猫の「TNR+M」を知ってほしい 術後も猫が過ごせる不妊去勢病院の設立を目指す

命に優しい不妊去勢専門の動物病院設立を目指す(彩の猫提供)

 飼い主のいない猫を増やさないために、捕獲し(Trap)、動物病院で不妊去勢手術を受けさせ(Neuter)、元いた場所に戻す(Return)活動は、英語の頭文字をとって「TNR」活動と呼ばれる。多くの場合、手術を受けた当日に退院し、すぐに元いた場所に戻される。しかし、術後に傷口が開いてしまったり、術後すぐに不衛生な環境に戻すことで健康状態が悪化してしまったりする恐れもある。だが再び捕獲することは難しく、たとえ健康状態が悪くなっても何もすることができないことがほとんどだ。この状況をなんとか変えようと、手術後に猫が一定期間を過ごせる部屋を備えた動物病院の設立にむけて、埼玉県の動物愛護団体がクラウドファンディングに取り組んでいる。2月28日午後11時まで。

(末尾に写真特集があります)

高齢や病気の猫も分け隔てなく保護

 クラウドファンディングに挑戦しているのは、埼玉県南部を拠点に活動する一般社団法人「彩の猫」(さいのねこ)だ。2015年に個人ボランティアが集まって活動を始め、2019年に法人化した。保健所などの行政機関に収容された猫を引き出して、新しい飼い主を探す活動をしている。猫たちを殺処分から守る「最後のとりで」として、譲渡先がみつかりにくい高齢だったり病気だったりする猫も、分け隔てなく受け入れている。2022年は216匹を保護し、156匹を譲渡した。

外で暮らす猫(彩の猫提供)

 同団体が発足当時から大事にしてきたのは、不妊去勢手術の後のケアだ。手術後、オスならば最低3日、メスならば最低1週間以上を室内で過ごさせて、体調が回復してから元いた場所に戻すという。

「彩の猫」代表の堀口みゆきさんは、「動物病院で1泊させてくれる場合もあるが、多くは即日退院となる。退院後は、すぐに元いた場所に戻されるケースがほとんど」と話す。その理由として、感染症のリスクがあるため野良猫と飼い猫を一緒に過ごさせることは難しく、そのため動物病院側も保護した人も、スペースが確保出来ないことなどが挙げられるという。また外で暮らす猫を術後に室内で過ごさせるのは、猫のストレスになると考える人もいるだろうと語る。

 ただ、手術後すぐに元にいた場所に戻すと、体調が急変したり縫合した箇所が開いてしまったりしても、ケアすることは難しい。堀口さんは「TNRは、人間が猫の繁殖制限のために行っている。手術後にすぐに元いた場所に戻すのでは、猫の体へのリスクが見過ごされている。増やしてはならないということにとらわれて、猫の命を危険にさらすようなことがあってはならないのです」と話す。

外で暮らす猫(彩の猫提供)

「幸せに暮らせない猫があまりに多い」

 そもそも、なぜTNRが必要なのだろうか。「猫が幸せに暮らせるのならいいのですが、そうでない猫があまりにも多すぎるのです」と堀口さんは話す。「ある野良猫は、吐いたもののなかに大量の虫や土がまじっていました。空腹のあまり口にしたのでしょう。路上で暮らせば、交通事故や病気のリスクにもさらされます。数が増えすぎれば、フンやゴミを荒らすトラブルも深刻化します。幸せに暮らせない猫があまりにも多いのです。救いを待つ猫は、救う人の数よりはるかに多く、終わりがありません。猫を救うためには、猫の暮らす場所、医療費、フード代、人手などが必要で、ボランティアが経済的に破綻(はたん)してしまうこともあります」。

 そこで目指すのが、不妊去勢専門の動物病院の設立だ。手術後に一定期間をすごせる場所も備え、TNRに術後の猫の体調管理(Management)を取り入れた「TNRM」の普及を目指す。

 不妊去勢専門の動物病院運営の実績をもつNPO法人「ねこけん」(東京都)の協力を得て、埼玉県内での開業を目指す。所有する物件をリフォームして動物病院にする予定で、リフォーム代金や医療器具の購入のため、クラウドファンディングで支援を募っている。今年4月の開業を目指しており、野良猫のTNRのほか、飼い猫も受け入れる。

「TNR+M」を知ってほしい

彩の猫が保護した猫

 堀口さんは、「猫は繁殖力が強い動物で、自然に任せていればどんどん増えていきます。すると糞尿(ふんにょう)被害やゴミあさりが深刻化して人間の生活が脅かされるだけでなく、殺処分や事故などで命を落とす猫も増えてしまいます。生まれた命を殺したり死なせたりするのではなく、生ませない、生まれないことで負の連鎖を断ち切りたいのです」と話す。

 そしてこう続けた。「不妊去勢は猫のためでなく、人間と環境のために行う繁殖制限です。妊娠させないようにすることが目的であって、猫を死なせるようなことをしてはなりません。手術の傷が落ち着き、体調が良くなるまで見守ってから元の場所に戻すのが、命に対する最低限の責任だと思っています。今回設立を目指す動物病院を通じて、TNRMという考え方を、多くの方に知っていただけたらと思っています」

 クラウドファンディングでの支援はこちらから。2月28日午後11時まで。

(磯崎こず恵)

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sippo編集部が独自に取材した記事など、オリジナルの記事です。

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