愛猫に突然の末期がん宣告 通院ストレスを減らすため選んだ往診、心の支えにも

背中で遊ぶ猫
甘えん坊でよくIさんの背中で遊んだ(Iさん提供)

 突然の診断で愛猫が末期がんだと知らされたIさん。すでに治療の手段はなく、どうしていいのかわからず途方にくれる中、パートナーが進めてくれたのが『アニホック往診専門動物病院』(以下アニホック)の往診サービスだった。

 往診サービスを選んだ理由や利用した感想をIさんとパートナーの方に伺った。

(末尾に写真特集があります)

愛猫の病気と覚悟

 エース(マンチカン・雄)は甘えん坊でいたずら好きな性格だった。カーテンをよじ登ったり、勝手に引き出しを開け、中に隠れていることはしょっちゅう。

「隠れた引き出しを先輩猫のロビン(雌)が外から閉じてしまい、家の中を大捜索したこともあるんです」。飼い主のIさんはなつかしそうに振り返る。

子猫
エースは子猫時代にブリーダーから譲り受けた(Iさん提供) 

「外で遊ばないからいたずらは仕方ないと、いたずらは大目に見ていましたが、それ以来、外出中に閉じ込められることがないように、引き出しにはガムテープを張っていましたね(笑)」

 愛情深い飼い主に見守られ、遊び相手のロビンとともにのびのびと暮らしていたエースは、2021年の7月に8歳で虹の橋を渡った。

カーテンをよじ登る猫
いたずら好きで活発な性格(Iさん提供)

「2021年の4月ごろから突然痩せはじめて、かかりつけ医で血液検査とエコーを受けたら、胃のリンパ腫と診断されたんです。大きな病院で精密検査をしても結果は同じ。すでに末期の状態でした」

「リンパ腫」は、血液がんの一種。医師から提示された治療の選択肢は、1%の可能性にかけて手術するか、この時点で治る余地はないが、寿命を延ばすことができる抗がん剤治療を行うか、癌の治療はせず、症状を抑えるステロイド薬を投与してターミナルケアを施すかの3つだった。

「もうちょっと可能性があれば治療を選びましたが、回復の可能性が薄い中でわざわざ苦しい治療で苦しめたくないと考えると、実質、選択肢はターミナルケアの一択でした」

 なんの予兆もない末期がんの宣告に、Iさんは、動揺しつつも心を決めた。

負担の少ない診察を

 突然始まった愛猫の闘病生活は、Iさんを精神的にも物理的にも苦しめた。

「本来は毎日通院して薬を打たなくてはいけないのですが、仕事のことを考えると到底無理でした。そこで週に1回、仕事が休みの日に私だけが薬を取りに行き、胃薬とステロイドの薬をおやつに混ぜて与えていたんです。でも、エースはすぐに薬に気づいてなにをしても食べてくれなくなりました」

2匹の猫
元気だった頃、先住猫のロビン(右)と遊ぶエース(左)(Iさん提供)

「やはり診察に連れていくべきなのか」。Iさんは悩んだ。エースはもともと外出嫌いで、キャリーバッグを見せただけで雲隠れする。痩せて体力もなくなった今はさらに通院がストレスになることが容易に想像できた。そんなときに「往診専門の動物病院」を探してきたのが、Iさんのパートナーだった。

「人間の往診サービスがあるなら、動物の世界にもあるんじゃないかと考えて探してみたら、アニホックに出会ったんです。ほかにも往診サービスはありそうでしたが、ホームページで見た獣医師さんの理念に共感できたし、この先生に任せたら安心できると思った。そこで彼女に紹介したんです」

引き出しの中の猫
自分で引き出しを開けて入り込むエース。病気が発覚するまで、なんの予兆もなかった(Iさん提供)

 Iさんははじめ、見ず知らずの人間を家に入れることへの抵抗は多少感じたが、薬を飲めないエースのために往診サービスの利用を決めたという。

「実際に来てもらったら、不安はすぐに払拭されました。先生はとても丁寧に話を聞いてくれて、『診察後もこの近くを回っているから、不安なことや疑問点があれば駆けつけます』と言ってくれたんです。なにより、大切なエースが突然こんなことになって動揺している私に、『どんな選択肢を選んでも間違いではない』と声がけしてくれたことで、とてもホッとしました」

負担の少ない診察を

 Iさんはその後、週に2、3度のペースでアニホックを利用し、エースに胃薬と点滴の処置を続けた。はじめのうちこそ獣医師の来訪に驚いていたエースだが、やがて獣医師が往診に来るたびに、トボトボと出てきて隅っこで丸くなるようになった。獣医師を信頼しているエースを見ると、Iさん自身も自分の選択を信じることができたという。

「私はエースのストレスを可能な限り取り除きたかったんです。キャリーバックに嫌がるエースを無理に入れ、15分かけて病院に連れて行って、病院でもまた嫌なことをされ、またキャリーに入れて15分かけて家に帰る。そんな通院生活より、エースの心身に負担が少ない往診サービスを選んで本当によかったと思いました」

横になる猫
点滴をするのも難しいほどに痩せたが、アニホックの診療時は自ら獣医師に顔を見せに来た(Iさん提供)

 やがてエースの体は、ゆっくりと自由がきかなくなって行った。食欲を失ったエースに、ヨーグルトを与えられることを教えてくれたのも、アニホックの獣医師だった。

「先生が猫が食べてもいいヨーグルトを教えてくれたので、注射器で口の中に入れてやりました。痩せて点滴が打てなくなってからは、エースの体調に合わせて薬や点滴を減らしてギリギリまで最善を尽くしてくれたんです」

 病気が発覚してから、およそ3カ月後の7月。エースは一番安心できる自宅で、Iさんに見守られ息を引き取った。

「亡くなってからも先生はエースの体を丁寧に洗ってくれました。ここまでやってくれるんだ、という思いと、素人の自分だけでは乗り切れなかった闘病生活に寄り添ってくれた感謝の気持ちがすごくありますね」

飼い主の不安に寄り添う

「エースが亡くなったことは悲しいけど、先生はいつも先回りして今後起こりうるいろいろな可能性を教えてくれたので、最後まで冷静に対処することができました」とIさん。

 Iさんとエースの闘病を見守り続けたIさんのパートナーも、アニホックの診察についてこう話す。

「病気はなんの前触れもなく突然発覚して、それまで人懐っこかったエースがみるみる変わっていったんです。しかも治療の選択肢はほぼない。そんな厳しい状況に置かれて呆然としていた彼女と人間と会話することができないエースに、先生はきちんと寄り添ってくださったと思います」

2匹の猫
先住猫のロビンとエース(Iさん提供)

 ターミナルケアのペットと暮らす飼い主にとって、通院という物理的な問題はもちろん、戸惑いや不安、愛する家族を失う精神的な苦しさは大きい。「同じように苦しんでいる人たちにぜひ、アニホックの往診サービスを知ってほしい」。Iさんとパートナーは今回、そんな思いで取材を引き受けてくれたという。

「通院の負担をかけずにできるだけのことをしてくれる往診サービスなら、病気で苦しむターミナルケアのわんちゃんや猫ちゃんはもちろん、飼い主の苦しさも減らせると思います」

【前の回】犬や猫の通院いらず! 獣医師が自宅にやって来る「往診専門の動物病院」とは

原田さつき
広告制作会社でコピーライターとして勤務したのち、フリーランスライターに。SEO記事や取材記事、コピーライティング案件など幅広く活動。動物好きの家庭で育ち、これまで2匹の犬、5匹の猫と暮らした。1児と保護猫の母。猫のための家を建てるのが夢。

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この連載について
往診動物病院のいま
往診専門動物病院を舞台に、獣医師の仕事や、診察を受ける飼い主と犬や猫の物語を伝えます。
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