災害時、ペットのためにできること 被災地・福島で支援を行った江口ともみさんに聞く

福島の被災犬と江口ともみさん
ボランティアとして福島のシェルターを訪れた際の江口ともみさん

 いざというとき、愛する動物家族のために何を備えておくべきか。被災して家族とはぐれたペットはどうなるのか。東日本大震災の際、福島県のシェルターでボランティアとして活動した、タレントで愛玩動物飼養管理士でもある江口ともみさんに話を聞きました。

(末尾に写真特集があります)

大の犬好きが直面した、災害の現実

 子どものころから大の動物好きだったという江口さん。9年前までは保護犬のろびお(テリア系ミックス犬)と暮らしていました。

「ろびは18歳まで生きました。私たち家族の大切な一員で、最後には介護もしました。そういう意味では、犬も人間も変わらないな、と思います」

江口ともみさんの愛犬ろびおくん
江口さんの愛犬、ろびおくん

 江口さんが愛玩動物飼養管理士の資格を取ったのも、ろびおがきっかけでした。

「10年以上前です。母がろびを散歩させていて、公園で犬友達と楽しく過ごしているところに、柴犬を連れた見知らぬ男性が現れて。その柴犬にろびが近づいたのか、その人が突然ろびの首輪をつかんで殴りつけたんです。その場にいたのは女性ばかりで、怖くて悲鳴を上げることしかできず。その人はその場から逃げてしまいました。

 かわいそうにろびはヒゲも抜け落ち、口元も内出血するほどのけがをして……。腹が立った私は、数日その公園で張り込んだんですが、犯人は現れず。こんなとき、飼い主としてはどう戦えるのか、法律的にはどうなっているんだろう、と思うようになって。知人の勧めで愛玩動物飼養管理士に挑戦したんです」

 それほど真面目で動物思いの江口さん。10年前、未曾有の大地震が起こった時も、いてもたってもいられず、ボランティアに参加したのです。

大切なのは「善意」と「理解」

 東日本大震災の直後、被災動物の支援はどんな風に進められていたのか。そこにはどんな課題があったのか。江口さんに時系列でうかがいました。

「まず最初は、都内で被災地へ送る支援物資の仕分けなどからボランティア活動をスタートしました。SNSなどの呼びかけもあり、被災地に送るペットシーツやフード、毛布やタオルなどが続々と寄せられていたんです」

福島県三春の福島動物救援本部 第一シェルターの犬舎を訪れた江口ともみさん
福島県三春の福島動物救援本部 第一シェルターの犬舎にて

 そこで江口さんがまず感じたのは「何が必要で何か役に立つのか、周知できていないな、ということ」。

 亡くなった愛犬が使っていたものだが、是非役立ててほしい、という手紙が添えられた古い毛布。開封されて使いかけだったり、消費期限が切れたフード……。

「困っているのは事実だけれど、洗濯していない毛布やタオル、開封済みのフードは衛生面・品質面で問題があります。たとえ被災地でも不完全な物資を送ることはできませんよね。お気持ちはうれしいけれど、状況を理解して支援していただかないと、せっかくの善意が無駄になることも。何が不足しているのか・どんな水準のものでなくちゃいけないのか。呼びかける側は具体的に発信すべきだし、送る側も最新の情報に触れる必要があると思いました」

はぐれてしまった犬や猫は……?

「自衛隊や消防、警察など被災地を巡回している人たちや個人が保護した動物は、ボランティアが運営する動物救護本部やシェルターに運ばれてきます。災害発生から何カ月も経ってから保護される子もたくさんいました」

 シェルターではボランティア獣医師による健康チェックがあり、しばらく経過観察したのち、犬なら犬舎に、猫は猫舎に入ります。シェルターごとに違いはありますが、獣医師や愛玩動物飼養管理士がボランティア参加しているところでは、伝染病が蔓延することのないように、しっかり管理されているところが多かったようです。

ケージに貼られた猫の健康に関するメモ
ケージには収容されている犬猫の健康状態に関するメモが。こうして情報を共有し、それぞれのコンディションに合ったケアが行われました

「シェルターに収まった動物たちは、犬なら鑑札を調べたり、猫なら写真を避難所に張り出すなどして飼い主探しが行われます。飼い主がわからない子、わかっていても帰れない子(自宅が全壊して避難所や仮設住宅では条件的に飼えないなど)、シェルターにはたくさんの犬猫たちがいました」

 今は避難所暮らしでもいずれ必ず迎えに来る、という場合はボランティアが預かって飼育しますが、被災した人の状況によっては飼い続けられない、というケースだってあります。

「そういう場合は飼い主さんの承諾を得て、譲渡会で新しい飼い主を探します。元の飼い主に戻せるのが一番ですが、事情が許さないことだってある。いざというとき、ご自身の犬や猫をどうするのか。辛いことだけれど飼い主さん自身が判断することが、動物たちの幸せにつながるのだと思います」

飼い主にできる「備え」は?

 東日本大震災以降、人間もペットも、どちらの防災についてもさまざまなしくみや考え方が進んできました。環境省は「ペットは連れて一緒に逃げる」のを基本として掲げるようになり「同行避難」「同伴避難」という言葉も知られるようになってきました。

 そんな中、飼い主が個人でできる備えはあるのでしょうか?

「避難所などでペットと飼い主が同じ空間で暮らせるところは、残念ながらほとんどありません。動物はそれぞれケージに入れられて、動物専用のゾーンにまとめられるのが一般的です。つきっきりでいられない状態が続くことを想定して、少しでもストレスが軽減できるように考えてあげたいですよね」

福島県動物救護本部第二シェルター
こちらは当時出来たばかりだった第二シェルターの犬舎。ドイツのシェルターを参考にしたという、完全個室仕様

 江口さんによれば、飼い主が備えておきたいポイントは下記の通り。

【動物の素性がわかるようにしておく】
・首輪に名前や鑑札をつける
・マイクロチップを入れておく

【社会性のある子にしておく】
・ケージや首輪、リードに慣らしておく
・予防接種は必ず受け、ほかの動物と一緒に預けられる状態にしておく

【ペット用の非常持ち出し袋を作る】
・フードや水、ペットシーツ、常服している薬などを数日分入れておく
・かかりつけ獣医の連絡先やペットの名前、健康情報(既往症など)を書いたものを入れておく

「災害時は動物にとっても非常事態。普段人懐こい子でも、おびえて出てこない、狂暴化する、ということだってあります。シェルターではボランティアがお世話をしますから、ある程度人慣れして他人の手にゆだねやすい子にしておくことも、結果的にはペットのために大切です」

ケージの中の被災犬
被災したショックや環境の大きな変化はただでさえ犬や猫には大きなストレス。少しでも負担を減らすためにも、災害時を意識したトレーニングは大切

 愛玩動物飼養管理士として、タレントとして、江口さんは今もペットの適切な飼育と防災について積極的に情報を発信しています。

「最近はClubHouseなど新しいSNSも生まれて、情報がどんどん共有しやすくなっていますし、ペットの防災に関する本もあります。大切な家族だからこそ、どうしてあげたらいいのか、何をしてあげられるのか、ぜひご自分のこととして考えていただけたら、と思います」

(写真提供:江口ともみさん)

江口ともみさんプロフィール
1968年2月4日、東京都生まれ。テレビのバラエティ番組の司会や出演者として活躍中。「ビートたけしのTVタックル」「ゴゴスマ〜GOGO!Smile!」などに現在出演中。愛玩動物飼養管理士一級。

浅野裕見子
フリーライター・編集者。大手情報出版社から専門雑誌副編集長などを経て、フリーランスに。インタビュー記事やノンフィクションを得意とする。子供のころからの大の猫好き。現在は保護猫ばかり6匹とヒト科の夫と暮らしている。AERAや週刊朝日、NyAERAなどに執筆中。

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