「まだ大丈夫」は誤解かも 高齢犬・猫には年2回の健康診断を

エクササイズのデモンストレーション犬、ジャーマンシェパード「ベルガ」
エクササイズのデモンストレーション犬、ジャーマンシェパード「ベルガ」

 ペットの「健康な時間」を延ばそうと、ペットの健康診断の普及・啓発を行っている獣医師団体「Team HOPE」が9月、啓発セミナーを開いた。飼い主の思い込みで病気や衰えを見逃しがちだが、小さな変化も獣医師のヒントになり、シニアペットには半年に1度は健康診断を受けるのが望ましいという。セミナーの一部を紹介する。

年齢だけで判断できない「シニア」

 シニアペットの健康維持に、健康診断がより重要になる理由のひとつとして、「7歳以上=シニア」というざっくりとした認識では、犬猫の老化を見落とす可能性があると、セミナーに登壇した、アメリカ・パデュー大学獣医行動診療科の尾形庭子獣医師は指摘する。

「何をもってしてシニアと呼ぶのかを、きちんと定義することが大事です。年齢的にまだ若いとしても、さまざまな条件が重なって、体が衰えてしまっている場合もあります」(尾形獣医師)

 アメリカ動物病院福祉協会(AAHA)では、犬種により体格差が大きい犬の場合、シニア犬を「推定寿命に対して後半25%にさしかかった個体」、老齢犬を「推定寿命年齢付近、またはそれを超えた個体」としている。一般的に、小型犬より大型犬のほうが寿命が短いとされているため、大型犬のほうが早くシニア期を迎えることになる。

 一方、犬ほど品種ごとの体格差がなく、遺伝的操作も少ない猫の場合は、ある程度年齢で線引きができるとして、シニア猫を「11歳から14歳まで」、老齢猫を「15歳以上」と定義しているという。

アメリカ・パデュー大学 獣医行動診療科 尾形庭子獣医師
アメリカ・パデュー大学 獣医行動診療科 尾形庭子獣医師

飼い主の「大丈夫」は誤解の場合も

 もうひとつ尾形獣医師が指摘するのは、飼い主の誤解。特にありがちなのは「うちの子は元気だから大丈夫」「弱ってきたけど、年齢のせいだからしょうがない」という思い込みだ。

 ヨーロッパのある研究によると、シニア犬・老齢犬の飼い主で「自分の犬は健康だ」と思っている人の愛犬100匹を対象に健康診断をしたところ、約半数に血圧異常や体重の異常などの不具合がみつかったという。また、見たり触れたりすればわかる皮膚疾患のようなトラブルを抱えていても、「病院に行くほどではない」と自己判断していたこともわかった。

 猫でも同様の調査をしたところ、やはり飼い主の予想に反して、さまざまな異常が見つかった。高齢猫によく見られる口内炎は、100匹中72匹が発症していたという。体重異常が見られた猫も半数にのぼったという。

「見た目が元気そうでも、やはり加齢にともない、体のなかではいろいろなことが起きています。たとえば肥満も、関節疾患が増えるシニア期では、体にかかる負担は大きい。シニアだからこそのアドバイスが必要なんです」(尾形獣医師)

犬の関節疾患では、小型犬の膝蓋骨トラブルも非常に多い
犬の関節疾患では、小型犬の膝蓋骨トラブルも非常に多い

小さな変化も病気や老化を見つけるヒントに

 一方で、飼い主が大したことはないと思う愛犬・愛猫の変化も、獣医師には病気や衰えに気づく大事なきっかけになると語る。

「病院にいる間だけで、動物の行動の変化を見るのは、非常に難しいです。獣医師が知りたいのは、必ずしも食欲や元気のありなしじゃありません。例えば眠るパターンの変化は、とても役に立つ情報です。シニアペットのケアは、飼い主さんと獣医師のチームワークが大切なんです」(尾形獣医師)

 睡眠以外にも、表情や反応の変化など、犬猫を身近で観察できる飼い主にしか気づけない重要な手がかりは多い。尾形獣医師はその具体例をあげた。

  • 「若いときは雷を怖がっていたのに、最近は慣れて平気になった」
    →聴力の低下、脳機能の衰え
  • 「トイレの失敗が増えた」
    →腎機能の低下、記憶力の低下、排泄ペースの変化、腎機能以外の疾患の可能性
  • 「以前は留守番ができていたのに、最近できなくなった」
    →不安の増加、疾患による痛みや不快感
  • 「どこかに隠れて、あまり出てこなくなった」
    →体温調節の低下、歩行困難で滑る場所を避けている、膝下による痛みや不快感(特に猫)

「Team HOPE健康診断」について説明する太田亟慈代表
「Team HOPE健康診断」について説明する太田亟慈代表

半年に1度は健康診断を

 では、どのような検査を受ければペットの老化や病気の発見につながるのか。「Team HOPE」は、以下8種の検査を統一項目とする健康診断を、全国の動物病院に普及させる活動に力を入れている。

①問診 ②視診 ③触診 ④聴診 ⑤血液検査 ⑥尿検査 ⑦便検査 ⑧レントゲン

 「Team HOPE」代表の太田亟慈獣医師(犬山動物総合医療センター代表)は、「この検査を実施することで、すべてではないが、かなりの病気を早期発見できる」と語る。

 また、シニアペットの場合、半年に1回は健康診断を受けることが望ましいとしている。

「犬や猫は人より早く年を取るため、半年以内に状態が大きく変わってしまうことも珍しくありません。特にシニアになれば、そのペースがさらに早くなります。人間が1年に1回健康診断に行くとしたら、ペットは半年に1回は健康診断を受けてほしいと思います」(尾形獣医師)

「ふれあいエクササイズ」を愛犬と体験する参加者
「ふれあいエクササイズ」を愛犬と体験する参加者

家でもできる「ふれあいエクササイズ」

「Team HOPE」はペットの健康管理のため、飼い主が自宅で簡単に実践できるよう独自に考案した「ふれあいエクササイズ」も推奨している。「マッサージ」「ストレッチ」「筋トレ」で構成され、体全体をもみほぐしたり、コマンドに従ってスクワットさせたりと、健康維持とともに、ペットとのコミュニケーションツールとしても活用できるように考えたという。

主に犬向けの内容だが、マッサージやストレッチは猫にも有効だとしている。

Team HOPE ふれあいエクササイズ
http://teamhope-f.jp/exercise.html

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sippo編集部が独自に取材した記事など、オリジナルの記事です。

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