墓地に捨てられ、人を恐れた犬 譲渡早々、散歩中に逃走

 塀に囲まれた墓地に1匹の犬が捨てられていた。人でも塀を乗り越えなければ入れない場所だ。犬は運良く保護団体に救出され、譲渡された。だが、狭い場所に閉じ込められていた犬は、すぐに新しい家になじむことはなく、“事件”を起こした。

(末尾に写真特集があります)

塀に囲まれた墓地から鳴き声

 5日ほど前から、どこからか犬の鳴き声がした。その声は日に日に弱くなっていく。大阪府堺市に住むAさんは気になって、鳴き声がする近所の墓地へ探しに入った。すると、墓地の奥の方に、高さ1メートルほどのコンクリート塀で囲まれた墓があった。背の高い雑草が生い茂り、中に1匹のセッター犬がいたという。

 セッター犬は運動能力の高い狩猟犬で、人懐っこく家庭犬としても人気がある。だが、墓の塀は施錠されており、犬はもちろん、人も乗り越えなければ出入りできない。犬が出られないことを知った上で、投げ捨てられたのだろう。

ぶち模様が特徴的
ぶち模様が特徴的

 怯えていたため、Aさん夫妻はとりあえず水とフードを与え、いったん引き上げた。夜になってから、保護団体「レイライン」の人たちと一緒に再び救出に向かった時、セッター犬は小刻みに震えていたという。

 セッター犬は一時預かりボランティアをしているAさん宅で保護された。すぐに獣医に診察してもらったところ、足に膨らみがあった。当初腫瘍かと思われた膨らみは、骨折した足に筋肉が巻き付いたものだと分かった。しかし、すでに時間が経過しており、治療できる状態ではなかった。推定3~5歳のメス。マイクロチップも入っておらず、届け出もなかったため、譲渡先を探すことになった。

新しい家に迎えられて

 大阪在住の大城さんは、かつて2匹のフラットコーテッド・レトリバーを飼っていた。もう一度犬を飼いたいと思い、保護団体レイラインの譲渡会にも数回行ってみたという。

 大城さんは、大型犬の子犬を飼いたいと思っていたが、介護が必要になった時のことを考えると手に負えない。あれこれ考えているうちに、保護されたばかりのセッター犬の話が舞い込んできた。先代の犬に似ていたこともあり、家族で話し合って引き取ることを決めた。

 4月19日、レスキューされてから1週間後、大城さんはセッター犬を自宅に迎え、「キキ」と名付けた。だが、家にやって来たキキは、ずっとソファの隅にうずくまり動かなかった。どんなふうに接したらいいのか分からず、とまどいと不安を感じたという。

 「早く人間のことを怖がらないようにしてあげたい、ちゃんと飼ってあげたい、そういう思いでいっぱいになりました」

スラリとした立ち姿
スラリとした立ち姿

一目散に駆け出す犬

 ところが“事件”が起きる。

 キキが来てから2日後、大城さんは、まだ人があまりいない早朝、散歩に連れ出した。公園で長めのリードから短いリードへ変えようと思った瞬間、キキはラジオ体操の音に驚いて、そのまま逃げ出してしまったのだ。

 キキは一目散に走った。預かりボランティアのAさん宅の方角に向かっていくようだった。

 大城さんはすぐにAさんに連絡。隣接する市の保健所や警察にも届けた。必死で探すが、なかなか見つからない。いろんな人から目撃したという情報は寄せられるが、追いかけられると逃げるので、なかなか捕まらなかった。初夏とはいえ、真夏のように暑い日もあり、雨の日もあり…、大城さんの心配は募るばかりだったという。

 最後の目撃情報は、大きな幹線道路を全速力で走っているというものだった。骨折した足をかばうように前足だけを使って走る姿。キキは大橋さん宅から約20キロ先の元々暮らしていた堺市を目指していたと考えられる。

 数日後、堺市の警察から電話があった。大きなショッピングモールの駐車場につながれているところを保護されたという。オレンジ色のハーネスに茶色のリードをしているという。「間違いなくキキちゃんだ」。大城さんは急いで警察に向かった。キキは肉球の皮がむけて出血していたという。

人間は怖くないよね
人間は怖くないよね

「人間は怖くない」と教えたい

 それから大城さんはキキが逃げ出さないように、必ず2本のリードを付けて散歩している。だが、キキはいつでも逃げられるような態勢で食事をし、散歩に行っても、すぐに帰りたがった。

 「この子にどう接したらいいのか」と大城さんは悩んだ。それでも、保護団体に返そうとは思わなかったという。

 「怖いことや嫌なことを忘れられるようにしてあげたい。私達も癒やされるし、可愛いんです。少しずつ変わっていくのも嬉しくて、最初は、散歩に行こうと言っても尻尾をちょろちょろ振るだけだったのですが、最近はブンブンちぎれんばかりに振るようになったんですよ。早くドッグランにも連れて行ってあげたいんです」

 「人間は怖くない」と教えるために、大城さんはキキを連れて譲渡会にも行った。たくさんの人になでてもらう、そうした経験を重ねることで、少しずつ人に心を許せるようになることを願っているそうだ。そして、キキちゃんを保護しれくれたレイラインのスタッフやボランティアさん、捜索に関わってくれたすべての人に感謝しているという。

〈キキの出身団体〉
Ley-Line(レイライン)
現在は主に繁殖場への交渉・引き取りをしています。
これから動物を迎えようと思っている人に、ペット産業の裏側を知ってもらえたらと思い、「癒しを求めるなら彼らに平和を返そう」というコンセプトで活動しています。
HP:http://ley-line.info
Mail : saco@ley-line.info
渡辺陽
大阪芸術大学文芸学科卒業。「難しいことを分かりやすく」伝える医療ライター。医学ジャーナリスト協会会員。朝日新聞社sippo、telling、文春オンライン、サライ.jp、神戸新聞デイリースポーツなどで執筆。FB:https://www.facebook.com/writer.youwatanabe

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この特集について
幸せになった保護犬、保護猫
愛護団体などに保護された飼い主のいない犬や猫たち。出会いに恵まれ、今では幸せに暮らす元保護犬や元保護猫を取材しました。
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