犬「コタロウ」へ、お前のために前向きな自分でいたい 〈お手紙コンテスト入賞〉
sippoが主催した「みんなイヌみんなネコお手紙コンテスト」から、入賞作をご紹介します。
- 犬:コタロウ
飼い主さん:こまゆみ
なあ、コタロウ。お前は何でも私のマネをするんだな。私が寝ていると同じ格好で寝るし、けんかして父を無視していると、お前も父を無視する。トイレに行けばお前もついてくるし、私が休みの日はお前もダラダラしている。テレパシーだろうか。ただのミラー現象だろうか。私はお前と見えない糸でつながっているみたいだ。
だけどこんなに早く病気になることだけはマネしないで欲しい。実を言うと私は昨年、筋ジストロフィーと診断された。これは身体中の筋肉が徐々に固まっていく病気で、現在難病に指定されている。この病気に効果的な治療法はなく、一般的に親より先に亡くなるケースが多い。2、3年後には歩けなくなり、最後は自力で息を吸うこともできなくなる。考えただけでも怖いだろ。お前もそう思わないか。
私が病気に気づいたのはお前を散歩していた時だった。段差もない所で、急に転んだ。立ち上がっても、また転ぶ。何度転んだかわからない。「おかしい」と思った時には、もはや立ち上がることすらできなかった。そんな私を見て、案の定、お前もマネをしたんだ。転んだ時のしかめっ面。ふらつく時の弱々しい足どり。どれもこれも私のマネだ。「誰か助けて」と叫んだ時の遠ぼえも、私のマネだろうか。何だか悲しくて仕方なかったよ。
やがて私は「死」を考えるようになった。このまま不自由な身体で生きているくらいなら人生を終わらせてやりたいって本気で思ったよ。だってトイレにも一人じゃ行けないんだ。車椅子の身体ではお前を公園に連れて行くことも、一緒に走ることもできない。せっかくかなえた夢だって2年で絶たれた。悔しくて、悲しくて、やるせない。だからこの前こっそり死のうとしたんだ。
リビングからキッチンに向かおうとしたらお前もついて来たよ。杖を滑らせて転んだら、やっぱり、お前も転んでさ。床にはいつくばって進めば、もちろんお前も床にはいつくばってたよ。お前は死ななくていいんだ。こんなことはマネするなよ。私はそう言いながら、必死に、キッチンの包丁に手を伸ばしたんだ。
その時だ。お前が私の手にかみついた。それはまるで「死ぬな」と言うかのように。もちろんかまれた手はすごく痛かったよ。血も出たし、歯型もしっかりついた。でもお前の真っすぐな気持ちがすごくうれしかった。こんな私でも必要としてくれるなら、生きていることはちょっと苦しいけど、悪くないかもしれない。
なあ、コタロウ。今はお前が私のマネをしていた理由が何となくわかったよ。苦しみを分かち合おうとしていたんだよな。何度も転び、あちこちに身体をぶつけながら、お前も、きっと、苦しんでいたんだな。そして死のうとした時にかみついたお前は「それでも生きていて欲しい」と言ってくれたんだよな。不自由はあっても、それを超える幸せがあることを、お前は身をもって証明してくれたんだ。
この先もお前はきっと私のマネをし続けるだろう。寝たきりになって天井を見上げる生活を、きっと、お前もマネをするだろう。でも今はお前のために少しでも前向きな自分でいたいと思うよ。だから今、リハビリを始めたんだ。もちろんこんなことをしても病気は治らないし、いつかは寝たきりになる。それでも前向きな姿をお前にはマネして欲しいと思う。転んだ分だけ立ち上がる強い気持ちを、ね。
今はお前のおかげで生きてるよ。お前のために生きてるよ。死ぬほどつらいけど、死ぬほど生きたいと思えるよ。ありがとう、コタロウ。そして、愛してる。
◆「お手紙コンテスト」の受賞作は、こちらのページからもご覧いただけます。
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