家庭内野良猫が窓から脱走 捕まえられず捕獲器をしかけたら思わぬ “おまけ”が…

 「大切なペットが脱走した!もう戻ってこないのでは……」そう感じている方に知ってほしい。逃げた犬や猫の帰還ストーリーと、経験者に聞く保護のアドバイスです。

(末尾に写真特集があります)

愛猫が網戸を破って脱走した

脱走劇を起こしたトノ(下)とその兄妹猫のヒメ(吉村さん提供)

【逃げたペットについて】
名前:トノ
性別:オス
種類:MIX(茶トラ)
年齢:当時推定6カ月
いなくなった場所:自宅の一軒家
理由:家族が窓を開けていたら破れかけの網戸から出て行った
時期:6月の日中
保護までの日数:7日間

 トノは子猫のころ、兄妹猫のヒメとともに保護され、2匹そろって吉村家に引き取られた。人慣れしないまま人間と暮らしはじめたため、2匹は人に懐かない“家庭内野良猫”。いつも猫だけの世界を作り、吉村さんたち家族をシャットアウトしていた。

 トノが逃げたのは、生後半年を過ぎた頃。吉村さんの夫が換気のために開けた窓からヒメが外をのぞき込んでいるところを発見し、見てみると、もともと破れかけていた網戸が完全に破られていた。

 慌てて外に飛び出し家の周りを捜索すると、裏庭に見覚えのある姿を発見。しかし、名前を呼びながら近づいていくと走り去ってしまった、と言う。

 ここまでの経緯を夫のLINEで知った妻の吉村さん。

「夕方になってやっと帰宅できたので、家の車庫に餌を置いて、すぐに近隣に事情を話しながら町内を探し回ったんですよ。その時は見つからなかったんですが、夕方になったら車庫にトノが現れました。私は必死で『トノーーー!』と呼んでのですが、いかんせん懐かない子だったので車の下に入って出てこず。結局その日は、とり逃がしてしまいました」

近くにいても捕まえられない

トノのお気に入りのハンモック(吉村さん提供)

【いなくなった時にしたこと】
・近隣への聞き込み
・近所の捜索
・ガレージに餌を置く

 吉村さんは「トノは遠くへ行かない」という確信があった。その直感通り、連日の捜索でトノは必ず姿を現した。問題なのは捕獲だ。

「なんせ家庭内野良猫ですから。おやつで釣ろうと手を伸ばせばスルリと逃げてしまう」

 それでも毎日ガレージに置いていた餌は減っていたので、安心感はあった。「変なものは食べず、飢えてもいないはず」。しかし4日を過ぎ、5日を過ぎても捕まらないと、内心焦りが出てきた。

「時期的に暑くなってきていたし、車も心配。早く保護しなきゃといろいろ考え、知り合いの保護活動をしている方を思い出したんです」

 吉村さんは、個人でTNR活動をしているその人物に会いに行き、捕獲器を貸してほしいと申し出た。事情を聴いたその人物は、ある約束を条件に、2台の捕獲器を吉村さんに貸してくれた。

 吉村さんは家に帰り、さっそく借りてきた捕獲器をガレージに仕掛けた。保護活動家のアドバイスを受け、餌は匂いの強いからあげを仕掛けたという。この捕獲器が、吉村家に思わぬ出会いをもたらすことになる。

見たことのない猫が…

捕獲器にかかった野良の子猫(吉村さん提供)

「設置してから数時間で、捕獲器の扉が下りる音が聞こえました。期待して見に行くと、かかっていたのは見たこともない野良猫だったんです」

 吉村さんは、捕獲器の中の猫が近隣の飼い猫ではなく、耳をカットされていないことを確認、そのままトノとヒメのかかりつけ病院に連れて行き、避妊・去勢手術を受けさせることにした。

「『もし野良猫がかかったらTNRをすること』というのが、貸してくれた方との約束でした。費用はその方が負担してくれました」

 予想外だったのは、“トノ以外の猫”が次々と捕獲器に入ったことだった。以前近所で見かけたことのある、白黒の子猫もかかった。近隣の飼い猫がかかった時をのぞいて、他の野良猫はすべて約束通り病院に連れて行った。

傷だらけで帰宅したトノ

捕獲器に入ったトノは傷だらけだった(吉村さん提供)

 捕獲器を置いたのが7月1日、それから丸2日間で、2台の捕獲器には合計5匹の猫がかかった。思わぬフル稼働となり、近隣のTNRには一役買ったものの、肝心のトノが入らず複雑な気持ちだったと吉村さんは話す。

「近所にこんなに野良猫がいたなんてまったく気づかなかったし、もしかしたらガレージの餌を食べていたのはトノじゃなかったのかも、と思いはじめました」

 しかし、捕獲器を置きはじめて2日後、トノはついに御用となる。

「私が職場で夫からのLINEを開くと、『トノがかかった』と写真付きで送られてきていました。顔は見るも無残な傷だらけ、付けていた首輪も外れていました。体もやせ細り、やはりえさは食べられていなかったんだと思いましたね」

 トノは家族であっても触らせないため、吉村さんの夫は捕獲器のまま風呂場に運び、餌と水を与えた。トノが鳴くと、トノの帰還に気づいたヒメが鳴き出し、しばらくの間共鳴していたという。

「帰宅してかかりつけの獣医のところに連れて行くと、顔のケガはケンカや虐待ではなく、どこかに登ろうとして引っ掛けたのだろうと言われました」

捕獲劇の“おまけ”

トノの脱走をきっかけに吉村家の一員となったテン(吉村さん提供)

 抗生剤を打たれ帰宅したトノは、2日程しょげた様子だったものの、すぐにいつものふてぶてしい様子に戻った。トノがいなくなっている間、どことなく元気がなさそうに見えたヒメは、保護時の共鳴以降、戻ってきたトノを見ても大きなリアクションはせず、「我、関せず」といった様子だったという。

 ところで、トノの脱走事件には吉村家にとって思わぬ“おまけ”があったことを忘れてはならない。

「捕獲器にかかった白黒の子猫はいま、 我が家の一員として暮らしています」と吉村さん。名前は「テン」と名付けたそうだ。

「テンは捕獲器にかかったとき、推定2カ月でした。『こんなに小さい子を外に戻すなんてできない』と夫を説得し、なし崩し的にそのまま家で飼うことに。本心ではこれ以上猫を増やしたくない夫も、トノを逃した負い目があったのか反対することはできなかったようです(笑)」

 テンは、トノ&ヒメとは対照的な甘えん坊に育った。

「トノ&ヒメも家族の一員として大切に思っているけど、私は大の猫好きなので、やっぱりできたらなでなでしたい。いまだにシャーシャーの2匹だけだったら心が折れていましたが、甘えん坊のテンがいてくれることで心が保たれていますね(笑)」

迷わず捕獲器を使ってほしい

現在では、少しだけ家族との距離が縮まった(吉村さん提供)

【猫探しの教訓】
・網戸は信用するな
・脱走したら、悩まずに捕獲器

 今回、トノの保護にTNRにと大活躍した捕獲器だが、当初、吉村さんは捕獲器を仕掛けることに迷いがあったという。

「捕獲器って怖いイメージがあって、自分のうちの猫が捕獲器に入るのは、やっぱりちょっと抵抗があったんです。でも、あんなに早く捕まるならさっさと借りていればよかった。最初から使っていたら、トノはもっと早く家に帰って来られたと思います。今、飼い猫を探している方は、自力で頑張ろうとせず暑くなる前に捕獲器を使ってほしい。地域で活動している保護団体や個人の保護活動家などに問い合わせれば貸してもらえることがあるし、捕獲に関するアドバイスももらえると思いますよ」

 脱走対策については、家族みんなでルールを設けた。

「今回は戻ってきたからいいけれど、もう2度とこんな事件が起きないように家の窓は開けないことを徹底しています。換気がしたくなったら換気扇の一択! 夫にも徹底してもらっています」

 吉村さんの夫の言葉を借りると、捕獲直後は「より野良感が増した」トノだが、現在は少しずつ、家族との距離が縮まっている。

「最近は、ごはんを食べているときに背中をなでさせてくれるようになりました。相変わらずつれないけれど、少しは家族だと認識してくれてるのかな」

 トノのような家庭内野良猫でなくとも、いったん外に出てしまうと興奮状態で野生化してしまう飼い猫は多い。近づいたり、素手で捕獲するのが難しいと感じたら、遠くに行ってしまう前に捕獲器を検討してほしい。正しく使うことで、愛猫を安全かつ速やかに保護できるかもしれない。

【前の回】マンションで愛猫が脱走し警察が保護 パニックになった飼い主がとった行動は

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原田さつき
広告制作会社でコピーライターとして勤務したのち、フリーランスライターに。SEO記事や取材記事、コピーライティング案件など幅広く活動。動物好きの家庭で育ち、これまで2匹の犬、5匹の猫と暮らした。1児と保護猫の母。猫のための家を建てるのが夢。

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この連載について
迷子のペットが帰ってくるまで
「大切なペットが脱走した! もう戻ってこないのでは……」そう感じている方に知ってほしい、逃げた犬や猫の帰還ストーリーと経験者に聞いたお話です。
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