縁あって寄り添い合って生きる(美樹さん提供)
縁あって寄り添い合って生きる(美樹さん提供)

24歳の爺さま猫と9歳のワケアリ猫 ルームシェアで芽生えた男の友情

 白黒猫「ながれ」は、とある町に流れてきた雄猫。保護活動を地道に続けている母娘に手術をしてもらい、住宅地での平穏な外猫暮らしを20年間続けた。酷暑をきっかけに冷暖房完備の快適な部屋をひとつもらい、「ながれ爺(じい)さま」として悠々自適の隠居生活が始まった。そこへやってきたのが、飼い主死亡で取り残された「春吉」という猫エイズキャリア猫。スタートは、部屋を半分に区切ったシェアだったのだが、いつしか心通わせた2匹は、行き来自由となる。春吉と暮らしていっそう元気になった爺さまは、この夏お達者に24歳を超えた。

(末尾に写真特集があります)

雌猫たちに守られた外猫生活

塀の上の白黒猫
2009年、11歳の頃。端正な顔立ちのおとなしい猫だった

 千葉県の北西部にある閑静な住宅地で、ますみさんは、夫や娘の美樹さんと共に喫茶店を営んでいる。近隣の協力も得て、長いこと地域の外暮らしの猫たちの手術や保護譲渡を娘の美樹さんと共に続けてきた。2階には、保護した猫が11匹。家猫はもう満員であるものの、手術済みの猫たちはみな穏やかに住民たちに見守られて庭々で暮らしている。

 外猫の1匹、モコが見たこともない若いオス猫を餌場に連れてきたのは、22年前のことだった。モコは自分の餌を分けてやっていて、他の猫もその子を受け入れている。どこから流れてきたのかわからないので「ながれ」という名になった。

 ますみさんが手術のためにながれを獣医さんに連れて行くと、2歳くらいとのこと。とても臆病で、人にはけっして触らせない猫だったが、喫茶店のお向かいの老夫婦に可愛がられ、ねぐらも用意してもらった。ご飯やトイレはますみさんの家の庭まで通ってくる。母性本能をくすぐるタイプなのか、外暮らしの雌猫たちによる「ながれ親衛隊」に守られ、穏やかに暮らし始めた。

 たまによそのオス猫がながれに近づいて、ビビったながれが小さく「ギャッ」と鳴こうものなら、お姉さん猫たちがさっと集まり「この子に手を出さないでよ」と追い払うのだった。

白黒猫と茶トラ猫
雌猫のモコちゃん(左)たちに守られていた頃

最後は家で看取ってやりたい

 ある日のこと。美樹さんがふとお向かいを見ると、ながれをはじめ、老夫婦に可愛がってもらっている外猫たちが一列になって、門を入っていく。そして、しばらくたって、また一列で門から出てきた。

「やがて、お葬式の支度の黒い服の人たちが集まってきて……。おばあちゃまがお亡くなりになったのでした。猫たちの弔問をこの目で見て、こんな不思議なことがあるのかとびっくりしました」

 ながれは、日光アレルギーが鼻先にあったが、触らせないので薬を塗れず、ご飯に混ぜて治してもらっていた。あとは大過なく、代々の雌猫親衛隊に守られてお達者に暮らしていたのだが……。

 ながれが22歳を迎えた夏の暑さは格別だった。もみじ、かえでの外猫姉妹に守られてとくに健康不安もなく暮らしているけれど、高齢での夏は体に応えるだろう。ここにやってきてからの外暮らしは、もう20年になる。可愛がってくれていたお向かいのおじいちゃんは施設に入所したばかりだ。

「せめてながれの最後は家の中で看取(みと)りたい。2階は保護猫たちでもういっぱいだけど、譲渡会場にしていた部屋を個室にしてあげられる」……そう思ったますみさんは、最近触らせるようになったながれを抱き上げ、家に入れようと試みた。だが、そっと戸を閉めたとたん、ながれは大パニックをおこした。その日は諦めて外に戻したが、別の日にまた抱き上げて家の中に入れたら、今度は抵抗をしなかった。暑さに参っていたらしい。

長生き目標を次々更新する

 雌猫たちのアイドル生活から卒業したながれは、冷暖房完備で通りがよく見える快適な個室を与えられ、「ながれ爺さま」として悠々自適の毎日を過ごすこととなった。

白黒猫
ますみさんのひざの上で甘えるながれ爺さま

 すっかり甘えん坊になった爺さまは、快食、快眠、快便で、「クリスマスまでは元気でいようね」「6月の誕生日(推定)までは元気でいようね」の目標を楽々クリアしていく。

「いつも診ていただくお医者様にも『オス猫でこんな長生きは珍しい』と驚かれるほど。とくに悪いところもなく、『もう検査は不要。いろんな病気があったら、こんなに長生きしません。生命力が強い猫なんでしょうね』って言われました」と、ますみさんは、笑う。

ワケアリ猫がやってきた

 23歳と半年を過ぎた、去年の秋、爺さまの暮らしに変化が起きた。爺さまの部屋の真ん中にワイヤのドアが取り付けられ、奥の半分が使えなくなったのだ。といっても、あまり動き回らない爺さまにとって奥の部分はさほど必要でなく、外が見える窓ぎわとねぐらとで十分スペースは足りて、のんびり過ごしている。

 だが……気になるのは、奥に誰かがいる気配のすることだった。

 気配の主は、「春吉」という茶トラの雄猫だった。子猫の時から8年可愛がってもらっていた飼い主のおばあちゃんが亡くなり、行き場をなくした猫だった。通っていたヘルパーさんが何週間か食べ物を運んでくれていのちをつないでくれた。他の猫を見たことがなかった春吉は、保護してくれた人の家にいた猫たちを見て大混乱し、追い詰める行動に出た。保護主から相談を受けたますみさんが、何とかスペースを作って、譲渡までを預かったのだった。

網越しの白黒猫と茶トラ猫
ドア越しに、老若の交流が始まった(美樹さん提供)

 春吉は、猫エイズのキャリアだった。ストレスのない暮らしが長生きのもととなるから、穏やかなながれ爺さまとのルームシェアは、まさにぴったりだった。

 爺さまは、日に何度もドア越しに「なあ~」と、孫のような年齢のルームメートに話しかけるようになった。爺さまは、小腹がすいたときや、いいウンチが出たときも「なあ~」と鳴いて、ますみさんや美樹さんを呼ぶ。そのたびに「爺さま、どうした」と、春吉はのぞきに来る。いつしか、年齢を超えた男同士の友情が芽生えたようだった。

ケンカごっこも、元気の素

 今年春、ドアは開放された。これまでは爺さまがひとりでひなたぼっこしながら外を眺めていた座布団の上に、春吉が寝そべる。その気配をすぐに察した爺さまは寝床から起きてきて、春吉にもたれかかりに行く。乗っかったり脚を乗せたりとクッション代わりだが、「しかたないなあ」と、春吉はたいがいのことは我慢する。

 春吉が真ん中に陣取っていると、爺さまはかんしゃくを起こしてポカリとたたくこともある。春吉がお返しにガブリと甘がみをすることもある。その後、何事もなかったかのように寄り添うふたり。ケンカごっこは、いいレクリエーションのようである。

寄り添う2匹の猫
今日も、春吉とながれは、窓辺でくっついている(美樹さん提供)

 爺さまがトイレに入れば、離れた場所から見守る春吉。「なあ~、なあ~(出た、出た)」と爺さまが鳴けば、「にゃっ、にゃっ(してあります、片づけてください)」と、ますみさんたちを呼ぶ春吉である。

 前の道は、小学生の通学路だ。 2匹が仲良く窓辺でくっついている姿は大人気で、ひっきりなしに子どもたちが眺めていく。猫たちの名前も境遇も、窓ガラスに貼ってある。いろいろな猫が、それぞれの猫生を一生懸命に生き、私たちがちょっと手を差し伸べれば幸せをつかむお手伝いができることを知ってほしいと、ますみさんたちは願っている。

 春吉が来てから、爺さまは、いっそう元気になった。6月で、24歳を無事迎えたが、このぶんだと25歳も26歳も夢ではない。なじみ客も、店に入る前に「ながれ爺さま、きょうも元気かな」とガラス窓の向こうをのぞいていく。

 ながれを見送るまでは春吉と一緒に暮らさせ、その後は、春吉にいいおうちを見つけてやりたいと、ますみさんたちは思っている。

「ながれは元気にしていますか」と、94歳になったおじいちゃまから、ときどき電話がかかってくる。「元気にしていますよ」と答えられるのが、ますみさんも美樹さんもうれしくてたまらない。

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佐竹 茉莉子
人物ドキュメントを得意とするフリーランスのライター。幼児期から猫はいつもそばに。2007年より、町々で出会った猫を、寄り添う人々や町の情景と共に自己流で撮り始める。著書に「里山の子、さっちゃん」「猫だって……。」など。Webサイト「フェリシモ猫部」での「道ばた猫日記」は11年目。

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この連載について
猫のいる風景
猫の物語を描き続ける佐竹茉莉子さんの書き下ろし連載です。各地で出会った猫と、寄り添って生きる人々の情景をつづります。
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