東京駅近くをさまよっていた子猫 「クスクス」と名付けられ、飼い主を笑わせる存在に

 目ヤニと鼻水でぐちゃぐちゃの顔をした子猫が、東京駅の近くのビルガラスにぶつかりながらさまよっているところを保護された。猫は「クスクス」という名をもらい、同じ頃に保護された「ウフフ」と仲よく追いかけっこを繰り広げ、幸せな日々を送っている。

(末尾に写真特集があります)

丸の内に遺棄猫?

「東京駅近くのビルのガラスに衝突しながら、子猫がヨロヨロさまよっている」という通報が、通行人から丸の内警察署に寄せられたのは、昨年10月5日の朝のこと。署員がすぐに駆けつけて子猫を保護をした。

 子猫は、鼻水で顔はぐちゃぐちゃ。こびりついた目ヤニで、何も見えていない状態だった。車道にさまよい出ていたら、命は一瞬でつぶれていた。通報されなかったら、脱水で命は尽きていた。夜中から早朝にかけて、残酷な手により遺棄されたと思われる。

子猫
警察署に保護された当時(ちよだニャンとなる会提供)

 警察署から知らせを受けて、保健所職員と「ちよだニャンとなる会」代表の香取さんが駆けつけた。「殺処分ゼロ」を10年前から継続している千代田区では、捨て猫や事故猫などを保護する場合、保健所とちよだニャンとなる会との連携がバッチリできている。通報から保護までは、とてもスピーディーだった。

 段ボール箱のまま子猫を引き取って、会の協力病院である赤坂動物病院へ運ぶ最中、香取さんは気が気ではなかったという。警察から「とても具合が悪いようだ」と聞いていたからだ。

「そっと中をのぞいたら、目ヤニと鼻水で目がつぶれかかっているのがわかりました。少し動いたので、どうか助かってくれますように、と祈るような気持でした。4年前に『飼い主のいない猫』をすべて保護してから猫のいないはずの場所。どこからか運ばれてきたのではないでしょうか」

 手当を受けた子猫は、そのまま動物病院預かりとなって、元気になり次第、譲渡先を探すことに。仮の名は、東京駅そばで保護されたので、「TOKIO(トキオ)」となった。トキオは、右眼球の萎縮が残った。眼球の外傷はないので、猫風邪のウイルスによるものとみられる。

子猫
保護されて動物病院へ運ばれる(ちよだニャンとなる会提供)

動物病院での貼り紙に目がとまる

 今年1月のある日。ちよだニャンとなる会の事務局に勤めるユウコさんは、会で保護中の看取り猫の診察で、赤坂動物病院を訪れた。待合室の壁には、当院を介して譲渡先を探している猫たちの写真がずらりと貼ってある。

 その写真を眺めながら、「そろそろ、次の猫の迎えどき」と思った。夫妻で可愛がっていた「ハナ」を、先月に18歳で亡くしたばかり。夫はかなり落ち込んでいる。

 譲渡先募集中の写真の中に、ちよだニャンとなる会で保護した、あの東京駅猫トキオもいるではないか。ひどい状態で保護されたと聞いていたが、あどけなく、ちょっとやんちゃそうな子である。「この子、可愛いなあ」と心にとまった。

 ハナは他の猫を受けつけない子だったので1匹飼いだったが、今度迎えるならば、遊び相手となる2匹で迎えてやりたかった。

 ちょうど同じくらいの月齢で、民家の庭で保護されてやってきたさび猫の写真も貼ってあった。トキオともう1匹を迎えることに、夫も賛同してくれた。2匹の相性を先生に聞いてみると、こんな返事が。

「サビの子は人見知りだけど、トキオのほうは、ひとりでも誰とでもいつでも『ワーイワーイ!』とにぎやかに遊べる、久しぶりのおもしろい子なので、いいかも」

毎日毎日笑わせる存在に

 そうして、2匹はユウコさんの家にやってきた。トキオはすぐさま、本領を発揮。なんでも見てやろう、匂いを嗅いでやろうと、先生の言った通りにぎやかに暮らし始める。つられて、サビ猫もそろりそろりと子猫らしいやんちゃを始め、たちまち家じゅうが遊園地。

サビ猫
クスクスには強気の、ビビリのウフフ嬢

「そんなサビの姿を見て、『ウフフ』という名がひらめいたんです。じゃあ、もう1匹は『クスクス』だな、と。猫を迎えて、毎日、ウフフクスクスって笑顔で暮らしたいと思っていましたから」

 ウフフは、気が強いくせにビビリな女の子。クスクスは、屈託がまるでない天然ボーイ。正反対の性格同士、仲よし兄妹となって、毎日毎日追いかけっこやかくれんぼを繰り広げている。 

 クスクスの右眼球萎縮は、生活にまったく支障はないようだ。

「ものすごい勢いで走って、よく壁なんかにゴツンとぶつかっていますけど、視力のせいというより、やんちゃが余ってだと思います(笑)」と笑うユウコさん。

遊ぶ子猫
動くものには、食いつきが早い

 推定8カ月を迎えたクスクス。相棒とともに、ユウコをさんを「ウフフ」「クスクス」と毎日笑わせているばかりか、畳んだ洗濯物をまき散らすなどいろいろやらかして大笑いさせてばかり。

「実態はアハハくんなんですけど、このコロナ禍で笑ってばかりもいられないから、クスクスの名でちょうどいいかな。2匹の遊ぶさまを写真に残したいんですが、スピードが速すぎて、まるで撮れません」と、ユウコさん。取材の日、ウフフはどこかに隠れ、クスクスがあれこれおもしろいポーズで笑わせてくれた。

おなかを見せる子猫
初対面の人にも、このあけっぴろげ

 いうまでもなく、遺棄はれっきとした犯罪。懲役1年以下または100万円以下の罰金と定められている。クスクスの目ヤニでつぶれた目が開いてから眺める世界が、これからもずっとずっとしあわせな情景でありますように。

【関連記事】「生きたい!」「助けたい!」 2つのあきらめない心が瀕死の子猫に起こした奇跡

佐竹 茉莉子
人物ドキュメントを得意とするフリーランスのライター。幼児期から猫はいつもそばに。2007年より、町々で出会った猫を、寄り添う人々や町の情景と共に自己流で撮り始める。著書に「猫との約束」「里山の子、さっちゃん」など。Webサイト「フェリシモ猫部」にて「道ばた猫日記」を、辰巳出版Webマガジン「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。

sippoのおすすめ企画

sippoの投稿企画リニューアル! あなたとペットのストーリー教えてください

「sippoストーリー」は、みなさまの投稿でつくるコーナーです。飼い主さんだけが知っている、ペットとのとっておきのストーリーを、かわいい写真とともにご紹介します!

この連載について
猫のいる風景
猫の物語を描き続ける佐竹茉莉子さんの書き下ろし連載です。各地で出会った猫と、寄り添って生きる人々の情景をつづります。
Follow Us!
編集部のイチオシ記事を、毎週金曜日に
LINE公式アカウントとメルマガでお届けします。


動物病院検索

全国に約9300ある動物病院の基礎データに加え、sippoの独自調査で回答があった約1400病院の診療実績、料金など詳細なデータを無料で検索・閲覧できます。