ペットとの別れ、終わりでなくストーリーは続く 森絵都さんがつづるめぐる命の物語
小説や絵本、アニメ脚本など幅広く活動する直木賞作家の森絵都さんの新作『生まれかわりのポオ』が金の星社より刊行されました。ある家族が猫と別れ、猫のいなくなった日々をどう過ごしていくか、どうやって受け入れ前を向くのか……小学校中学年から読める児童書ですが、おとなにも読みごたえがあります。編集を担当した金の星社の大河平将朗さんに、経緯や本に込めた思いを伺いました。
15年以上待った念願の物語
――本書は主人公の「ぼく」(ルイ)が、猫のポオの様子を振り返るところから始まります。もともとママのパートナーで、ぼくが生まれる前からいた“親子にとってかけがえのない猫”のお話は、どのようにして生まれたのでしょう?
「もともと私は森さんの作品のファンで、かれこれ15年以上前に、“心が癒やされる物語、ハートウォーミングな物語”を執筆していただきたいと思って依頼をしました。今までに弊社から『おどるカツオブシ』と『オニたいじ』、ユーモア絵本のテキストを2作ご執筆いただきましたが、このたび満を持して、念願の読み物をご執筆くださいました」
――15年以上も待ったのですね!今は猫や犬と暮らす方が多いですが、愛する動物と暮らす者にとっては避けて通れない“お別れ”を扱っています。しかもストレートに。
「その通りで、『生まれかわりのポオ』はペットロスをテーマにした物語です。ペットロスの心を癒やし、そこからどう一歩進むか、という内容です。題材は森さんに自由にお考えいただきました。ポオは猫ですが、森さんは以前に犬を飼っていて、看取(みと)っていらっしゃるので、その体験もあって生まれた作品だと思います。じつは私も7年ほど前に大好きだったキャバリア犬と死別しており、一読者としても、背中を押された思いがします」
何度も生まれ変わるポオに込めた思い
――「ポオに会いたい」と泣く息子ルイのために、作家のママは、ポオが生まれ変わる=転生の物語を考えます。チョウになったり、カエルになったり、カラスになったり。劇中劇のように、本の中にまたお話がでてきます。
「まさに、ストリーテラーの森さんの魅力が詰まっている部分です。死を扱いながらも親子のかけあいにユーモアもあり、読む方がいつしか親子に引き込まれ、感情移入できるのではないでしょうか」
――おとな(ママ)も猫との別れはつらいのかな、とルイが気づくシーンもあります。
「季節がめぐるとともに、ルイの気持ちも変わっていきます。心が変わるというか、広がるというほうがいいかもしれません」
――本書には、悲しみの粒がこぼれおちるような温かな感動と、気づきがあります。言葉を超えた生き物との交流を失ったあと、言葉によって支えられていくような。
「ペットロスで非常につらい体験をされた方は多いと思いますが、別れですべて終わるのでなく、そこから出会えることがある、愛した猫とのストーリーは続いていく……本書が前を向くひとつのきっかけになったら、担当者としてもありがたいです。また、カシワイさんのイラストが素敵ですので、ぜひ絵も楽しんでください」
- 森絵都さんからのメッセージ
- 『生まれかわりのポオ』は、めぐる命の物語です。愛するネコを失った9さいのルイ。彼のまっすぐな悲しみに対して、はたして「物語」には何ができるのか――。私も、ルイのママといっしょに考えながら書きすすめました。ルイが最後に見た風景を、ぜひ、みなさんの心にも映していただけたらうれしいです。
作:森絵都(もり・えと)
『リズム』で講談社児童文学新人賞を受賞。『つきのふね』で野間児童文芸賞、『カラフル』で産経児童出版文化賞、『DIVE!!』で小学館児童出版文化賞を受賞。『風に舞いあがるビニールシート』で直木賞、『みかづき』で中央公論文芸賞受賞など、作品多数。
絵:カシワイ
イラストレーター、漫画家。漫画や書籍の装画を中心に活躍。『107号室通信』『光と窓』(ともに、リイド社)、『ひとりの夜にあなたと話したい10のこと』(大和書房)など。
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