飼い主亡くし声を出さなくなったチワワ 新しい家族に出会いゆっくり心を開いていった
飼い主を亡くし心に傷を負った極小チワワ(ロングコート)のかえでは、愛情いっぱいの家族のもとに引き取られ、5年の年月をかけて少しずつ元気を取り戻した。
飼い主を亡くしたチワワ
福岡県で暮らすかなこさん夫婦がかえで(7歳・雌)と出会ったのは、2016年の夏のことだった。
ある日、親族の葬儀を終えたばかりの知人が自宅に訪ねてきた。事情を聞くと、亡くなった親族が飼っていた犬の引き取り手を探して回っているのだという。知人が連れてきていたそのチワワは、犬に慣れていないかなこさんにとって、「扱いが怖いほど小さく、おとなしい」印象だった。
かなこさんが飼い猫と犬を引き合わせてみると、2匹の猫たちは威嚇もせず、意外にもすんなりと彼女を受け入れた。その様子を見たかなこさんは、すぐに心を決める。
「今日からうちにおいでよ」
こうしてかなこさん一家はかえでを家族に迎えた。
声を出さないかえで
引き取った当初、かえではまだ2歳と、普通ならやんちゃざかりのころだった。
しかし、一緒に暮らし始めたかえでは、ごはんを食べるか寝ているかで、散歩も気乗りしない様子。ほえることもなければ声を出すことすらなかった。
犬と暮らした経験がないかなこさんは、「犬はこういうものなんだ」と感じていたが、子供の頃に犬と暮らした経験があるかなこさんの夫は、かえでが普通の犬と少し違うことに気づいていた。
「かえではとても敏感で、テーブルにコップを置く音だけでもしっぽを丸めて部屋の隅に逃げて行くんです。散歩のリードを見せると怖がってパニックになることもありました。もしかしたら、飼い主を失ったことが心の傷になっているのかな、と主人と話していました」
はじめての「おかえり」
ところが、一緒に暮らし始めて1カ月経ったほどある日、かえでにある変化が起こった。
「いつもなら主人が帰宅してもひかえめにしっぽを振る程度だったんですが、その日は主人が玄関を開ける音を聞いて、『ワンッ!』と鳴いて飛び出して行ったんです!それまで声も聞いたことがなかったので、『この子は鳴かない子なのかな?』と話していたんですが…もうびっくりしたし、『こんなに元気だったんだ!』とうれしかったですね」
夫婦はかえでのはじめての「おかえり」が、「この家の子になってあげる」、という合図に思えた。
その出来事以降、おとなしかったかえでは徐々に本来の性格を見せるようになる。
先住猫の太郎(アメショー・雄)とは、太郎が9歳の時に病気で先立つまで仲良しだったが、同じく先住猫の小鉄(マンチカン・雄・6歳)やあとから家族に加わった銀次(ミックス・雄・3歳)にはあたりが強く、かなこさんのひざは決して譲らない。
かえでの友達に、と家族に迎えたチワワのさすけ(雄・4歳)にも興味がなく、さすけがかえでの側で寝ていると怒って威嚇することもある。
「紅一点なので、『我が家のわがままなお姫様』という感じですね。私が新しいクッションを買ってきたときも、体は一番小さいくせに、真っ先に一番大きなクッションを占領して、他の子たちがくると威嚇していました(笑)」
愛情を込めたケアと変化
かなこさんは、心に傷を負い、膝蓋骨(しつがいこつ)脱臼やけいれん発作の症状も持っているかえでに手をかけ、愛情をかけて接した。体質改善のために、働きながら手作りごはんを作り置きし、体の苦痛を和らげるために東洋医学を学んで、家でマッサージを施す。
そんなケアを続けるうちに、以前はびくびくしていたかえでの表情は日に日に引き締まり、嫌がっていた散歩も自ら歩きたがるまでに変化したという。
「以前は散歩に行ってもすぐに疲れて抱っこをせがんでいましたが、今は公園に着くとすぐに『芝生に下ろせ!』と言うんです。おじさんが大好きで、公園でおじさんを見かけると飛んでいきますよ(笑)家に帰ってからも元気で、家に入らず庭で遊ぶこともありますね」
かなこさんは最近になって、かえでの気分をはかるバロメーターも発見した。
「極小ロングコートは歯の構造上、舌が口の中にしまいにくいんです。かえでは、やる気がないときはベロをだらーんと垂らしているんですが、ごはんの準備や散歩に行くときは気合を入れているのか、ベロの出方が短いんですよ」
かえでの変化を見たり、かえでのことを知るたび、かなこさんはうれしく、幸せな気持ちになれるという。
心の傷が消えるまで
猫らしい性格の小鉄と銀次は気が向いたときにしかかなこさんたちの生活に干渉してこないが、かえでは常に人のそばにいる。そのため、かなこさんや夫はお互いに不満があるとき、直接文句を言わず、近くにいるかえでに話しかけるように不満を言うようになった。
「どんな内容でも、かえでに話しかける時にはお互い優しい口調になれるじゃないですか。かえでのおかげで夫婦げんかがなくなって、家の中の空気が柔らかくなりましたね」とかなこさんは話す。
かえでが家族になって、もうすぐ6年。今後、かえでとどのように過ごしていきたいか、かなこさんに尋ねてみた。
「このまま少しずつ、甘えたり、お散歩をせがんだりできるようになってくれればうれしいです。あまり感情表現をしない子なので、まだ心の傷が消えていないのかな?と思うこともあります。心を開くのに時間がかかる分、長生きして欲しいですね」
かえでのつらい記憶が、幸せな時間で塗り替えられる日は遠くないだろう。
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