不幸な犬や猫を増やさないため 保健所引き出しから避妊去勢へ、保護団体が転じたわけ

「宮古島SAVE THE ANIMALS」代表の中原絵梨奈さん
「宮古島SAVE THE ANIMALS」代表の中原絵梨奈さん(中原さん提供)

 沖縄県宮古島に移住し、個人で動物保護活動していた女性は、現地で動物保護・譲渡を行う団体から60匹の犬の世話を引き継ぎ、2019年に「宮古島SAVE THE ANIMALS」を立ち上げた。

 しかし、待っていたのは終わりのない保護活動の苦しみと無力感。救っても救っても保健所に送り込まれる動物たちを減らすため、団体は保護活動から動物たちへの避妊・去勢手術へとかじを切った。

(末尾に写真特集があります)

「殺処分数ゼロ」の限界 

 中原絵梨奈さんが代表を務める「宮古島SAVE THE ANIMALS」は2019年、保健所の全頭引き出しと譲渡活動からスタートを切った。

 前団体から引き継いだ「殺処分数ゼロ」のために、次々と保健所に持ち込まれる犬猫を引き出し、譲渡先を探しては送りだす日々。島には犬猫の適正飼育が浸透しておらず、放し飼いの文化が根強くのこっていたため、譲渡先はほぼ県外。譲渡する相手とのマッチングもままならないまま、ボランティアの手を借りて次々と犬猫を本土に運んだ。

 引き出しても引き出しても、保健所に持ち込まれる犬猫はあとを立たず、かかえた頭数は、犬猫合わせて最大で250匹。中原さんは開始直後から、前団体から引き継いだシステムに限界を感じていた。

「全頭引き出しは止められない。抱える数が多いから、焦って譲渡する。きちんと健康状態を見ずに送り出された子たちは、あとから病気や生まれつきの障害がわかってトラブルになることも多々ありました。不幸な動物を減らすための活動なのに、これでは施設をやってる意味がない。一度立ち止まって考える必要があったんです」

頭数制限が必要

 中原さんは悩んだ末、保健所引き出しを停止し、島で飼われている動物たちの避妊・去勢による頭数制限に活動方針を切り替える決断をした。

「精神的にも体力的にも限界を感じたんです。今の譲渡活動では保健所に持ち込まれる動物たちは減らない。不幸な動物たちを増やさないためには、保護・譲渡とは別のアプローチが必要だと思いました」

 中原さんは早速、本土から施術をしに来てくれる獣医師を探しはじめた。最初の一斉手術は、2019年の2月。島の施設内に獣医師を呼んで、飼い主たちを説得して連れてきた40匹の犬たちを手術した。

動物の避妊去勢手術
当初は最低限の設備の中、手術を行った(中原さん提供)

 頭数制限に重要なのは、すべての犬猫に素早く手術すること。そのためには、より多くの島の人たちの賛同を得る必要があった。

「当時の宮古島は、犬も猫も放し飼いで繁殖するのが当たり前。子犬が生まれて困って譲渡先を探すけれど、手術するという考えまで至らないのでまた増えての繰り返しでした。そこで、地元の新聞の取材を受け『無料で手術するので来てください』と告知したんです。始めはなかなか反応がありませんでしたが、徐々に問い合わせが増えるようになっていきました」

 年配の世代が新聞やテレビで中原さんの活動を知り、さらに高校での講演依頼が舞い込むと、子どもたちから親世代に認知が広がった。

利益の出ない運営

 2020年8月、「宮古島SAVE THE ANIMALS」は、保護施設内に最低限の医療設備を整え、登録獣医師8人の協力のもと、島内初の避妊・去勢専門病院をオープンした。

「コロナ禍や設備の不足でなかなか先生が来てもらえず、手術数が伸ばせない中、勤務している病院が休みの日に本土から島に通ってくれる先生もいました。おかげでオープンした8月から毎週手術をすることができ、昨年度(2020年4月〜2021年3月末)は犬153匹、猫488を手術することができました。今年度(2021年4月〜)に入ってからも、犬45匹、猫108匹を手術している。順調なペースです」

動物の避妊去勢手術
保護施設内に避妊・去勢手術のための設備を用意し、島外から獣医師を呼び寄せて手術を行っている(中原さん提供)

 しかし、それでもまだまだ手術は追いつていない状態だと中原さんは憂う。

「飼い主のいない犬猫を増やさないためには、短いスパンでスピーディーに手術する必要があるんです。時期になって堕胎する犬猫は多いので、もっと早く手術していればという悔しさも何度も経験してきました」

 継続の苦しさは、金銭面でものしかかる。無料で行う手術費用の大半は、団体への寄付でまかなっている。

「『手術はしたいけど、お金がかかるなら保健所に連れていく』と言われたら、じゃあそうしてくださいとは言えない。沖縄県は狂犬病予防注射の摂取率がワーストなので、犬なら注射も必須。猫の場合は、多くは野良でTNRしてしまうので、もちろんこちらも利益は出ません」

 医療を継続するには巨額のお金がかかるが、保護動物専門病院では利益が出せない。それでも、これ以上飼い主のいない動物を生まないため、医療は最重要だと中原さんは考える。

苦しみを終わらせるため

「現状を変えるための痛みを自分で終わりにしたい」。中原さんは、テレビやメディアで取り上げられることが少ない、保護団体を運営する者としての苦しみを明かしてくれた。

「動物が好きだから助けたいと思う。でも、命を預かる責任は大きく、24時間365日、自分の人生をなげうって戦わなければいけないんです。お金も時間も逃げ場もない。それほどまでに疲弊しても、また目の前で動物たちが捨てられていく。まるで無責任な人間の尻拭いをするために働き続けているみたい。でも、どんなにつらくたって今生きている子がいるから手は引けない。助けられない子がいれば苦しい。終わりのない仕事と命と向き合う重圧に押しつぶされそうな3年間でした」

「宮古島SAVE THE ANIMALS」に限ったことではなく、多くの保護団体は常に定員以上の頭数を抱え、善意の寄付によって活動をつないでいる。別の事業で得た収益を運営につぎ込む運営者も多く、命を預かる責任も、運営の責任も一手に担って、ギリギリのバランスで成り立っている。

 不幸な動物を減らすことはもちろん、命を救いたいという人たちの苦しみを終わらせるためにも、頭数制限がいま、必要だと中原さんは訴える。

本当の理解と支えを

 中原さんの現在の目標は、あと数年の間に島の保護施設を縮小し、自身が40歳になる4年後ごろには完全に閉じて老犬たちのケアにシフトすること。そのためには、頭数制限という活動への世間の理解が必要不可欠だと考えている。

ケージのなかの猫
野良猫は避妊・去勢後、TNRを行う(中原さん提供)

「目の前の命を救うための保健所からの犬猫の引き出しや譲渡活動が、注目されがちのように感じています。けれど、“救わなければいけない命を減らす”ことも重要な活動なはず。頭数制限と言い続けていると、犬や猫にいなくなってほしいのか?と言われることもある。そうではなく、生まれるからには、みんなが幸せになってほしいんです」

 まっすぐに話す中原さんの、シンプルな願いと壮絶な戦いに、私たちはどう協力できるのだろうか。質問してみると迷わず、「頭数制限への認知と、本当の理解です」という答えが返ってきた。点で終わるのではなく、未来につながる線の活動を理解し、支える力がいま必要だ。

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原田さつき
広告制作会社でコピーライターとして勤務したのち、フリーランスライターに。SEO記事や取材記事、コピーライティング案件など幅広く活動。動物好きの家庭で育ち、これまで2匹の犬、5匹の猫と暮らした。1児と保護猫の母。猫のための家を建てるのが夢。

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