病気と闘う子供たちに笑顔を! 国内で育成された初のファシリティドッグが誕生

 小児がんなどの難病と闘う子どもとその家族に寄り添い、治療や手術の際のサポートに力を発揮する「ファシリティドッグ」。

 今回、日本で育成された初のファシリティドッグが誕生した。これまでの活動、新しいファシリティドッグとハンドラーの横顔、そして、私たちにできる応援についてリポートする。

(末尾に写真特集があります)

同じ苦しみを背負った子どもたちと家族の力になりたい

「ファシリティドッグ・プログラム」を運営、推進しているのは「シャイン・オン! キッズ」。前身の「タイラー基金」は、生後まもなく重病を発症し、2歳を迎えることなくその短すぎる生涯を閉じたタイラーくんの母親であるキンバリ・フォーサイスさんによって2006年に設立された。

「シャイン・オン! キッズ」を設立し、現在理事長を務めるキンバリ・フォーサイスさんと息子のタイラーくん
「シャイン・オン! キッズ」の生みの親で、現在理事長を務めるキンバリ・フォーサイスさんと息子のタイラーくん

 闘病生活でも決して笑顔を絶やさなかったタイラーくんの勇気、そして自分たちの経験は、同じような苦しみを背負っている子どもたちと家族の力になれるに違いないーー。その思いを胸に活動をスタートした。

 その後、2012年に「特定非営利活動法人シャイン・オン・キッズ」として認定を取得。キンバリさんは、タイラーくんの闘病を通じ、日本では最先端の医療を受けられる一方で「心のケア」が大きく遅れていると感じていた。

 そこで、欧米で取り組まれている心理社会的サポートを実現できないかと考えた。その活動の柱の一つが「ファシリティドッグ・プログラム」だった。

 小児がんや重い病気を患い、つらい治療や長期入院を余儀なくされている子どもたちとその家族に笑顔を届ける。さらに、病状や病室内の環境も配慮しながら子どもたち一人ひとりの状態に合わせて遊んだり、苦しい治療時や手術前にはそっと寄り添ったりと、心も治療も支える役目を担っている。

活動中のファシリティドッグ
ファシリティドッグは、辛い治療に立ち向かう勇気を子供たちに与えている

日本で一から育成したファシリティドッグが正式就任

 保護犬などを訓練して施設を訪問するセラピードッグとは違い、ファシリティドッグは血統や性質、健康面からその能力がある犬を選抜し、子犬のころから専門的なトレーニングを受け育成される。

 また、ファシリティドッグのパートナーとして指示を出す「ハンドラー」もシャイン・オン!キッズの規定では、5年以上の臨床経験がある医療従事者であることが条件で、専門的なトレーニングを受けた上でその活動をする資格を与えられる。

 国内では2010年から、ベイリー、ヨギ、アニー、アイビーの4匹のファシリティドッグが静岡県、神奈川県、東京都の各医療施設で活動してきた。

 これまでのファシリティドッグは、みんなアメリカで生まれで、子犬のころから確立されたトレーニングを受けた上で来日し活動してきたが、今回はオーストラリアで生まれた2匹の子犬を初めて日本で一から試行的に育成した。

 その1匹、ラブラドールレトリーバーのマサ(2歳)が今回、国立成育医療研究センター(東京都世田谷区)でファシリティドッグに正式就任。7月1日、同センターで就任式が行われた。

 何ごとにも動じない落ち着きがあり、人間大好きで勉強熱心というマサ。いろんなことに興味津々で、なんでも一生懸命見ようとしてできたという眉間のシワがチャームポイント。就任式では、病棟でも大人気の遊び「宝探し」や、患者さんの膝に体を預ける「ラップ」という技を堂々と披露して見せた。

7月から国立成育医療研究センターのファシリティドッグに正式就任した「マサ」
7月から国立成育医療研究センターのファシリティドッグに正式就任した「マサ」。眉間のシワがチャームポイント

研修中に起きた、忘れがたい出来事

「シャイン・オン! キッズ」理事長のキンバリさんにとって、国立成育医療研究センターでファシリティドッグ・プログラムの導入が実現することは、活動を始めたころからの念願だった。

 実は生後1カ月のタイラーくんが急性リンパ性白血病と診断され、それから約2年間、手厚い治療や看護を受けたのが同センターだったのだ。タイラーくんが天国に旅立った後、主治医であった熊谷昌明医師は基金設立を応援し、その活動を支え続けた。

 熊谷医師は残念ながら2012年に亡くなったが、感謝と敬意の思いを込め、ファシリティドッグ候補犬は熊谷医師の名前にちなみ「マサ」と名付けられた。

 マサと一緒にトレーニングに励んでいるもう1匹の「タイ」はタイラーくんの名を受け継いでいる。タイは今秋、静岡県立こども病院で秋に引退するヨギの後任としてデビュー予定だ。

 マサは同センターの正式な常勤スタッフとして、平日は毎日病棟に「出勤」。25年余り看護師として小児専門病棟などで臨床経験があり、専門的なトレーニングを積んだハンドラーの権守礼美(ごんのかみ・あやみ)さんと一緒に病棟の子どもたちの元を訪問する。

日本で一から育成された初のファシリティドッグ「タイ」(左)と「マサ」
日本で一から育成された初のファシリティドッグ「タイ」(左)、「マサ」と、ご協力いただいたボランティアさん

 研修中、「忘れられない場面があった」と権守さん。立ったり歩行したりのリハビリがなかなかできなかった幼い患者が、マサを見つけた途端「あ、ワンちゃんだ!」と立ち上がり、そこから歩くようになったという。

「とても感動的でした。そして、ファシリティドッグの活動の良さをもっともっと広げていきたいと改めて強く感じました」と権守さんは意欲を語る。

 痛みを伴う治療のときにはそっと寄り添い、手術の前には麻酔が効くまでそばにいて恐怖を和らげる。医療スタッフだからできることであり、これまでも「つらい治療もアニーがいるから頑張れる」「ヨギがいたから泣かずに手術に行けた」など、治療に対して前向きになる子どもたちや家族の声が数えきれないほど聞こえてきているという。

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で家族の面会すらも制限される小児病棟も多く、入院中の子どもたちにとってファシリティドッグはますますかけがえのない存在になっている。

チャリティTシャツでファシリティドッグを応援!

 しかし、日本ではまだまだ認知度も低い。育成や活動のための資金はすべて寄付で賄っているが、コロナ禍でリアルの場でのチャリティーイベントなどが開催できない状況が続く。

 そこで「シャイン・オン! キッズ」は「ファシリティドッグ応援グッズ」として、オリジナルのTシャツやパーカー、バッグなどを発売。ファシリティドッグの存在や活動を発信すると同時に、購入金額の一部が活動資金として寄付される仕組み。Tシャツなら3500円のうち700円が寄付金になる。

 今回は、チャリティーファッションブランド「JAMMIN」とのコラボ。「チャリティーをもっと身近に」をコンセプトに、NGOやNPOなどとコラボしたファッションアイテムや雑貨をデザイン・販売する注目のブランドだ。

 オリジナルのTシャツやパーカー、スウェット類はすべて日本製。各地の工場や職人により丁寧に作られ、その技術や文化を残すことにも寄与している。

Tシャツと犬
「JAMMIN」とのコラボで制作されたTシャツと、同じポーズで眠る「タイ」。どちらもかわいい

 Tシャツやパーカーにデザインされているのは、リラックスして寝そべる犬の姿。JAMMINのサイトでは「目には見えないけれど深く結ばれた絆や愛情、それによって輝きを増すいのちの尊さを表現しました」と紹介されている。

 また、犬の絵に添えられた「Born to Shine」のフレーズは、小児がんのお子さんを持つお母さんが「大きな病気を抱えていても、輝くために生まれてきたということをわかってほしい」という言葉から導き出されたメッセージだという。

 かわいくてオシャレなグッズを楽しみながら、病気の子どもたちとその家族、そしてファシリティドッグに笑顔とエールを送ろう! 購入はJAMMINのサイトから。7月31日までの期間限定販売。

 なお、国立成育医療研究センターでは、年間1000万円かかるファシリティドッグの費用を全て寄付で賄っている。

国立成育医療研究センター:
https://www.ncchd.go.jp/donation/application.html
もみじの家:
https://home-from-home.jp/donation/
ファシリティドッグ・プログラムの詳細>シャイン・オン! キッズ 公式サイト

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中津海麻子
フリーライター。「酒とワンコと男と女」をテーマに、ワインや日本酒や食、ペット事情、人物インタビューなど幅広く取材、執筆。JALカード会員誌「AGORA」、同機内誌「SKYWARD」、「ワイン王国」「朝日新聞デジタル &w」「好書好日」などに寄稿。

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