ハトや猫に餌やりどこからが「不適切」? 大阪市が条例制定へ
飼い主がいない動物への不適切な餌やりを規制する条例づくりを大阪市が目指している。集まるハトや猫の糞尿(ふんにょう)被害に住民が悩んでいるためだ。すでに条例がある自治体は「抑止効果がある」としているが、どの程度の餌やりが不適切なのか。線引きは難しい。
フン害、鳴き声…悩む住民
大阪市住吉区にあるJR我孫子町駅前の早朝。「クルルクルルクルル……」。9月15日午前6時半ごろ、駅舎や電線に大量のハトが集まり、あちこちから鳴き声が聞こえてきた。記者が数えると約100羽。昨年11月に駅近くへ引っ越してきた益田燁(あき)子さん(71)はため息をつく。「朝の4時から鳴き声がやかましい。大きくて耳をつんざくような声でゆっくり眠れない。ハトは毎日フンも落としていくので布団を干すとフンまみれになってしまう」
ハトの目当ては、駅周辺でまかれる食パンや米などの餌だ。ほぼ毎日決まった時間になると、大量のハトが集まってくる。
別の場所では、路上にキャットフードや小魚がまかれていた。約30分後に同じ場所を通ると、餌はなくなり、羽毛だらけになっていた。近くの市立我孫子中学校周辺も同様にフンや羽毛だらけになっていた。肩にのってきたカラスを振り払おうとして転んでけがをした女子生徒もいるという。
住民によると、10年ほど前から特定の男女数人が餌をまくようになったという。通報を受けた市も5~6年前から状況を把握。担当者は「餌やりをやめてとお願いは繰り返しているが、規制できる条例や法律がなく聞き入れてもらえていない」と話す。
猫への餌やり「やめない」
餌を与えている人はどう考えているのか。駅前の空き地でパンをまいていた男性は取材に「いつも朝3時から5時くらいの間に来ている。餌はすぐに食べきるし、フンは雨で流れてきれいになる。ハトと健康被害の因果関係を示すデータもない」と主張。自転車で餌やりしていた高齢女性は、ハトではなく猫への餌やりが目的。「食べられへんかったら餓死する。餌やりはやめない」と話した。
住民は9月10日、カラスやハトなどへの悪質な餌やり行為を規制する条例づくりを求め、広田和美・市議会議長宛てに陳情書を提出した。駅近くに住む男性(42)は自宅前だけでなく、敷地内の庭に無断で餌を置かれ、糞尿被害などに悩む。「直接注意したこともあるが、全く効果なし。厳しい罰則を作ってほしい」と言う。
松井一郎市長は呼応して9月11日の記者会見で「動物愛護じゃない。自己満足」と批判。「周辺の生活環境を守りながら、動物愛護が実現できる体制をつくっていきたい」と述べ、早期に罰則付きの条例制定を目指す方針を示した。市の担当者は「少なくとも住吉区の状況をなんとかできるような、実効性のあるものをつくりたい」。早ければ、年内に議会に提案することを目指しているという。住吉区のような特定地域の生活環境悪化に対応できることを念頭に置いている。
不適切な餌やり規制条例、各地で制定
不適切な餌やりを罰則付きで規制する条例は、全国各地で制定されている。
東京都荒川区は2009年、全国に先駆けて餌やりに関する条例を施行した。(1)生活環境に被害が生じている(2)周辺の複数の住民から苦情がある(3)周辺住民の共通認識――。3点すべてを満たした場合、不適切とみなし、区が指導に動く。条例制定が一定の効果をあげ、その後のモデルケースの一つとなった。
富山市でも今年7月、カラスに餌やりして鳴き声やフンなどの被害をもたらすことを禁じる条例を施行。3千羽以上のカラスが生息する富山城址(じょうし)公園周辺で餌やりする人を主眼に置いた。条例は荒川区のケースなどを参考にしながら制定。指導、勧告した上で命令に従わない場合は氏名を公表し、警察に告発して5万円以下の罰金を科すことになる。制定後、餌やりはやんだという。
罰金になったケースはないという。担当者は「努力義務だったら分からなかったが、罰則付きの条例には抑止効果が十分ある」と言う。カラスが対象となった条例は、大阪府箕面市や奈良市にもある。
餌やりの「線引き」に悩む自治体も
一方で餌やり行為の「線引き」に悩まされている自治体もある。
京都市は15年に無責任な餌やりを規制する条例を施行した。条文で「周辺の住民の生活環境に悪影響を及ぼすような給餌(きゅうじ)を行ってはならない」と規定。なかでも苦情が多い猫については「決まった時間に餌を与える」「容器は片付ける」などの細かな規定を設けた。その成果もあり、猫への不適切な餌やりなどへの指導は、16年度からの3年間で403件に上っている。
同時期にハトやカラスといった野鳥類への不適切な餌やりなどについての指導は75件にとどまった。担当者は「野鳥は広範囲に移動するため生活環境の悪化との因果関係の証明が難しい」と話す。
動物やペットの法律問題に詳しい細川敦史弁護士は「条例制定によって特定の問題の多い餌付け行為はなくなるかもしれない。ただし、何を不適切と定めるかは難しく恣意(しい)的になる恐れもあり、適切な餌やりが批判対象になるなどデメリットもあるため、慎重に検討すべきだ」と指摘している。
(本多由佳)
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