何も知らない元繁殖犬 9歳のゴールデンを迎え、しつけ始めた

 愛犬を亡くし失意の底にあった時、譲渡サイトで9歳のゴールデンレトリーバーを見つけた。ブリーダーが手放そうとしていた元繁殖犬だった。汚れてはいたが、とても人懐っこい犬だった。引き取って、人と一緒に生きていく術を教え始めた。

(末尾に写真特集があります)

猫の一時預かりをするつもりが

 私は2019年11月17日、最愛の存在だった愛犬「ルールー」を亡くした。火葬にして、その温もりが消えると、日に日に悲しみが大きくなっていった。少し過呼吸のような症状もあり「ペットロスだ、このまま進行したら困るな」と思った。

 新たに動物を飼うのは大変なため、猫の一時預かりのボランティアをしようと思い、大阪府の動物愛護管理センターに問い合わせた。

 確かに一時預かりのボランティアは募集していたが、一度引き出すと、自分で譲渡先を探さねばならず、しかも、譲渡サイトなどネットは使ってはならないと言われた。「情報が拡散されると事態の収拾がつかなくなる恐れがあるから」と担当者は言った。さらに、もし病気をしたら治療費を持たねばならず、譲渡先が見つかるまで、猫を返せないという条件だった。

 この条件では、一時預かりのボランティアではなく、飼い続ける覚悟がなければ引き出せない。私にはできないと思った。

 そんな時、ふと「ペットの譲渡サイトには、どんな子が出ているのだろう」と見たのが“運のつき”だった。1匹のゴールデンレトリーバーが目にとまった。

ブリーダーが手放した繁殖犬

そのゴールデンレトリーバーは9歳のオス。神戸市のブリーダーのもとにいたのだが、繁殖できなくなったために譲渡先が募集されていた。

「使い捨て? そんなことに手を貸してはいけない」と思った。だが、9歳の大型犬なので、引き取り手が見つからないようだった。私が引き取らなければ、「保健所に連れていかれるかもしれない」と、そのブリーダーの従業員からメッセージが送られてきた。かかりつけの獣医師に相談すると、真顔で「大変ですよ」と言われた。それでも気持ちが動き始めていた。

笑顔のゴールデンレトリバー
おやつの焼き芋に大喜び

「明るい子のようだし、優しい感じの笑顔が可愛い。一度会ってみよう」

 先代の犬が亡くなって、わずか2週間後。12月1日に私は神戸市の山の中まで車を走らせた。ブリーダーの従業員によると、そこには400匹ほどの小型犬がいるとのことだった。会いたかったゴールデンレトリーバーは、道端につながれていた。

 「なぜ外につながれているの」と思いながら近づいてみると、喜んで飛びついてくる。いつシャンプーしたのか分からないほど汚れていて、まるで野良犬のようだった。

 その姿を見て、私は引き取るか、やめるか、少し迷った。先代の犬が重度の雷恐怖症だったので、ブリーダーに「雷は大丈夫なのか」と尋ねると、「このあたりは雷が鳴らないので知らない」といった。山の中で雷が鳴らないはずもないのだが、私はだまされたふりをして、犬を連れて帰ることにした。

 血統書上、犬は「ブルーオーシャン」という名前で、「オーちゃん」と呼ばれていた。そのまま名前を変えず、「オー」と呼ぶことにした。

しつけを受けたことがない犬

 オーを連れ帰ろうとすると、ためらうことなく私の車に飛び乗ってきた。帰路、海辺の公園を散歩すると、楽しげに歩いて、なでてくれと人にも寄って行った。

 翌日、シャンプーをしてみると、可愛らしくなった。ブリーダーのもとでは、朝夕15分ずつ散歩していたらしいが、訓練を受けたことがないようで、散歩では右に、左に、前方にリードを引っ張って歩く。「オスワリ」も「お手」も知らない。種雄として必要なこと以外は何も教えられていないようで、哀れだった。

 ただひとつ希望が感じられたのは、明るい性格だったことだ。天真爛漫で人なつっこいし、他の犬とも上手に遊べる。ボール遊びだけは知っていて、ボールを投げると、嬉しそうに追いかけた。

 家の中では、先代のルールーの臭いがするからなのか、あちこちオシッコをするのには参った。2週間もすると、外で排泄しなくなった。

お花見 ゴールデンレトリバー
お花見にも行った

人が大好きな犬

 なぜそんなに寂しいのか分からないが、分離不安が強く、立ち上がっただけでついてこようとする。獣医さんが言うには、「いままで放っておかれたので、安心できる人のそばにいたいのだろう」ということだった。散歩に出るとリードを引きまくり、人に会うと嬉しさのあまり飛びつこうとする。事情を知らない人に怒られることもあった。ついつい「ルールーならこんなことはしなかったのに」と思ってしまい、うまくやっていけるかどうか不安になることもあった。

「いままでどんな生活をしてきたのか」。聞けるものなら、オーに聞いてみたいが、知ったところでどうにもならない。散歩の仕方など、人と楽しく生きていく術を教えなければならない。そう思って毎日、公園の遊歩道を歩いたり、小川でボール遊びをしたり、山に登ったり、いろいろな体験をさせた。動物病院に行くことも楽しくて仕方がないようで、目を輝かせた。少しずつだが、お手やオスワリもできるようになってきた。

あご乗せする犬
「お母さんのごはんをください」

 我が家に来て4カ月。オーは散歩で強くリードを引っ張らなくなり、犬の友達もできて、会えばじゃれ合って楽しんでいる。「オーはもう種雄ではない。本当の家族になれた」と思っている。

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渡辺陽
大阪芸術大学文芸学科卒業。「難しいことを分かりやすく」伝える医療ライター。医学ジャーナリスト協会会員。朝日新聞社sippo、telling、文春オンライン、サライ.jp、神戸新聞デイリースポーツなどで執筆。FB:https://www.facebook.com/writer.youwatanabe

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