははちの歯みがきを始めた。

 まずは口の周りをさわることからスタート。徐々に慣らし、1カ月後には、ほんの数秒だがガーゼを巻いた指で歯をみがけるようになった。

 今のところ、はちは私の指を噛(か)んだりもせず、頑張ってくれている。そんなはちに、ごほうびとしての「おやつ」をあげることにした。

(末尾に写真特集があります)

おやつに手作りスープ

 とはいえ、せっかく歯をみがいたのに、歯を汚すようなおやつでは意味がない。

 調べると、歯みがき後に与えても問題のない、デンタルケア用途も兼ねたフードも市販されているようだ。だが、与えすぎると当然、カロリー過多になる。せっかくダイエットがうまくいったはちには、その点が心配だ。

 そんなとき、猫を飼っている知り合いの男性から「手作りスープ」の話を聞いた。

 彼は、2匹の愛猫のため毎日の食事を手作りしていた。鶏ムネ肉やササミなどの肉類、米などの穀類、野菜をそれぞれ調味せずにゆで、小分けにして冷凍し、毎日、規定の量を解凍して与えているという。

 その際、ゆで汁も冷凍してストックしており、それが、おやつがわりのスープとして重宝するそうだ。

「うしろすがたのしぐれてゆくか」(小林写函撮影)

 このスープを猫が飲むようになれば、水分補給にもつながる。猫は、祖先が水の少ない砂漠で生活していたため、水をあまり飲まなくても生きていける動物といわれる。だが、水を飲まないと腎臓に負担がかかりやすく、それが、猫が慢性腎臓病になりやすい原因ともいわれる。

 予防のためには、毎日水分をしっかり摂取することが必要だ。スープがあれば、それを習慣化できる。また高齢になり脱水症状を起こしたときなどにも、症状の緩和に役立つ。

 ごほうびのおやつ以上の効果が望めそうな手作りスープ。これなら安心安全、歯にもあまり影響がなさそうだし、普段から間食として与えることもできる。

 早速、作ってみることにした。

「シュレディンガーの猫なんかいいからさ、うちの猫と遊べば」(小林写函撮影)

 本で調べ、キャベツ、ニンジン、カボチャなど、猫が食べても害のない野菜を選び、鶏ササミを用意。ご飯ではなく、スープをとることが目的なので穀類は省き、材料は全部一緒に鍋に入れ、水を適当に入れて火にかけた。ササミは火が通ったら取り出し、野菜はくたくたになるまでゆで、こして野菜とスープを取り分け、野菜はハンドブレンダーでピュレ状にした。

 はちの食器に、スープを大さじ1程度注ぎ、野菜のピュレとほぐしたササミを添える。スープはまだほんのりと温かく、おいしそうな匂いが立ち上る。

「さあ、今日はおばちゃん特製のおやつがありますよー」

 寝ているはちのところへ、私はいそいそと運んだ。

音を立てながら器を空に

 知り合いの話によると、ドライフードの匂いと味に慣れきった猫は「無添加で自然」なものを警戒する場合も多いという。知り合いの家の猫たちも、手作り食には最初はまったく口をつけず、食べても吐き出す日が続いたそうだ。

 はたしてはちは、鼻をピクリと動かして目を開け、むっくりと起き上がった。鼻先に置いた器の中の匂いをちょっとかぐと身を乗り出し、ぺちゃぺちゃと音を立てながら器を空にした。

「そろそろ放浪の旅に出ようかな」(小林写函撮影)

 さすがは、食べ物にはこだわりのないはちだ。試しにササミは除き、野菜のピュレとスープだけを与えてみると、それも平らげた。私は嬉しくなり、すぐに離乳食を小分けにして冷凍保存するための容器を買いに行き、スープ、野菜のピュレ、ササミをそれぞれ分けてストックした。 

 しかし、はちにもそれなりに味の好みはあるらしい。

 その翌日、解凍したスープと野菜のピュレを与えたが、ちょっと匂いをかいだだけで口をつけなかった。

 電子レンジで温めてもみたが、見向きもしない。

 ササミをのせると、ササミだけを食べてほかは残した。 

 結局、目当てはササミなのか。昨日はできたての匂いにつられて野菜のピュレもスープも完食したが、本当はこれらには興味がないのかもしれない。

 だが、試しにスープにササミを少し混ぜて与えてみると、今度は両方とも平らげた。

 その後、数日にわたっていろいろなパターンを試した。スープに野菜のピュレを混ぜてポタージュ風にしてみたり、お湯にササミを浮かべただけのものを出したり、ササミをゆでてそのゆで汁を与えてみたり。

定番おやつが決定!

 結果、「野菜とササミでとったスープにササミをトッピングしたもの」がはちのお気に入りであることが判明。

 こうして「大さじ1程度のスープにササミトッピング」が、はちのおやつの定番となった。

「おじちゃんさ、野宿なんかできないでしょ」(小林写函撮影)

 ササミも、与え過ぎはよくない。トッピングするのはごく少量、香り付け程度にとどめ、メインはスープにすることが重要だ。

 使い道のなくなった冷凍した野菜のピュレは、人間用のスープに入れることにした。それをツレアイに話すと、こう指摘された。

「猫のためにわざわざ人間が食べる野菜をゆでて、こっちはだしがらを食べさせられるなんて。だしをとるだけだったらクズ野菜を使えばいい」

 そこで次からは、調理の際に出たキャベツやニンジン芯、カボチャの皮などを冷凍してストックし、ある程度たまったらスープの材料にすることにした。

 さて、このおやつによって歯みがきが劇的に進歩したか、というと、そうでもない。

 猫の歯みがきは、想像以上に難関だった。

(次回は7月7日公開予定です)

【前の回】時は来たり! ダイエットも落ち着き家にも慣れた元野良猫「はち」の歯みがきに挑戦

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
続・猫はニャーとは鳴かない
2018年から2年にわたり掲載された連載「猫はニャーとは鳴かない」の続編です。人生で初めて一緒に暮らした猫「ぽんた」を見送った著者は、その2カ月後に野良猫を保護し、家族に迎えます。再び始まった猫との日々をつづります。
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