動物駅長 集客にひと役買う一方、高齢化や「別れ」の課題も
駅で愛敬を振りまくかわいい「動物駅長」たちが東北でも増えている。全国から会いにやってくる人も多く、観光資源に乏しい自治体やローカル線の名物として期待を集め、最近では訪日客にも人気だ。一方、いつかはやってくる「別れ」という動物ならではの課題もある。
外国人観光客にもモテモテな猫駅長たち
10月12日、山形県川西町のJR米坂線・羽前小松駅で、迷い猫「しょこら」の駅長就任式が開かれた。
あいにくの大雨にもかかわらず、小さな駅舎は町民ら数十人が詰めかけ熱気むんむん。飼い主の細谷絵里子さん(38)に抱かれ、長い灰色の毛に包まれたしょこらが姿を見せた。駅を管理するNPO法人の理事長、江本一男さん(66)が辞令を読み上げると、しょこらは甲高い声で「ミャー」。手作りの制帽をかぶる姿に「かわいい!」と一斉にカメラが向けられた。
しょこらは春に保護され、駅で飼われるうちに窓口で利用客を迎えるようになり、「猫駅長に」という声の高まりを受けて抜擢(ばってき)された。
JR米坂線は、米沢駅(山形県米沢市)と坂町駅(新潟県村上市)を結ぶローカル線。羽前小松駅の一日の利用客は200~300人。江本さんは「一つでも多く、明るい話題がほしいのは事実」と期待を寄せる。
細谷さんらは缶バッジなどを作り、SNSでの発信に励む。米坂線に乗って県外からしょこらを見に来る人も増え始めた。細谷さんは「迷い猫だったしょこらと会って、動物愛護に関心を向けてもらうきっかけになれば」と話す。
会津鉄道・芦ノ牧温泉駅(福島県会津若松市)には、先輩格の猫の駅長「らぶ」と施設長「ぴーち」がいる。
「集客力と広告効果は抜群」(同社)。駅舎内は猫にちなんだお土産がずらり並び、平日の昼でもお客がしょっちゅうやってくる。会いに来る人々は「仕事ぶり」に目を細め、お土産を買い、列車に乗る。飼い主の「芦ノ牧温泉駅を守る会」の小林洋介さん(34)は「最近は外国人観光客にもモテモテ」と話す。
動物駅長たちにも高齢化の波
ただ、いつかはお別れがやってくる。IGRいわて銀河鉄道の奥中山高原駅(岩手県一戸町)にいた犬の名誉駅長「マロン」は、誘客やグッズ販売に大活躍したが2009年に他界。いまは4代目にあたる「マオ」が「看板犬」を務める。同社は「マロンが死んだ後も『もういないの?』と懐かしむ方は多かった」。
山形鉄道・宮内駅(山形県南陽市)のウサギ駅長「もっちぃ」は人間の年でいえば70代。「ブサカワ犬」のJR五能線・鰺ケ沢駅(青森県鰺ケ沢町)の観光駅長「わさお」も80代。わさお支援団体代表の工藤健さん(52)は「散歩の距離が短くなるなど老いは顕著」と話す。
山形県などでまちづくりのアドバイザーを務め、鉄道にも詳しい東北芸術工科大教授の志村直愛(なおよし)さん(57)は「誰もが親しみを持てる動物駅長はグッズ展開も容易で、集客にも貢献してくれる。動物愛護の点から『定年制』を設け、町ぐるみで後継者を育てるといった方法もあるだろう」と提案する。一方で「多くの路線は動物に頼らねばならないほど苦境にあるという裏返し。高齢者の運転に厳しい目が注がれる中、公共交通を見つめ直す機会にしてほしい」と話す。
(星乃勇介)
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