AIMを活性化させるフードが登場 開発に携わった宮崎徹先生に聞く
猫にとって不治の病とされてきた腎臓病の治療薬として注目される「AIM」。現在、実用化に向けた臨床試験がスタートしようとしている。愛猫家のみならず獣医界からの期待も高まるなか、治療薬に先立ちAIMを活性化させるフードが発売された。AIM治療薬の産みの親であり、フードの開発にも携わった宮崎徹先生に話を聞いてみた。
積極的な治療の可能性
一度ダメージを受けた腎臓は回復することはなく、これまで対症療法しかなかった腎臓病に積極的な治療の可能性をもたらすAIMの発見は、人間はもちろん、猫、そして愛猫家に歓喜をもたらした。AIMを発見し長年にわたる研究を続けてきたのが4月に一般社団法人「AIM医学研究所」を設立した宮崎徹先生だ。
「私は人間の医療の臨床を経て基礎研究に進んだのですが、その過程でAIMの働きを発見しました。AIMは血液中にあるタンパク質のひとつで、体内で生じるさまざまなゴミにくっつき、掃除する役目を果たしています。AIMが働かないとゴミが溜まり、腎臓病をはじめとするさまざまな疾患の原因となるのです。さらに動物のなかでも猫が極端に腎臓病にかかる率が高いことを知り、調べてみたところ猫はAIMがほとんど機能していないことがわかりました。それもトラやチーターなどネコ科の動物すべて。これは遺伝病といえます」
多くの猫が腎臓病で苦しみ命を落としていること、愛猫家が心を痛めていること、治療薬へのニーズが世界的に高いことなどを知る。ならばまず猫の治療薬を開発しようとなったのだそう。
「猫って本当に可愛いですよね。うちの研究室にも猫好きがいっぱいいます。なんとか救いたいと思いました。もちろん情緒的なことだけでなく、猫薬を先行して開発することで人間の治療薬開発も加速することになるので、社会的にも意味のある研究と認めてもらえるのです」
開発は順調に進むも、臨床試験を目前に新型コロナウイルス感染拡大により研究は中断することに。
「あと少し、というところだったので悔しかったですね。でも、その経緯が1本の記事になり、読んだ方たちから寄付が集まったのです。それも総額3億円近くの莫大な額があっという間に。東大で通常1年間で集まる寄付件数が1週間で集まりました。前代未聞のことです」
小さな力が結集して研究を後押し
寄付をしてくれた人の多くは猫と暮らす愛猫家たちだ。市井の人の小さな力が結集し、研究を後押しした。
「愛猫家の皆さんがどれほど待ちわびているか肌で感じました。とはいえすぐに研究を再開して臨床試験を始めても実用化までに最低2年はかかります。皆さんの思いを身近に感じたことで何かできることがないかと考え、フードの発売に思い至りました。AIMを活性化するアミノ酸を配合し、腎臓の健康維持を目指す総合栄養食です。もとも人間用のサプリメントとして開発中の成分で、AIMを働かせるエビデンスもとれていました。離乳時から与えることで予防したり軽症時なら進行を抑制したりする効果が期待できます」
宮崎先生はこの春、様々なAIM研究を加速化させるため、これまで16年間教授として在籍した東京大学から、自ら設立した「AIM医学研究所(略称IAM)」に拠点を移した。先行して猫の腎臓病治療薬を完成させることが、IAMの最も重要なミッションの一つだ。先の寄付は大きなニュースになり、多くの企業が協力に名乗りをあげてくれたのだ。
「研究室の中にいると、外の声を聞くことなどほとんどありません。でも、今回皆さんからこれほど期待、そして応援されていることを知り、とてつもない使命感と責任感に駆られました。それはやりがいとなりました。みなさんの期待に応えられるよう、必ず治療薬を完成させます」
(文・粟田佳織 写真・芳澤ルミ子)
■腎不全とは
体内のゴミをろ過するため、「ネフロン」というろ過装置が100万個集まっている臓器・腎臓。ろ過装置にゴミが詰まると腎臓全体が徐々に壊れて腎不全になる。猫も人間も毎日何個か目詰まりしている。人間の場合はAIMが働いているため詰まったものを取り除けるが、猫は取り除けないので10年、15年経つと腎不全になる。
■AIMとは
タンパク質のひとつ。体の中に毒素や細胞の死骸などのゴミが溜まると、まるで粗大ゴミを出すときに貼られるシールのようにペタペタとくっつき、体内を掃除する細胞にゴミだと知らせる役割を持つ。
■ネコ科だけAIMが働かない
AIMはゴミがあったとき、航空母艦から戦闘機が飛び立つように働く。猫も人間もAIMを持っているが、猫をはじめトラやライオン、チーター、ヒョウなどすべてのネコ科は先天的に上手く働いていないため、身体の中にゴミや老廃物が溜まり、腎不全になってしまう。
- Miyazaki Toru
1986年東京大学医学部医学科卒業後、医学部附属病院第三内科(高久史麿教授)に入局。その後、熊本大学大学院で山村研一教授に師事し、トランスジェニックマウスを用いた自己免疫疾患の研究を行う。1992年より、パスツール大学/IGBMC(フランス・ストラスブール)のD.Mathis博士研究室で研究員、1995年よりバーゼル免疫学研究所(スイス)のメンバーとして研究室を持ち、2000年よりテキサス大学(アメリカ・ダラス)免疫学准教授。AIMの研究を通じて様々な現代病を統一的に理解し、新しい診断・治療法を開発することを目指している。『猫が30歳まで生きる日 治せなかった病気に打ち克つタンパク質「AIM」の発見』(時事通信社)が好評発売中。2022年3月で東京大学を退職し、4月から一般社団法人「AIM医学研究所」を設立。 https://iamaim.jp
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