こっち来んなョ… 家庭内野良猫に時間をかけて向き合ったら、猛烈甘々に豹変
イラストレーターの竹脇さんが育った奥深い住宅地。この場所で日々繰り広げられていた、たくさんの猫たちと犬たちの物語をつづります。たまにリスやもぐらも登場するかも。
家庭内野良猫
外出先や庭で弱った猫を保護していると、そのタイミングがうまくいかず、いわゆる「家庭内野良」になってしまう猫がいる。
つまり、一緒に生活しているのに触れない猫。ご飯や温かい寝場所があるからひとまずは安心だが、年をとった猫に起きやすい「巻き爪」や、体調を崩した時に触れないのはとても困る。
母は「自然派」なので無理に触ろうとしないが(そして母にしか触れない猫もいる)、全身全霊が猫に向いている私はそういうわけにはいかない。これまでの経験を総動員させて、時間をたっぷりかけて猫に立ち向かう。
保護した後、目薬や耳に薬を入れないといけない猫は、これを絶対にやらないといけないという大義名分があるので私的には挑みやすい。立ち向かった結果、けがをしても「うわ、大丈夫?」と言われるけれど、ただただおびえている猫に挑んでけがをすると「ほら、言わんこっちゃない」と冷ややかな視線を浴びるし、猫にも申し訳ない気持ちになってしまう。
大丈夫、怖くないよ
でも、これまで私が何度か成功した方法がある。これはちょっと勇気がいるし、大柄だったり力が強い猫にはあまりオススメできない。
まず大きくて柔らかい布を用意し、部屋やケージの隅でおびえている猫に、それをアピールしないようにしながら体を低くして優しい笑顔で近づき、がばっと全身に布をかけてぐるっとくるむ。そして自分の体で包み込むように抱きしめる。当たり前だが、猫のお顔は呼吸ができるように出してあげて、手や足をしっかりと抱え込む。
自分の体と猫の間に隙間がないくらい、ぴったりと。
そしてできれば呼吸の速さを猫と合わせ、優しく優しく小声で「大丈夫、怖くないよ」と何度も伝える。
大柄だったけれど、暴力的ではない男の子のピノは、こうして私には抱かせてくれるようになった。小柄だけれど強い意志を持った女の子のオレンジは、私には近づくことすら許してくれなかったけれど、晩年は母に心を開いてくれた。
年をとってから近所で締め出されてしまった三毛猫のコロちゃんは、ずっと体調が悪くて無理には触れなかったが、何度か爪を切らせてもらった。そしてその度に私は指をひどくかまれた(なぜか私の体は猫や犬にかまれても引っかかれても、破傷風になったり腫れ上がったりしない。すぐに治る)。
うまく触れなかった猫たちには、やっぱり後悔が残ってしまう。だからできる限り保護するタイミングを間違えないようにして、その後は申し訳ないけれどしつこく挑んでいる。
猫にとっての幸せを考える
一度、動けなくなっている猫を保護した時、意識もほとんどないくせに空気砲を何度も何度も出してきて、これは完治した時どうするのがこの猫の幸せなのか、と、ものすごく悩んだ。
とにかく入院させて毎日のようにお見舞いに行ったけれど、元気になるにつれ空気砲も強くなる、という感じだった。病院の先生と「もしかしたら保護した地域に戻すのがいいかもしれないね」という話まででた。
そしていざ退院となったが、まだ耳に投薬をしなければならず、毎日大きなフリースの布を抱えておっかなびっくりケージの中に体をつっこんでぐるりと猫を包み込み、日に3度の投薬を繰り返した。
そして出来上がったのが、猛烈に甘々の「両ちゃん」だ。
ある日を境にパタっと抵抗をやめて、ゴロゴロスリスリの猫に豹変(ひょうへん)してしまった。
でも、保護猫活動の先輩に聞くと「うちの猫も10年たって、突然豹変したわよ」と言っていたから、やっぱり日々の努力は報われるのかもしれない。
そして最近も実家の家庭内野良歴12年のハッピーちゃんを手なずけた。これは今年一番うれしかったことかもしれない。今は誰にでもゴロゴロスリスリする優しい猫になったが、抱き上げるのは次のステップらしい。
ハッピーが通院することになったら私がお供するからね、と実家に行くたびに彼女に伝えるのだが「それはちょっとイヤかも」、というお顔をするのがたまらなく可愛くて、なでまくってしまう。
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