「不思議な関係」から始まった保護猫との暮らし お気に入りの家で快適に過ごす

 フリーランスのライターとして活動しながら、東京都豊島区で「北欧雑貨の店 Fika」を営む塚本さん。「自由気ままな生活を乱してくれる存在がほしい」との思いで迎え入れたサビ猫「ぐー」との暮らしは、少し「不思議な関係」から始まった。

(末尾に写真特集があります)

「この家には猫が似合う」と言われて

 長年勤めた編集プロダクションを退職すると同時期に、一軒家を建て、自宅兼ショップを開いた塚本さん。リモート取材でつないだ画面には、4歳になるグリース(通称:ぐー)が塚本さんに甘える様子が映っていた。

サビ猫の後ろ姿
「グリース」はスウェーデン語で「ぶた」の意。由来は、チャームポイントでもある、ぶたのようなカギ尻尾から(塚本さん提供)

「猫を飼うのは初めてです。子どもの頃は実家に犬がいたけれど、お世話係は母という典型的なケース。自分が動物を育てるなんて、まったく想像がつきませんでした」

 そんな塚本さんが猫を飼ってみようと考えたきっかけは、保護猫と暮らす友人からのこんなひと言だという。

「この家には、猫が似合う」

 7坪と決して広さはないものの、3階建てでステップが多く、日当たりのいい塚本邸は、確かに猫にとって最高の環境だ。北欧雑貨や木製の家具に囲まれた空間も、猫のくつろぐ姿がよく似合う。

雑貨と猫
自宅に飾った北欧雑貨の隙間を上手にすりぬけて(塚本さん提供)

「フリーランスになってずっと家で仕事をするようになり、日々の生活にメリハリがつかないことが多くて。何かにリズムを乱してほしかったんです。そんなとき、友人が猫を連れて遊びに来てくれて。『可愛いな、いいかもしれない』と思ったんです」

初めてぐーを見たときのこと

 友人とともに譲渡会へ足を運び、そこで出会ったのが、ぐーだった。

「初めてぐーを見たときのことは、すごくよく覚えています。猫好きの方にこの話をすると、必ず引かれるんですけど……。私、ぐーのことを『かわいい』って思えなかったんです」

 猫初心者だった塚本さんにとって、猫といえば「茶トラかキジで、顔が丸くて、ふっくらしていて」と、そんなイメージ。

「でも、サビ猫って顔も体もシャープで、野性味があるし、柄もなんだか複雑ですよね。会場には、イメージ通りのいわゆる『かわいい』猫もたくさんいましたよ。でも、友人がぐーを抱き上げながら、『この子がいい!』とぐー推しで。それで……断り切れなかったといいますか(苦笑)」

ケージに入る猫
譲渡会の日のぐー(塚本さん提供)

 いまなら、サビ猫の魅力はよく分かる。飼い主に懐く猫種で、一緒に暮らしやすい。でも、当初はそんなふうに思えなかった。

「そんな始まりだったので、無条件に可愛がるという感じでもなく、お互いに距離がありましたね。友人に『猫と暮らしてどのくらい経ってからかわいいと思うようになった?』って聞いたことがあったんです。そうしたら、友人はぐーを見つめて『大丈夫?』と心配していて。こんな質問はしちゃいけないんだな、と。珍しいケースなんだなと、そのとき気づきました」

距離のあった2カ月間

 ぐーとの暮らしがスタートすると、塚本さんの体調に変化が。食欲がなくなり、体重も落ちてしまったという。原因は、無機質なケージの存在感や、猫のトイレが生活空間にあること、階段の手前に脱出防止の柵を取り付けたこと――。

「自分の好きなように建てて、自分の心地よいように作っていた空間が、どんどん猫仕様に変わっていく。最初の2カ月くらい、それがすごくストレスで。ぐーとの距離も縮まらないし、すごく不安でした」

サビ猫
当初はぐーのスペースをワンフロアに制限していた(塚本さん提供)

 一方、ぐーもケージを嫌がり、階段もあっという間に上り下りしてしまった。塚本さんは、空間を制限している方が逆に危ないと判断し、早々に柵やケージを撤去。家じゅうを解禁した。

「そうしたら、すごくのびのび過ごすようになって、ぐーの様子が落ち着いてきたんです。同時に、私も家の中が少しずつ元の空間に戻っていくことで、徐々に心の平穏を取り戻していけました」

 ぐーのことを『同居人』という対等の存在として見ていたからこそ、「人間のためだけ、猫のためだけ、ということではなく、お互いに心地いい空間でないと、ともに暮らすうえではうまくはいかなかったんですね」と塚本さんは言う。

「その頃からですね、ぐーのことを『かわいい』と思えるようになったのは(笑)」

猫も自分も、暮らしやすい家で

 ぐーとのエピソードで、印象的なことは――。

「お正月休みで実家に連れて帰ったときに、ぐーが家の中で行方不明になってしまったんです。実家は猫が隠れられる場所がたくさんあったこともあり、どこを探しても見つからなくて。しばらくして、食器棚の上にある収納箱の裏に隠れていたところを、背の高い兄が見つけてくれました。

 外には出ていないと思いながらも、心配で心配で、見つかったときはほっとしました。そのときに、ぐーは一緒にいて当たり前の、家族のような存在なんだなと思いましたね」

 一緒に暮らしてもうすぐ丸4年。ぐーには甘え方のブームがあるという。

「この冬は、私の片方の肩に首を乗せてぴったりくっつくのがブームでした。私はもう片方の手で、ぐーの腰のあたりをとんとんたたくんですけど、それも結構強めにたたいたほうが好きみたいで。ヘンですよね(笑)。でもそういうところも、かわいいなと思います」

「ほかの猫好きさんに比べて『溺愛(できあい)!』という感覚ではないけれど」と、繰り返し付け加えながら、画面の先で塚本さんは笑いながらぐーを見つめている。

外を眺める猫
外には何があるのかな?と様子を伺うぐー(塚本さん提供)

「生活を乱してほしいと思って猫と暮らし始めたけど、結局、私自身の生活に大きな変化はなかったんです(笑)。長期の旅行に行きづらくなるな、という制約はできたけれど、それも許容範囲として受け入れているといいますか。もともと家にいることが大好きなので」

 日中、ぐーは日当たりのいい3階で過ごし、日が暮れてくるとリビングに降りてくる。出窓に上ったり、大きな窓から外を眺めていることも。友人から「猫にとっていい家だね」と言われるという。

「猫って、自分が過ごしやすい場所を見つけるのが上手ですよね」

 微妙な距離感で始まった塚本さんとぐーの暮らし。いまも「不思議な関係」のまま、お互いのペースで、心地よく暮らしを楽しんでいるようだ。

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増田夕美
フリーライター・編集者。ライフスタイル系を中心に、インタビュー、コラム執筆、SEO記事作成など幅広く活動。ときどき銭湯取材も。幼い頃から身近に動物がおり、これまで猫2匹、犬1匹と暮らす。現在は三毛猫が1匹。

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