たくさんの保護猫と暮らし、見守ってきた女性 「どの猫にもドラマがある」
猫好きなしゅうとめの影響で、結婚以来たくさんの保護猫と暮らすようになった女性がいる。拾ったり、もらったり、その数は20匹以上。猫たちの先生(獣医師)と気の合った息子は、自らも獣医療の道に進み……。高齢猫を中心に今も12匹の世話をする女性に会いにいってみた。
急に甘えるようになって
埼玉県内のおしゃれな一軒家。ビオラや葉ぼたんなどきれいな花々が咲く広い庭を見ながら玄関にあがる。どうぞ、と通された居間には大きなクリスマスツリーが飾られ、側に小さな白黒の猫がちょこんと置物のように座っていた。
「この子は、くろこちゃん。子猫のように見えますが14歳です。我が家は来客も多いので、ほかの猫たちは2階で過ごしています。このくろこだけ、1階で暮らしているんですよ」
飼い主の50代の主婦、遠藤美香さんが朗らかに話す。
くろこは14年前に野良猫が生んだ猫で、当時は家と外を自由に出入りしていた。数年前に保護した後は2階で面倒を見ようとしたが、猫のくせに猫嫌い。ある時、2階から脱走してムササビのように木に飛び乗り、するすると降りて1階の窓から入ってきたという。
「プライドが高くて、以前はもっと強かったんですが、同時期に家にいれたライバルの野良猫きゅうが去年、病気で死んでから、急に甘えるようになったんですよね。今まで私は20数匹の猫を見てきたけど、こんなにキャラが変わった子は珍しいです」
美香さんが抱きあげると、くろこはそう?という顔で見つめ返した。
獣医師との出会いが我が家を変えた
居間には猫柄のタペストリーや、猫の写真もたくさん飾られている。美香さんは子どもの頃にも猫を飼っていたが、33年前にこの地に嫁いできてから、猫への思いと頭数が増した。
「同居したしゅうとめが猫好きで、私がお嫁に来た時は家に三毛がいました。長男(29歳)が幼稚園に上がる前に、保健所に連れていかれそうなシャム系のミックスを家に迎えたんです。ブルーという名の子でしたが、きついキャラながら可愛くて。その後、もらったり拾ったりして増えていきました。お助けハウスのように(笑)」
美香さんの長男が小学1年生の時に、最寄り駅の近くに新たな動物病院ができて、ブルーたちを連れていくようになった。長男は獣医さんを慕った。家の猫の診察がない時も病院に足しげく通い、病院の犬を可愛がり、先生の仕事の手伝いをした。休日には獣医さんと音楽会や釣りに出かけるような、親しいつきあいをしたそうだ。
じつは美香さんの長男は現在、千葉で獣医師として働いている。子ども時代に出会ったその獣医さんから、「大きな影響を受けたのだろう」と美香さんはいう。
「小学生時代に息子は将来の夢を決めたようだし、動物病院からもどんどんうちに保護猫が来たので、あの先生との出会いが我が家を変えたといってもいいくらい。今、2階には18歳の年長猫が2匹いるのですが、いずれも病院経由でやって来た猫なんです。会いにいきますか?」
美香さん宅の猫歴史をひとしきり聞いた後、いよいよ、2階に上がることにした。
病院の自動ドアを開けて入ってきた猫
階段を上がると広い廊下があり部屋が5つ。その1室が猫専用になっている。
窓から明るい日がさす部屋の中、猫たちは、棚や猫柱など好きな場所でくつろいでいた。1匹、2匹、3匹……ぜんぶで11匹いる。
「あそこにいるのが、かんぺいですよ」
美香さんの視線の先に、風格のある茶白の猫がいた。コタツの上の鉄鍋に座っている。
18年前、生後4カ月くらいの時に、先の動物病院の自動ドアを自ら開けて、風来坊のようにふら~っと入ってきたそうだ。
「シッポをぴんと立てて、待合室にいた患者さん一人一人に、あっ、ど~もど~もっていうようにあいさつしたらしいです。獣医さんから、『間寛平みたいな面白い猫が来たけど、どう?』と我が家にお声がかかったわけです(笑)」
かんぺいは賢く、また不思議な猫で、家に来てから一度も“シャー(威嚇)”をしたことがないという。
「病院が大好きで、のどを鳴らすグルグルが大きすぎて聴診器をあてた時に心音が聞こえづらいと先生に言われ、診察時はわざわざ(少しストレスをかけるため)帽子をかぶせてみたり。ふつう猫が嫌がるシャワーも嫌がらないし。空気も読める猫で、猫同士がケンカをしていると間に入って仲裁し、目覚めの悪い長女を起こしたり、家族もずいぶん救われましたよ……」
この日は美香さんの妹、宏美さんが遊びにきていたのだが、続けて説明をしてくれた。
「以前、この家で実母を姉と私で一緒に介護した時期があったのですが、毎日真夜中に必ず母はトイレに行くんです。一緒に起きて、トイレまで肩を貸すのですが足が悪く時間がかかる。しんどいなと思ったある時、目の前にかんぺいがふら~っと現れたんですよ!今頃トイレの時間だなと察したのか、(当時一緒に寝ていた)2階の長女の部屋のドアを自分で開けて降りてきたみたい。だいじょうぶか?って感じでこちらを見ていたので、本当に心が安らぎましたね」
猫も家族も、何度となくかんぺいに癒やされてきたのだという。
だがそんなかんぺいに、一昨年異変が起きた。
今はふっくらとして
夏くらいから食欲が減り、どんどん痩せていった。
美香さんはかんぺいを病院に毎日連れていき、点滴(補液)をしてもらった。連れていくのも負担になるなと思った時、獣医師になったばかりの長男に、「家でもできるよ」と教わり、夫に手伝ってもらいながら、自宅で点滴を続けたという。
年もとっているし、厳しいかなと思うこともあった。心配になって猫部屋にカメラを設置すると、ある日、モリモリとドライフードを食べ始めるかんぺいの姿を夫が確認がしたという。一時は2.5㎏まで落ちた体重が、3.5㎏まで戻ってきた。今はふっくらとして、点滴もしていない。
かんぺいに会うのが1年ぶりだという妹の宏美さんも、「あのままだめかと思ったけど、もう一度会えてうれしいよ」と喜ぶ。
「年とって、体調崩してから太るのは大変と思うけど、やっぱりこの子、何か持ってるよね」
もう1匹の長寿猫と今後も仲良く
話を聞いていると、かんぺいがすうっと細身の茶トラ猫に寄り添うようにした。猫部屋のもう1匹の長老、こむぎだ。思慮深い顔をしている。
「この子は18年前に、虫などを捕まえるとりもちにひっかかって動物病院に持ち込まれて、処置を受けた後に我が家に来ました。獣医さんが“小麦粉”でべたべたのもちを取ったことから名前はこむぎ。虐待もされていたようで、シッポが折れているんです。お尻の感覚があまりないのか、よくうんちを付けて歩いてます。この子は夕方になると、誰かを呼ぶように鳴くんですよ」
かんぺいはこむぎに優しく、こむぎも長い付き合いのかんぺいには気を許している。2匹が並ぶと、竹馬の友といった風情でほほ笑ましい。
「10歳を超えた猫が多いけど、どの猫にもドラマがあります。この部屋でいちばん若い3歳の白猫チロは、生後3、4カ月の時に、家の庭にいたんです。おいでといったら近づいてきて人に慣れていたので、迷い込んだというより、捨てられたのかも。この子はやんちゃ娘でね、すごい勢いでたたた~と壁を横走りするの(笑)」
美香さんは孫をみるように若いチロを見る。
「自分の年齢を考えると、この子が(家に迎えた)最後の猫。今後は増やすつもりはありません。万が一、何かあった場合は息子に世話を頼んでいますが、健康に気を付けて、猫たちを見守っていきたいです。かんぺいとこむぎ、それにほかの猫たちもずっと仲良く、長生きしてほしいですね」
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