グリーフケア学びペットと幸せな暮らしを セミナーに90人参加
ペットロスに備えるためにグリーフケアを学ぶsippoセミナーが9日、東京・築地の朝日新聞東京本社で開かれました。講師は、治療と心のケアの両面から診察を行っている獣医師の阿部美奈子先生です。犬や猫と暮らす人ならば、「別れ」は必ず向き合う時が来るテーマ。参加した約90人は、真剣な表情で耳を傾けていました。
グリーフとは「自然な心や体の反応」
そもそも「グリーフ」とは何を指すのでしょう? 直訳すると「悲嘆」という意味です。阿部先生は「自分にとって、とても大切な対象を失うかもしれないと想像した時、そして失ったときに起こる、ごく自然な心や体の反応だ」と語ります。
グリーフは日常生活の中で、多くの人が何度も体験するもの。ペットとの生活以外でも、失恋や離婚、子どもの自立などもあたるそうです。ペットの目線で考えてみれば、幼いうちに母犬やきょうだい犬から引き離されてペットショップに移される経験もグリーフであるし、ペットが信頼を寄せていた人が家を離れることも該当するといいます。
犬や猫が生きているうちから起こるグリーフ
飼い主にとってのグリーフは、ペットが生きていて一緒に暮らしているうちから、さまざまな形で出ているといいます。ペットがいつもと違う様子を見せたりして、「失うかもしれない」と予期することによって、「生前のグリーフ」が起こります。そしてペットの死を体験したあとに「死後のグリーフ」が発生します。これがペットロスです。
阿部先生は「亡くなった後、グリーフは必ずあります。そして大切な存在であるほど、大きなグリーフになります」と語りかけます。
グリーフの4つ心理過程
グリーフはペットの「生前」でも「死後」でも、非常に似た心理過程が表れるそうです。
一番目は「衝撃期」で、頭が真っ白になって何がなんだか分からないという時期です。これは大きな喪失によって心が壊れないようにするため、まず考えさせないようにする時間だといいます。
覚えておきたいのは、この「衝撃期」に治療法の選択を迫られたりしても、正しく考えて判断できないのは当たり前だということ。「何を説明されても、今は無理だと言う勇気を持ってほしい」と阿部先生は話します。
次に訪れるのが2番目の「悲痛期」。後悔したり自責したり、怒りを他者に向けたりして、なぜ喪失したのか原因を探そうとします。
そこを通り過ぎると、3番目の「回復期」が訪れ、現実を受け入れたり肯定的な思考を取り戻すようになったります。そしてその後ペットがなくなった場合、4番目の「再生期」が訪れ、少しずつ再生し、亡くなったペットから自立して再出発する時期が来るといいます。
犬や猫の目線で考えてみよう
ペットとの毎日で、飼い主ができることはなんなのでしょう。気をつけたいのは、「犬や猫の目線になって安全なのか、危険なのか見ること」だと阿部先生は指摘します。
犬や猫は、飼い主の声の調子や顔の表情を感じ取るため、飼い主がペットの喪失を恐れて「負のオーラ」を出すと、犬や猫は異変を感じ取り恐ろしいことが起こるかもしれないと、恐怖を覚える時間をつくりかねないと阿部先生はいいます。
また、病気が進行するにつれて、ペットをほめない生活になり、優しくペットの名前を呼びかけるのではなく、「大丈夫?」と呼びかけることが増えてしまうと注意を呼びかけます。「ペットの幸せは、飼い主の幸せの上でしか成り立たちません。飼い主がリラックスしていないと、ペットもリラックスできません」と阿部先生は話します。
「どんなときもペットが主役の時間にすることが大事」と阿部先生。それには「ホームドクター」選びが必要だと指摘します。飼い主のグリーフを分かってくれるか、いつも飼い主が呼んでいる名でペットのことを呼んでくれるか、などを基準にしながら動物病院を選んでいくとよいそうです。
講演の2時間は、あっという間に過ぎました。参加した人はうなずいたり、時折目元をぬぐったりしながら、最後まで聴き入っていました。
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