虐待され、ケガをした地域猫 預かった女性の心の穴を埋めた

   駐車場に住んでいた地域猫が、矢で刺されたような穴が開くケガを負って見つかった。一命をとりとめ、譲渡までの間、近くの会社の女性が一時的に預かることに。だが、家に招き入れると、気持ちが変わった。その猫が心の穴を埋めたのだった。

(末尾に写真特集があります)

   元地域猫「ガメ」(推定8歳、オス)は、東京都内の住宅街のマンションで暮らしている。ふくよかで落ち着いた猫だ。

「冬場はずっと床暖房から離れなくて。ちょっと運動不足気味ですね」

 そう言って、飼い主の増田さんが優しい視線を向ける。ガメは3年前まで、増田さんが勤める港区海岸の出版社近くの駐車場に住んでいた。

「喫茶店のマスターが駐車場に段ボールを置いて、近所の店や会社員たちも気にして一緒に世話をしていました。マスターは猫に代々『ガメラ』と名付けていたようです」

ケガをして動物病院で診察。脚の内側に穴があいていた(増田さん提供)
ケガをして動物病院で診察。脚の内側に穴があいていた(増田さん提供)

矢が刺さったようなケガ

   その駐車場は東京湾のすぐ近く。ひと気の少ない場所だが、猫好きの人たちに見守られて暮らしていた。一度は増田さんの会社の後輩が家に連れて帰ったものの、先住猫とそりがあわず、また駐車場に舞い戻ってきていた。

   だが、ある時、事件が起きた。ガメラが虐待を想像させるケガを負ったのだ。

「お弁当屋さんから後輩に『ケガをしてる』と連絡が入り、駆けつけると、肩の内側に2センチ大くらいの深くて丸い傷があって……。動物病院に連れて行くと、傘の先で突かれたり、ボーガンの矢で撃たれたりしたような“人為的な穴”だといわれたそうです」

   獣医師が「放っておいたら前脚切断か、へたしたら死んでいた」というほどの傷。それでもガメラは入院治療のかいがあり、順調に快復した。退院する時、後輩は増田さんに「もう駐車場には怖くて戻せない、やはり飼い猫にしたい」と相談したという。駐車場周辺は再開発工事でトラックもよく行き来する。「家猫に」という皆の気持ちが高まった。

今はとっても落ち着いています
今はとっても落ち着いています

一時預かりのつもりが、気持ちが変化

 増田さんは、その半年前、約6年間飼っていた猫「クロ」を病気で失い、家に猫がいない状態だった。しばらく猫を飼うつもりはなかったが、「一時預かりをして、家から譲渡会に出すならいいかな」とガメラを受け入れた。

 ところが、預かったとたんに気持ちが変わった。

「預かって3時間後に、『うちの子になる?』とガメに話しかけていました(笑)。外で見ている時は“おブサだなあ”なんて思っていたのですが、家に招いてよく見ると、『意外とかわいいな』と心がジワーッと動いちゃって。後輩にもすぐ連絡しました」

 そうして猫は譲渡会に出ることなく、増田家の一員になった。名前は「ガメ」に決めた。その時の心情を増田さんが振り返る。

「ガメは前にいたクロと同じ白黒柄だったんです。自分では意識していなかったけど、猫のいない数カ月は心にポカッと穴があいていたというか、物足りなかったのかもしれない。ハチワレ模様が似ていてキュンとなるなんて、まるで最初の男が忘れられないみたいな感じだけど(笑)」

 写真立ての中のクロは、確かにガメと似ていた。クロはもともと両親が飼っていて、実家の引っ越しに伴って、増田さんが引き取った猫だった。

写真立ての中のクロも、白黒模様… 
写真立ての中のクロも、白黒模様… 

保護活動にも協力

「クロと一緒に暮らすうちに、猫の魅力を知りました。数年前まで少し離れたマンションに住んでいて、路地に野良のメスが子猫を連れてきたので面倒を見ていました。ある時、姿が見えないなと思ったら、親子それぞれがまた子猫を3匹ずつ連れていて、このままじゃ保健所で殺されちゃうかもしれない、どうすればいいの? とパニックになりました」

 近くの保護団体に相談すると、「すぐに保護してください」といわれたという。

「それまで知識がなく、猫を保護したら自分が飼わないといけないと思っていました。いったん預かって、譲渡会で新しい家族を見つければいいと教わり、保護して子猫たちを家のケージに置いて、人慣れさせながら家族を見つけました」

増田さんに櫛をかけてもらいウットリするガメ
増田さんに櫛をかけてもらいウットリするガメ

 子猫が屋外にいる母猫を恋しがって鳴くので、増田さんは母猫の声色をまねてICレコーダーに吹き込み、子猫に聞かせて落ち着かせたそうだ。その後、子猫は家族が見つかり、母猫たちの避妊もした。週末には保護団体のシェルターの掃除も手伝ったという。

 仕事が変わり、今は多忙で団体の手伝いはできないが、地域猫の餌やりは続けている。猫を通して仲良くなった猫友達もいるという。

「今住んでいるマンションは、近所の猫友がオーナーをしているのが縁で引っ越しました。前のマンションが取り壊されることになって部屋を探していたら、猫友が『ここに住めば、今まで通り外の猫の面倒もみられるでしょう』と言ってくれて、入居したんです。だから、ガメを愛でながら、外の子の世話も続けています」

 桜が一面に見える居間が、ガメもお気に入りだという。今年の冬もあと少し。「春が待ち遠しい」とでもいうように、ふっくらとしたガメが窓の外をじっと見つめていた。

藤村かおり
ペットライター。小説等の創作活動を経て90年代後半から、ペットの取材を手掛ける。2011年~2017年週刊朝日記者、2017年からsippoメインライター。丹念な取材と独自の目線から、動物と人の絆、動物と共に生きる人の心をすくい取る記事に定評がある。ペット関連の著書に『長寿猫』『明日にアクセス』など。現在は保護した黒猫、キジ猫と暮らす。
この特集について
ペットと人のものがたり
ペットはかけがえのない「家族」。飼い主との間には、それぞれにドラマがあります。犬・猫と人の心温まる物語をつづっています。
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