犬たちは餓死するか爆撃で死ぬか ウクライナの緊急事態に動くイタリアの動物愛護団体

ウクライナから保護犬たちを救い出す愛護団体LAVのスタッフたち (c)LAV

 ラブラドール・レトリバーのグレース、猫のニーニとジージョ、メイメイと暮らす北イタリアのトリノから、たった2000キロしか離れていない地続きのウクライナで戦争が起こった。2月24日のあの日から、コロナのことなどすっかり忘れてしまったかのように、人が集まれば話題は戦争のことばかり。私の住む地域から見える、戦争とペットたちの様子を伝えます。

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(末尾に写真特集があります)

活躍するイタリアの動物愛護団体

 3月のある日、愛犬であるラブラドール・レトリバーのグレースといつもの公園に散歩に出かけると、何人かの犬友が集まって話し込んでいた。

「ウクライナから救助した犬がヴェローナに到着したんだって。ラブラドールの子犬もいるらしいよ。もらってあげれば?」

 グレースと仲良しの、キーラのパパが言った。キーラはグレースと生まれた年も月まで同じ、ラブラドールの女の子だ。ほとんど毎朝この公園で会って、一緒に散歩をする。

手前がキーラ。前のお尻がグレース(左)と秋田犬のさゆりちゃん

 LAVというイタリアの動物愛護団体が、ウクライナ侵攻が始まってすぐに保護犬たちを助けに行ったという話だ。飼い主がいる犬猫たちは飼い主と一緒に避難することができても、シェルターや保護施設にいるたくさんの犬猫たちが避難するのは難しい。それでイタリアから救助に行った第一弾が、無事帰国したというわけだ。

「戦争が始まってすぐに、まずは食料など支援者から集まったものをウクライナに送りましたが、それだけじゃダメなんです。人々は逃げているのに、動物たちは逃げることができない、だったら助けに行かなくてはと、ハンガリーの国境まで9匹の犬たちを助けに行ったのですが、他にも助けを必要としている犬たちはたくさんいるのです。ウクライナの領土内、キーウの南にある保護施設では、36匹の犬が誰も世話をする人もいなくなり窮地に陥っていると、現地ボランティアからSOSが届きました。餌が手に入らなくなったので、犬たちは餓死するか、爆撃を受けて死ぬか。緊急事態でした」と、LAVで今回のミッションを担当したベアトリーチェさんは言う。

ウクライナ国境近くの町で救出を静かに待っている犬たち (c)LAV

「すぐに飛んでいくことを決めました。でも前回と同じようにハンガリー国境で受け取れると思っていたのですが、手続きの問題などが山積みで簡単にはいかず、最終的にはウクライナ国内まで行かなければなりませんでした」

 イタリアから3日間で往復4000キロ、5つの国を走り抜け、戦時下の国境を超えるなど様々な問題につき当たり、不安も、恐怖もあったけれど「ただひとつだけ、確かだったのは、絶対にその36匹を助ける、その思いだけでした」。

救援物資を運び込むLAV の人たち (c)LAV

 ベアトリーチェさんたちの命懸けの救助作戦は成功し、10匹はすでにイタリア国内の保護施設に、残りの26匹はスロヴァキアで30日間の隔離中だ。隔離期間が終わればすぐにイタリアへ移動するという。

動物たちを絶対に見捨てない

 イタリアではLAVの他にもたくさんの動物愛護団体があって、国内外の団体と協力しあってウクライナの動物たちを助けようと頑張っている。救助活動だけでなく、避難民の人がペットと一緒に飛行機に搭乗できるよう各航空会社に訴えるなど、様々な活動をしている。一方で、ウクライナの国内で、動物たちを絶対に見捨てないと頑張ったイタリア人がいた。

 アンドレア・チステルニーノさんは、10年前にキーウ郊外の街で動物保護施設「Italia Kj2」を開設し、犬猫だけでなく、山羊や羊、馬など400匹以上の動物たちの世話を続けてきた。

 戦争が始まってすぐ、「僕はイタリアに帰らないよ、動物たちを見捨てない」と言ったアンドレアさんのことがイタリアで小さなニュースになったけれど、その頃はまだキーウ一帯にはロシア軍の手は伸びていなかったので、それほど深刻に受け止められなかった。

 ところが戦況がどんどん悪化し、アンドレアさんたちの状況は一変した。キーウ近郊の町や村がロシア軍に包囲され、アンドレアさん他4人のスタッフも動物たちも、食べ物も、水もなく、逃げることもできない、そんな日々が続いた。

 アンドレアさんたちはジャーナリストやイタリアの動物愛護団体にSOSを送り続けた。その甲斐あって、イタリアの愛護団体ENPAと外務省が動き、4月初旬には救援物資が届けられたという。

 でも戦争は、そんなハッピーエンドばかりではすまない。1カ月以上もの間、世話する人もなく、食べ物も水もなく、おりに入れられたまま300匹以上の犬たちが餓死してしまった保護施設のニュースもあった。

目の前にも家族を待ってる犬猫がいる

 朝の公園で会うドレッドヘアのお兄さんは、パンクな革ジャンにサングラスという一見怖げな外見とは裏腹に犬が大好きで、保護犬をどんどん受け入れている。今は5頭。エリザベス・テーラーの「リズ」、アンディー・ウォーフォールの「アンディ」など、世界の有名人の名前をつけて可愛がっている。

 ある朝、彼に会ったので「ウクライナのワンコたちも、受け入れてあげるの?」と聞いたら、ちょっと悲しそうな表情になって言った。

「イタリアにも家を必要としてる犬たちがたくさんいるからね」

 確かに彼の言う通りだ。戦争が始まるずっと前から、暖かい家と家族を待っている犬猫たちがたくさんいる。飼い主に捨てられたり、生まれた時からずっと保護施設暮らしの犬猫たちに、今度は戦争が降りかかった。ウクライナの犬猫たちだって助けてあげたいけれど、そのせいでイタリアの動物たちの席がひとつ減ってしまうとしたら?

 戦争で、環境問題で、人間のエゴのせいで悲惨な目に遭っている動物たちは、世界中で後を絶たない。全ての動物たちを助けてあげたい、幸せにしてあげたいと願う私たちにできることはなんだろうか。目をそらさずに考えていきたいと思う。

庭で和むグレースとジージョ

宮本さやか
1996年よりイタリア・トリノ在住。イタリア人の夫、19歳の娘、ラブラドール・レトリバーのグレース、猫のニーナとジージョと暮らしつつ、日本とイタリアの「食」を発信するフードライター。ブログ「ピエモンテのしあわせマダミン2」

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