動物実験の闇に迫るルポ 恩恵を受ける者は加害者にも

ある獣医大学の実験犬。大学構内に実験犬のケージが運ばれると糞尿の強烈な臭いが漂うという(森映子さん提供)
ある獣医大学の実験犬。大学構内に実験犬のケージが運ばれると糞尿の強烈な臭いが漂うという(森映子さん提供)

 時事通信の記者、森映子さんが『犬が殺される 動物実験の闇を探る』(同時代社)を出版した。日本の動物実験の現状を粘り強く取材したルポ。実態をつかむのが困難な動物実験について、様々な角度から取材している。

 筆者の森さんには、取材先でよくお目にかかる。私が主に愛玩動物を専門に取材しているのに対し、森さんは実験動物や畜産動物など、なかなか表に出にくい分野に精力的に取り組まれている。会見などの場でその質問を聞いていて、「ああ、森さん怒ってるな」と感じることがある。たいていの場合、取材相手が実験動物や畜産動物についてぞんざいな扱い、物言いをしている時だ。

『犬が殺される 動物実験の闇を探る』(森映子著/同時代社・1600円+税)
『犬が殺される 動物実験の闇を探る』(森映子著/同時代社・1600円+税)

 本書からも、森さんの怒りがダイレクトに伝わってくる。文章が感情的なのではない。実験動物に対する科学者たちのいい加減な所業や自主規制の欠陥を、ときに取材拒否に直面しながらも粘り強く、丁寧に、かつ執拗に積み重ね、でもそれを淡々とした文章で読者に提示しているからだ。読者は、森さんの怒りを追体験し、虚飾に満ちた自主規制の裏側にいるこの国の科学者たちの一部が、いかに傲慢で独りよがりであるかを思い知ることになる。そんな科学者たちを守るために、現状を追認し、何も変えさせようとしない政治家や行政が存在することも……。

 ただ、森さんがあとがきで「自分自身も実験動物の受益者、加害者であることを否応なしに感じるようになった」と記すとおり、私自身も含めて読者もまた実験動物からの恩恵を受け、一方で実験動物たちの過酷な運命への加害責任を持ち合わせている。

ある獣医大学の実験犬。後ろ足に何らかの処置がされている(森映子さん提供)
ある獣医大学の実験犬。後ろ足に何らかの処置がされている(森映子さん提供)

 だからといって現状を追認していては、それこそ人間社会の進歩、科学の進歩を否定することになる。3R(Reduction/改善、Refinemen/純化、Replacement/置き換え)の推進は世界的な潮流になっているし、実験動物の福祉に配慮した法制度が充実している国もあまたある。動物実験代替法は、飛躍的に発展してきている。

 本書には、取材に協力的な姿勢を示し、3R推進に積極的に取り組む科学者たちも登場する。「闇」があれば、光をあてればいい。本書が多くの読者の目に触れることが、日本に生きる実験動物たちにとって一筋の光明になるはずだ。

太田匡彦
1976年東京都生まれ。98年、東京大学文学部卒。読売新聞東京本社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当した後、AERA編集部在籍中の08年に犬の殺処分問題の取材を始めた。15年、朝日新聞のペット面「ペットとともに」(朝刊に毎月掲載)およびペット情報発信サイト「sippo」の立ち上げに携わった。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』『「奴隷」になった犬、そして猫』(いずれも朝日新聞出版)などがある。

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この連載について
いのちへの想像力 「家族」のことを考えよう
動物福祉や流通、法制度などペットに関する取材を続ける朝日新聞の太田匡彦記者が、ペットをめぐる問題を解説するコラムです。
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