犬・猫の血液検査は重要 でも何を調べているの?生化学検査項目を解説
病気やトラブルから犬や猫を守るため、飼い主さんにぜひ知っておいてほしい知識を、シリウス犬猫病院の院長、石村拓也獣医師が教えてくれます。連載20回目は血液検査の重要性についてです。
CBC検査(全血球計算: Complete Blood Count)
血液検査は健康診断でも行うことが多いですね。身体中を巡っている血液の検査は、全身状態を把握するのにとても適しており、愛犬・愛猫の健康に関するたくさんの情報を読み取ることができます。今回は血液検査についてご紹介します。
CBC検査は、血液検査の最も基礎的で重要な検査です。血液中の細胞成分について、専用の機械を用いて血球(赤血球・白血球・血小板)の数量や割合を調べます。
CBC検査で何がわかるの?
・赤血球数(RBC)
脱水症状を起こしているときは赤血球数の増加が見られます。貧血のときには赤血球数の減少が見られます。
・白血球数(WBC)
炎症や感染、興奮、ストレスなどで白血球数の増加が見られることが多いです。また、ウイルス感染症(パルボウィルス腸炎や汎白血球減少症など)や激しい炎症後などでは減少することがあります。
・ヘマクリット値(Ht)
赤血球成分の容積が血液全体に占める割合です。この値が下がると貧血、上がると脱水などによる血液濃縮などが考えられます。
・ヘモグロビン値(Hb)
酸素を運ぶ上で重要な役割を果たすヘモグロビンの値を調べます。
・血小板数
血小板の数が減ると出血しやすくなります。
血液塗抹検査
血液塗抹検査は、血液をスライドガラス上に薄く均一に広げ、染色をし、血液の細胞成分を顕微鏡で直接観察する検査です。
赤血球の形態、白血球を構成する好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球、単球が、それぞれどのくらいの割合で含まれるか、異常な白血球が出ていないか、血小板の数や形態などを調べます。
採取した血液中の細胞の数やその割合を調べて、総合的に以下のことをみていきます。
貧血の有無、貧血のタイプ、脱水の有無、血小板の有無、炎症の有無、全身性感染症の有無、ストレスの有無、寄生虫感染の有無、血液系腫瘍性疾患の有無。
CBC検査・血液塗抹検査と他の検査を組み合わせることで、より確実な診断につなげます。
生化学検査
血液はさまざまな臓器と大きな関わりを持っています。生化学検査は血液中の化学成分を測定することで、臓器・器官系が正常に動いているか、どこかに異常が⽣じていないかなどを調べる検査です。
・総蛋白(TP)
血液中の蛋白(たんぱく)質の総量を示し、栄養状態、肝・腎機能や免疫機能の指標となります。ALB、GLOBの数値と併せて評価します。
・アルブミン(ALB)
血液中に多く含まれる蛋白質です。上昇は脱水、低下は肝臓、腎臓、腸などの疾患や出血などが疑われます。
・グロブリン(GLOB)
血液中に多く含まれる蛋白質です。上昇は脱水、慢性炎症、腫瘍、減少は免疫異常などが疑われます。
・アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)
肝臓、骨格筋、心筋に多く含まれている酵素です。主に肝臓のダメージの指標として用いられます。
・アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)
肝臓に多く含まれている酵素です。主に肝臓のダメージの指標として用いられます。
・アルカリフォスファターゼ(ALP)
主に胆道系疾患(胆汁鬱滞、胆管肝炎など)で上昇する肝酵素です。骨の成長期、腫瘍などの影響により上昇する場合もあります。犬ではステロイドの影響で上昇します。
・ガンマグルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)
主に胆道系疾患(胆汁鬱滞、胆管肝炎など)で上昇する肝酵素です。犬ではステロイドの影響で上昇します。
・総コレステロール(TCho)
生体の主要脂質成分であるコレステロールの血液中の総量を示します。肝臓や胆道、腎臓の疾患や、糖尿病、甲状腺機能低下症などの内分泌疾患などで上昇します。肝不全、小腸疾患などで低下します。
・トリグリセライド(TG)
高脂血症の指標として用います。甲状腺機能低下症、糖尿病、副腎皮質機能亢進症、肝臓病等で上昇することがあります。
・総ビリルビン(TBil)
ビリルビンは赤血球中のヘモグロビンの代謝産物です。溶血、肝障害、排泄経路の閉塞などで上昇し、黄疸(おうだん)の原因となります。
・グルコース(Glu)
血糖値を示し、糖尿病や低血糖の診断に用います。食事の影響を受けるため、食後に上昇します。また興奮などのストレスやステロイドの影響により上昇する場合もあります。
・アミラーゼ(Amy)
主に膵臓(すいぞう)から分泌される消化酵素です。犬で膵炎の指標として用いられます。
・リパーゼ(Lip)
主に膵臓から分泌される消化酵素です。犬で膵炎の指標として用いられます。
・尿素窒素(BUN)
腎臓から排泄(はいせつ)される代謝産物で、腎機能の低下や消化管内出血などで上昇します。また、肝機能の低下により減少することもあります。
・クレアチニン(Cre)
腎臓から排泄される代謝産物で、腎機能が激しく低下すると上昇します。低下の原因としては、著しい筋肉の減少などがあります。
・リン(P)
副甲状腺疾患、腎臓病、食事内容などにより変動します
・カルシウム(Ca)
骨代謝や筋肉の収縮、血液凝固などに関与します。主に腎臓や副甲状腺の疾患などで変動します。また、腫瘍で上昇する場合もあります。
・ナトリウム(Na)カリウム(K)クロール(Cl)
Na、K、Clは電解質と呼ばれ、細胞の浸透圧調節や体内の酸-塩基平衡(pH)調節、神経伝達など重要な機能を担っています。腎疾患、内分泌異常、脱水、嘔吐(おうと)、下痢等様々な病態で変動します。
血液検査ではどのくらい血が必要なの?
血液検査に必要な血の量は、特殊な検査をする場合を除き、1~3ミリリットル程度と少量です。
採血のために、短時間押さえられる不快さは多少あるかもしれませんが、動物にとっては負担の少ない検査になります。
血液検査の頻度はどのくらい?
基本的に、5~6歳までは最低でも1年に1回、シニア期と呼ばれる7歳以降は1年に2回行うことをおすすめします。持病がある場合はこの頻度に限らず、かかりつけの獣医師と相談して検査を行っていく必要があります。
健康な状態であっても、定期的な血液検査の実施が病気の早期発見に役立つことがあります。
まとめ
多くの血液検査表には、目安となる参考基準値が記入されています。この参考基準値内に収まらなかった=異常、というわけではありません。血液検査の参考基準値は絶対的なものなく、健康的なベストスコアはその子によって異なります。小さな頃から健康診断と血液検査を行って記録することで、その子の傾向を把握できます。
健康に関するたくさんの情報が手に入れられる血液検査。ぜひ定期的に実施してみませんか?
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