元繁殖猫から生まれた子猫 先住猫と意気投合、食べるのも遊ぶのも大好きに

 今年8月、動画配信サービスに、悪徳ブリーダーによる飼育崩壊現場の映像が公開された。その劣悪な環境から救助された元繁殖猫が、保護先で子猫を出産。そのうちの1匹の飼い主となった女性の元を訪れた。

(末尾に写真特集があります)

本物の姉弟のような2匹

 東京・杉並区にある庭付きのマンション。玄関のチャイムを鳴らすと、飼い主の麗子さん(58歳)が迎えてくれた。

「ごめんなさい、いま2匹ともお昼寝中で……。あ、1匹は起きたけど隠れちゃったかな」

 日当たりのいいリビングでは、ふかふかのクッションの上で、うす茶の子猫が眠っていた。生後4カ月のオス猫、そらくんだ。今年10月、麗子さんの元へやってきた。

「物おじしない性格で、食いしん坊(笑)。あと、とにかくすばしっこくて、うちでは『チョロQ』って呼ばれることも」

 話し声に目を覚ますことなく、お腹を天井に向けて寝ている。

 麗子さんとご主人、社会人のお子さんの4人暮らし。麗子さんは今年1月、メス猫のうみちゃんを迎えたばかりだった。

先住猫のうみ(左)とハロウィーンパーティー(麗子さん提供)

「先住猫と新しい猫が打ち解けるまで、だいたい2週間くらいかかるって聞いていたんです。でも、うみとそらはたった4日で仲良しに。驚きました」

 血のつながらない2匹だが、相性はぴったりのようだ。

「ときどき、うみがそらのお母さんのように接することがあるんです。うみだってまだ1歳の子どもなのに、気を遣いすぎじゃないかって、ちょっと心配になるくらい」

 ソファの下に隠れていたうみちゃんが顔を見せてくれた。麗子さんは目を細めた。

恵まれない境遇に生まれた子を幸せに

 3年前、飼っていたセキセイインコが13歳で大往生を遂げた。そのとき麗子さんは命の重さを感じ、しばらく動物と暮らすことは考えられなかったという。でもー。

「なんかふと、また頑張ってみようかなって」

 子育ても一段落し、ちょうど仕事も退職を決意した時期。新しい命を預かる挑戦を、再びしてみようと思い立った。迎え入れるなら、ペットショップではなく保護猫と最初から決めていた。

「どこで生まれた猫であれ、かける愛情は同じ。それならば、大変な境遇に生まれた子を幸せにしてあげたいと思ったんです」

 保護猫サイトを経由して、「おーあみ避難所」で保護されていたうみちゃんと出会った。

 猫を飼うのは初めてで、麗子さん自身不安でいっぱい。家族からも心配された。最終的に、自宅から徒歩5分の場所に猫専門の動物病院があることが後押しとなり、うみちゃんを迎え入れることに。

青い瞳なので「うみ」と名づけた

 だが、一緒に暮らして半年くらいが過ぎたころ、うみちゃんの寂しそうな表情が気になったという。

「庭にきた地域猫を家の中からずっと眺めていて。『遊びたいのかな、兄弟がいたほうがいいのかな』って思ったんです」

 うみちゃんが1歳になる前に、もう一匹迎え入れようと決意。再び保護猫を探し始めた。

元繁殖猫の子どもを家族に

 そのとき、麗子さんは悲惨な映像を目にしてしまう。悪徳ブリーダーによる飼育崩壊現場だ。

「『悪徳ブリーダー』って言葉では聞いていたけど、映像で見たのは初めて。とてもショックでした」

 高齢のブリーダーが40もの猫やウサギを飼っていたが、飼育小屋は糞尿まみれ、餌も1日1回与えられているかも分からなかった。

「こんなひどいところで子どもを産ませているなんて」

屋外の劣悪な飼育環境(おーあみ避難所提供)

 映像には、虐待飼育されていた猫たちが次々と映し出された。糞がこびりつき悪臭を放つ猫、生きる気力をなくした猫、人の言葉に反応しない子猫。死んだまま放置された猫。

 そのなかに、力なく横たわる1匹の妊婦猫がいた。推定8歳。

 これまで何度も出産させられた繁殖猫だった。耳ダニがつき、掻きすぎて耳が壊れてしまっていた。うみと同じ「おーあみ避難所」に保護され、無事に出産。ままりんと名づけられた。

「映像を見た日の夜におーあみさんに連絡して、『猫を引き取りたい』という意思を伝えました。『うみに合う子なら、どんな子でもいいです』と。結果、ままりんが産んだ子猫の中から紹介してもらったのが、そらだったんです」

食いしん坊に育って

 コロナによる外出自粛もあり、子猫の様子は写真でしか見ることができなかった。迎え入れ当日、麗子さんの自宅が初対面の場となった。

「初めて抱いたそらは、本当に小っちゃくて。体重を量ってみたら、たったの768g。本当に育てていけるのか、少し不安になったほど」

迎え入れ当日の様子(麗子さん提供)

 いまでは2㎏近くにまで増えた。だが、近い月齢の子猫と比べると「心なしか身体が小さい気がする」と麗子さんは言う。

「やっぱり、母親の栄養状態が影響したのでしょうか……。でもね、そらは本当によく食べるんですよ。獣医さんいわく、そらは赤ちゃんの割に活発に動きまわりすぎなんですって。そりゃあ、おなかも空きますよって言われて(笑)」

 遊び盛りは、そらくんだけではない。

「昼間はいつも2匹で駆け回って、大運動会なんです。おかげで、夜はぐっすり寝てくれます(笑)。寝るときは別々。それぞれお気に入りの場所があるみたいで」

 いつのまにか、そらくんも起きてきて、こちらを見上げていた。

これが「最後の命」

「そらが来てからまだ2カ月ですが、2匹の猫との毎日は新しい発見続き。とにかく『必死』です(笑)。知らないことばかりなので、猫の飼育に関する本もたくさん読みました」

 麗子さんの腕をすり抜けたうみちゃんが、食器棚の上に置かれたお気に入りのカゴにぴょんと飛び乗った。そらくんは、まだ真新しいキャットタワーでまったり。

 さっきまで2匹がくつろいでいたソファには、爪とぎから張地を保護するために、青と黄色の布がかけられている。

「猫と暮らすと、家の中に置く物や、見える景色もがらりと変わりますよね」

お気に入りのおもちゃを握ったまま眠ってしまった(麗子さん提供)

 誕生日が1年も違わない2匹だから、歳をとっていくのも同じペース。かつて家族だったインコと同じように、これから先、10何年と一緒にいられたなら。

「私自身の年齢も考えると、命を預かるのはこれが最後かな」

「ご飯をあげて、トイレをきれいにして、まさに子育てに追われている感じ」と、麗子さんは楽しげに笑った。最近まで子どもの話題中心だったご主人との会話は、もっぱら猫のことばかりなのだそう。

 麗子さんは、始まったばかりの「第2の子育て」を、心から楽しんでいるようだ。

◆おーあみ避難所の活動の様子はホームページをご覧ください。

増田夕美
フリーライター・編集者。ライフスタイル系を中心に、インタビュー、コラム執筆、SEO記事作成など幅広く活動。ときどき銭湯取材も。幼い頃から身近に動物がおり、これまで猫2匹、犬1匹と暮らす。現在は三毛猫が1匹。

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