真っ赤な招き猫たちが、ずらっとお出迎え! 大分の福良天満宮に行ってみた

 大分県臼杵市。歴史ある街並みが見渡せる福良天満宮には、真っ赤な招き猫がずらり! 実はここ、知る人ぞ知る猫好きに大人気のご利益スポットなのです。

(末尾に写真特集があります)

真っ赤な猫石がぎっしり

 参道の急な階段を上ると、その先には石の招き猫がいる手水舎。その先には『寅さんロケ地跡』の表示が。福良天満宮の開山は慶長初期といいますから1600年ごろのこと。徳川家康の時代です。しかしなぜ、天満宮(天神様)に猫が?

 疑問に思いながら歩を進めると、小ぶりながら堂々とした本殿が見えてきます。が、右手になにやらやたらと赤いものが! よく見れば、真っ赤な「猫石」(赤く塗った石に猫を描いたもの)がぎっしり並んだお社があります。それが『赤猫社』こと『招霊赤猫社』(おがたまあかねこしゃ)。1999年に建立された、新しい神社なのです。

福良天満宮の猫石
お社の足元には猫石が。素朴な表情がなんとも愛らしい猫石たちは、「赤猫まつり」の日には街じゅうにちらばって福を授けてくれます

 祠には大小さまざまな赤い招き猫や赤猫石。猫の顔の形をした絵馬も下がっています。由来を読むと「赤猫大塚幸兵衛」の名が。一体どなたのことなんでしょう?

「赤猫」の力で街に元気を

 福良天満宮の宮司、雄嶋正作さんにその由来とエピソードをうかがいました。

「赤猫というのは、臼杵商人や大分の県民性を指す言葉なんです。そもそもはあんまりいい意味じゃなかったんですよ」

 今から150年ほど前、明治時代のこと。臼杵には平清水(ひらそうず)地区と町八町地区、ふたつの商業地がありました。それぞれ商人たちはよきライバルでしたが、商売熱心のあまり対立騒動が起きてしまいます。

 そのころ、平清水地区の人たちのことを誰彼となく「赤猫」と呼んでいました。その中心人物だったのが大塚幸兵衛だったのです。

「ケチ、とか人の足を引っ張るやつ、というニュアンスです。対立した相手側が腹立ちまぎれにつけんでしょうね」

福良天満宮の猫型絵馬
赤猫の顔の形をした絵馬。愛猫の健康を願うのもいいかも

 地元の人の気質を表すのにあんまりいい意味じゃないなんて……。釈然としなかった雄嶋さんは大塚幸兵衛について調べることにしました。

「大塚幸兵衛はたしかに商売上手だったようです。災害時には私財を投じて救済にあたるなど、地域の発展に貢献した偉人でした。50歳の若さで早世していますが、その功績はあまり評価されておらず、悪いイメージのまま。それで、なんとかできないかと考えたんです」

 その当時(1998年ごろ)の臼杵の街は観光客も減り、活気を失っていました。商店街にも下りたままのシャッターが目立つようになっていたのです。

 臼杵の繁栄に貢献した「赤猫」の力で、もう一度元気を取り戻せないか。雄嶋さんはそう考えるようになったのです。

「赤猫」というバンドを誘った

 そんなある日、市内でお祭りが開かれたときのこと。会場ステージでは、「赤猫」というバンドが歌っていました。その楽しげな様子をみた雄嶋さんは「祭りに赤猫がいてもいいじゃないか」と思いつき、神社のお祭りに誘いました。こうして「赤猫」と神社がつながったのです。

 やがて赤い猫のマスコット人形をバザーなどで売る人も出てきました。その人形を買った人に何かいいことがある、という評判が広まるようになります。ついに「赤猫のおかげでいいことがあった(願いがかなった)ので、お礼に」と、福良天満宮にさまざまな赤猫を奉納する人が増え、ついに祠を建てることに。

福良天満宮のおみくじ結所
赤猫おみくじを結ぶ場所にも猫!ヒゲにぎっしり、おみくじが結び付けられているさまは壮観です

 さらに福良天満宮の敷地には、大塚幸兵衛が信仰を絶やさなかったという商売の神様、愛宕稲荷神社も併祀されています。そこで、大塚幸兵衛の遺徳にあやかって、赤い招き猫にその魂をこもらせ「幸せを呼ぶ赤猫」として、福を呼ぶ社としてお祀りすることになったのです。

おなじみのゆるキャラ?

 福良天満宮の氏子代表で、赤猫や地元の妖怪伝説に詳しい方にも話を聞きました。県庁にお勤めの、齋藤行雄さんです。

「明治から大正にかけて、福良天満宮のある平清水地区は大変に景気がよかったんです。なぜ平清水地区の人間のことを『赤猫』と呼んだのかは不明ですが、赤という言葉には激しいイメージがあるせいかもしれません。

 それと、妖怪の猫又伝説にも関わっているかもしれません。九州では長生きした猫は阿蘇山の根子岳(ねこだけ)に修行に生き、猫又になって戻ってくる、という言い伝えがあります。それが臼杵では『赤い猫が猫又になる』と言われているんです」

福良天満宮の赤い招き猫
授与所にずらりと並んだ赤い招き猫。右招き(金運)も左招き(人との縁)もアリ。

 臼杵の街を散策すると、確かにあちこちで赤猫のイラストを目にします。齋藤さんの実家は1935年に食堂を始めたそうで、その時にお客さんに配ったマッチに、赤猫の絵がついていました。平清水地区を代表する赤猫だからこそ、シンボルになったのです。

「宣伝に使うぐらい、この辺りじゃおなじみなんですよ。当時のゆるキャラみたいなもんでしょうかね」

 今や赤猫は町おこしにも一役買っています。

 柱に赤い御影石の猫がいる赤猫橋に、赤猫広場。旧市街の各所に赤いベンチを置いて、散策途中で休憩してもらえるようにもなっています。

よい福の日にちなんだ「赤猫まつり」も

 話を神社に戻しましょう。お参りを済ませて授与所に行くと、赤猫絵馬に赤猫みくじ、赤猫守(おまもり)……。ご利益のありそうな授与品の数々がずらり。

 神社に詣でたらおみくじでしょう!ということで、さっそく引くことにしました。

 おみくじはいくつかあるのですが、やはりここは「赤猫おみくじ」を。かわいらしい赤猫の人形が福と書かれた金の袋を抱えています。その中におみくじが入っているのです。

 これなら飾りとしても使えて2度嬉しいですよね。結果は大吉! いいことがありそうです。

福良天満宮の赤猫おみくじ
これが「赤猫おみくじ」。表情も3パターンあって、おみくじを読んだ後は飾るのも◎。何かいいことありそう!

 そしてもうひとつ。なんと猫のためのおみくじがあるではありませんか! うちには6匹もいるので全員分として1枚、引かせていただきました。

 結果は……猫たちの福が逃げないようにナイショとさせていただきます。中には「飼い主さんへ」と猫からのコメントや、健康、恋愛(あくまでも猫の)のほか、ラッキーカラーの項目も。

 そんな赤猫づくしの福良天満宮が、最高に猫愛にあふれる日があります。それが毎年4月29日、よい福の日にちなんだ「うすき赤猫まつり」です。

赤猫装束の子どもたち
赤猫まつりのワンシーン。赤猫装束の子どもたちが可愛い!

 赤猫に扮した子供たちの行列や赤猫おどり、街なか29カ所にある赤猫石を探すラリー「赤ねこ石29ケ所めぐり」に「赤猫夜会(ビアガーデン)」など盛りだくさん!

 そしてこの日に特別に授与される、御朱印も見逃せません(御朱印は普段でもいただけますが、この日のものは特別だそうです)。福良天満宮の御朱印帳は、もちろん赤猫デザイン。ますます何かいいことがありそうです。

 今年はコロナ禍の影響で中止になってしまった「うすき赤猫まつり」。来年は開催されるといいですね!

福良天満宮
大分県臼杵市福良211番地
0972-63-2739
http://fukuragu.jp/

浅野裕見子
フリーライター・編集者。大手情報出版社から専門雑誌副編集長などを経て、フリーランスに。インタビュー記事やノンフィクションを得意とする。子供のころからの大の猫好き。現在は保護猫ばかり6匹とヒト科の夫と暮らしている。AERAや週刊朝日、NyAERAなどに執筆中。

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