人よりも発症率が高い犬の脳腫瘍、より負担が少ない治療法を 研究のため支援募る

犬の脳腫瘍の新たな治療法に取り組んでいる(長谷川教授提供)

 犬の脳腫瘍(しゅよう)の新たな治療法の研究に、獣医師でつくる研究チームが取り組んでいる。研究が進めば、現在の治療法より犬や飼い主にとって負担が少ない治療の選択肢が生まれる可能性がある。現在、研究に必要な資金をクラウドファンディングで募っている。締め切りは、5月31日午後11時だ。

脳腫瘍は5歳以上の犬に多い

 取り組んでいるのは、日本獣医生命科学大学の長谷川大輔教授が代表を務め、全国の大学や動物病院のメンバーが参加するプロジェクトチームだ。

 犬の脳腫瘍は人間よりも発症率が高く、主に5歳以上の犬に多いという。 症状は、てんかん発作、性格や行動の変化、旋回やふらつきなどで、最終的には昏睡(こんすい)状態や、発作がとまらなくなったり衰弱したりする。積極的な治療を行わない場合、一般的には発症または診断から1カ月からおおむね半年で死亡するか、安楽死をせざるを得ないという。

 積極的治療は、主に①摘出手術、②放射線治療、③抗がん剤治療、の3つがある。現在最も有効とされているのは、手術をし、その後取り切れなかった脳腫瘍に対し放射線治療を行う方法だという。この場合、手術後の放射線治療は、週3回を4週間続けるのが一般的だという。すると放射線治療のために月に12回、犬に麻酔をかけなくてはならない。麻酔は犬にとってストレスがかかるだけでなく、体への負担も重く、命を失うリスクもある。加えて放射線治療を行うための医療機器を持っている動物病院は限られており、居住地によっては地元の病院では受けられないこともある。

 また一般的に抗がん剤は注射や飲み薬だが、脳だけでなく全身に作用して重大な副作用が出やすいほか、脳に届く抗がん剤の量が少なくなってしまうという。

抗がん剤が直接、脳腫瘍に届く

 長谷川教授のチームが研究しているのは、手術で脳腫瘍をできるだけ取りの除いたあとに、ゆっくりと溶け出す抗がん剤である「カルムスチン脳内留置用剤」を脳内の脳腫瘍を取り除いた場所に置き、縫合して手術を終えるという方法だ。脳内に薬を置いてくるため、直接抗がん剤が脳腫瘍に届くほか、抗がん剤を飲んだり注射したりした場合に比べ、全身への副作用が少ないと考えられるという。

 カルムスチン脳内留置用剤は人間向けの薬だ。長谷川教授によると、人間用の薬は動物用の薬に比べて、圧倒的に数が多くまた価格も安い。獣医師は特別な場合、人間用の薬を動物に使うことが認められているという。

 カルムスチン脳内留置用剤は、すでに人間の脳腫瘍の治療で用いられている。一方、犬に使った場合の安全性は確認されていない。そのため、犬に対するカルムスチン脳内留置用剤の安全性や副作用、薬の効果を研究で確かめる。

 もしカルムスチン脳内留置用剤がとてもよく効けば、手術後の放射線治療はしなくても良くなるかもしれない可能性がある。または、手術後1~2カ月後から放射線治療を開始しなくてはならなかったところ、例えば半年後や1年後に延ばすことができるかもしれない。すると飼い主は医療費を連続して支払うことを回避できるほか、犬が長く生きられる可能性にもつながる。

 現在、研究チームは、カルムスチン脳内留置用剤を購入するための寄付を募っている。研究対象は、事前のMRI検査で脳腫瘍を完全に切除することは難しいと診断され、かつ手術を希望した飼い主家族と愛犬だ。手術費用は飼い主家族が支払うが、カルムスチン脳内留置用剤は研究チームが寄付を集めてまかなう。

 症例報告としては、より信頼性の高い10例以上を学術論文や学会発表で公表することを目指す。寄付が710万円集まれば12例が実施可能になるという。この新しい治療法の成果を公表することで、最終的には他の選択肢よりも、犬や飼い主にとって負担が軽い治療が可能になるかもしれない。

 長谷川教授は「ご家族と愛犬の負担を少しでも減らせるように、そして理にかなった脳腫瘍の治療ができるように、研究に取り組んでいきたい」と話している。

 プロジェクトの支援はこちらから。締め切りは5月31日午後11時。

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sippo編集部が独自に取材した記事など、オリジナルの記事です。

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