同居犬の最期を迎えて 後輩犬が「死」を理解する瞬間

 EMIKAさん宅で暮らす2匹のフレンチブルドッグは、それぞれ別の部屋で分かれて過ごす家庭内別居状態。先住犬キナコ(12歳)と後輩のダイズ(2歳)は、まさに犬猿の仲だった。しかし、キナコが急病を患いこの世を去ったその日から、ダイズの体に異変が起こり始めた。

(末尾に写真特集があります)

2匹の出会いは2年前

 実家暮らしのEMIKAさんが、最初にフレブルを飼ったのは12年前。犬好きな母のため、初任給でプレゼントしたのが先住犬のキナコだ。そしてその10年後、新たに迎え入れたのが同じくフレブルのダイズ。多頭飼いの始まりだった。

出会ったころのダイズ。当時はまだあどけないパピーだった。
出会ったころのダイズ。当時はまだあどけないパピーだった。

「当初、2匹目を飼うつもりはなかったんですけど、キナコは家族思いで、私たちを守ろうと寝ている時まで常に気を張っていて。ダイズを迎えれば、シニアになったキナコもこの先安心して過ごせるんじゃないかと思ったんです。結果的にそれが家族の幸せにつながればと思って」

反りが合わなかった先住犬と子犬

 しかし、2匹の関係性を築くのは簡単ではなかったという。それまでEMIKAさんの母をひとり占めできたキナコにとって、新参者のダイズはおもしろくない存在。当初は顔を合わせれば噛みついてしまうこともあるほど、2匹の溝は深いものだった。

「そもそもキナコは、飼い始めた頃にしばらく体調を崩して、1年くらいほかの犬と交流できなかったんですよね。今思えば、それが原因なのか犬が苦手なところもあって。一緒に散歩しようものなら、興奮してほえて止まらないほど。2匹を近づけると危ないので散歩は別にして、家の中でも部屋を分けていました」

キナコは犬嫌いなうえ、年をとってさらに我が強くなっていた。
キナコは犬嫌いなうえ、年をとってさらに我が強くなっていた。

 成長するにつれ、ダイズも先輩犬のキナコを尊重することを覚え、キナコもダイズを家族の一員として“黙認”するように。2匹にとってストレスなく暮らせる適度な距離を保ちながら、家族としての絆を徐々に深めていった。

キナコが突然の発病

 平和な日々が続くこと2年、キナコの体に突如異変が起こる。口にするものすべてを吐いてしまう症状が現れたのだ。

「最初の診察ではひとまず、部屋を涼しくして様子をみることになりました。でも、帰宅後も嘔吐(おうと)が止まらなくて……。再度病院へ行き、今度は吐き気止めを処方してもらったんです。そうしたら治るどころか、立ち上がれなくなってしまって」

 キナコに持病やアレルギーはなく、中毒の疑いもない。原因がわからず苦しむキナコを抱え、EMIKAさんはすがる思いで別の病院へと駆け込んだ。

「次のステップとして、呼吸器を広げるため、鼻の穴とのどを広げる手術をすることになりました。でも今度は、その手術で使った点滴が肺にまわって誤嚥性(ごえんせい)肺炎を発症してしまったんです」

 その後さらに、病状は深刻さを増していく。
「誤嚥性肺炎になったと思ったら、次はてんかんを起こしてけいれんし始めちゃって。けいれんが起きるとチアノーゼになり危険なので、今度は意識レベルを下げる薬を投与することに。翌日にはもう、私の存在すら認識できなくなってしまいました」

キナコは意識がもうろうとするなか、なでるとその匂いでEMIKAさんの存在に気づいたという。
キナコは意識がもうろうとするなか、なでるとその匂いでEMIKAさんの存在に気づいたという。

そして、懸命な治療もむなしく入院後わずか4日でキナコは息を引き取ってしまった。

ダイズがキナコの遺体と対面

「入院中はキナコが興奮するといけないので、ダイズと会わせないようにしていました。でも、キナコが死んだ後に先生から言われたんです。たとえ仲良くなかったとしても、急にいなくなるのは犬にとって理解できないから、一緒に見送ったほうがいいって」

  後日、医師のアドバイス通りダイズを対面させた。

「動かなくなったキナコをひたすらじーっと見つめていましたね。この時、ダイズなりに“姉の死”を理解したんだと思います」

キナコが好きだったソファで眠るダイズ。ぬくもりが残っているのかもしれない。
キナコが好きだったソファで眠るダイズ。ぬくもりが残っているのかもしれない。

ダイズの体に起きた異変

 キナコが亡くなった翌日から、ダイズに異変が起こったという。

「ご飯をいっさい口にしなくなったんです。それまでは食欲がなくなることなんて一度もなかったのに。おなか全面にも真っ赤な湿疹が出てしまって……」

 これらの症状は1週間ほど続いたという。

「しばらくは自分でご飯を食べなかったので、私の手からひと口ずつ与えていました。繊細ですよね。ダイズは嫌われていた立場なのに、いざ相手がいなくなったらこんなにショックを受けるなんて……」

 キナコの最期を通して、犬が死に直面することの重みを痛感したEMIKAさん。飼い主だけでなく、犬にとっても“当たり前の存在”を失う精神的なショックは計り知れないのだ。

 先住犬の急死から半年、奇しくもこどもの日にEMIKAさんはキナコによく似たパグの子犬を引き取り、家族に迎えた。その子は母のことが大好きで、中身までキナコの生まれ変わりのように感じられたと言う。

 こうしてキナコから命のバトンを引き継いだダイズにも新たな相棒ができ、EMIKAさん一家は「日常」を取り戻しつつある。この先、また新たに2匹の絆が深まっていくと信じて。

栗原うらら
フリーライター・編集者。大手アパレル企業を経て、出版社へ入社。女性誌の編集部にて10年勤務したのち、フリーランスに。ファッション、ライフスタイル、人物インタビュー、ペットの記事などを執筆。幼い頃から犬、ウサギ、猫、モルモット、ハムスターなど多くの動物と触れ合いながら育ち、現在はブサ可愛いフレンチブルドッグの愛犬と同居中。instagram@bonstagram0502

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