優しさをくれる猫に、幸せの恩返し 自然派のペットブランド設立

 愛猫との別れや出会いを経験して、人生を豊かにしてくれる猫に「恩返し」をしたいと考えた女性が、2年前にペットブランドを立ち上げた。動物の体に優しい食品等を販売し、人から人、人から猫へと幸せのバトンで繋ぎたいと活動を続けている。その素顔を紹介する。

(末尾に写真特集があります)

「この子たち、仲良しでいつも一緒。目が丸いほうが3歳10カ月のグリで、目がつっている方が1歳2カ月のラヴ。似ているけど兄弟ではないんですよ」

 渋谷区の自宅マンションを訪ねると、新井ミホさん(46)が、片手に1匹ずつキジトラ猫を抱えて現われた。新井さんは長年、コスメやナチュラル・オーガニックブランドのPRを手がける仕事をしてきた。

「仕事は忙しいけど、2匹の猫に癒されていますよ。2匹を見ていると面白いです。世話を焼いたり、甘えたり、エネルギーが余って“ウォー”と吠えたり(笑)」

 愛猫について新井さんは朗らかに話す。だが3年半前、泣いてばかりの時期があったのだという。

 初めて飼ったロシアンブルーを失い、ペットロスに陥ってしまったのだ。

海辺で保護されたグリ。右の写真はミウ
海辺で保護されたグリ。右の写真はミウ

「ミウという甘えん坊の男の子でした。シニア期に入って腎臓が悪くなり、介護に備えて点滴の仕方などを覚えた矢先、旅立ってしまって……。私は人生であまり泣くことがなかったのですが、お葬式で号泣し、それからしばらくは何をしていても涙があふれて……」

 そんな姿を見て周囲も心配したようだ。そして1カ月後、思いがけない出会いが訪れる。

 ある晩、猫仲間と食事をしていると、業界の先輩からLINEで連絡が入った。たまたま訪れた海辺で、母猫とはぐれた子猫を保護したのだという。「飼わない? 顔かわいいよ」と書いてあった。新井さんはハッとした。

「家にはまだミウのお骨がある状態でしたが、生き方を尊敬する方が拾った子猫だったし、食事していた仲間も“ご縁ね”と背中を押してくれて、その場で決めました。あまりに私が悲しんでいるので、天国からミウが猫を贈ってくれたのかも……。それがグリなんです」

 グリは生後約2カ月で新井さん宅に来て、すぐに家に慣れた。ミウとは毛色もタイプも違ったが、グリが来た日から新井さんの涙はぴたりと止まり、和まされた。

 こうして短い間に猫の看取りと子育てを経験し、新井さんの心に変化が起きた。自分に再び笑顔をもたらしてくれた猫のために、恩返しがしたいと思い始めたのだ。

グリとラヴを抱く新井ミホさん
グリとラヴを抱く新井ミホさん

“幸せのおすそわけ”をするブランド

「猫を見ていると穏やかな気持ちになる。でも厳しい環境に身を置く猫がいるのも現実で、その子たちや保護団体に対して、何かしたい……。寄付するほどの大金はないけど、私らしく楽しく、わかりやすく世の中に保護猫や保護犬の存在を知らせるにはどうしたらいいかをずっと考えました」

 思いついたのが、ブランドの設立だった。新井さんは長年、コスメのPRを通してブランドの成長をサポートする仕事をしてきた。その経験を生かし、ペットのブランドを作って、それを通じて保護動物に関するメッセージを伝えたいと思ったのだ。行動を起こしたのは、グリが来て2年目のことだった。

「自身のコスメのPR会社が『LA CARP(ラキャルプ)』という名前なので、少し似せたフランス語の造語で『LA CHATON』(ラシャトン=子猫)という社名にしよう、と元旦に決めました。『LA CHATON』では猫=幸せの象徴と考え、幸せのバトンを多くの方につなぐための活動を目指したんです」

ラシャトンのチキンペーストを美味しそうに舐める2匹
ラシャトンのチキンペーストを美味しそうに舐める2匹

 そのプロジェクトの一つが、ペットフードのプロデュースだ。

 ニュージーランドで、薬剤投与を一切せず、地元産のナチュラルな飼料を与えて、放し飼いにされた鶏でペースト状おやつやフードを作った。猫だけでなく犬も食べられる。このアイデアには、グリも一役買った。

「人間用のオーガニックのお肉の試食会の日に、たまたまグリを連れていっていました。オーガニックの鶏ささみをあげてみたら、ふだんは見向きもしないのに、喜んで食べて『これだ』と、ひらめいたんです。『ペット用にも作れるよ』とお肉屋さんが協力を申し出てくれて、商品化にこぎつけました」

 商品は現在、オーガニックの専門店や保護団体で販売するほか、通信販売もしている。一般の商品に比べ割高だが、ナチュラル派の飼い主に注目されている。フードのほかに、アルコールや薬品を使わない水の除菌消臭スプレーや、腸内環境を整える国産米ぬか発酵乳酸菌サプリメントも開発した。

仲睦まじい姿に癒される
仲睦まじい姿に癒される

2匹飼いでさらに猫に夢中

『LA CHATON』の事業を始めて1年9カ月後、軌道に乗り始めたところで知人からまた猫を紹介された。それがラヴだ。

 子猫のラヴを迎える前、新井さんは「可愛い子がいるけど、迎えてもいい?」と先住のグリに相談したという。ラヴは室内で兄弟と育ったため、自然とグリに近づいた。だが、一方グリはほかの猫に慣れていなかったため、近づくと怒る。そのため、最初はラヴをゲージにいれた。

「2日目にラヴから“出せー”の猛アピールがあったのでゲージから出すと、その翌日から自然とグリがラヴをなめ始め驚きました。父性が芽生えたのかな、面倒を見過ぎて痩せたほど(笑)」

 新井さんにとって初の2匹飼いで、発見もあったようだ。

「人と猫が1対1で過ごす時と、猫が複数の時では、関係性が違うんですよね。『ラヴをよろしく』とグリにばかり話かけていたら、ラヴは私の言葉がわからなくなった。だから、2匹に同じように話しかけるようにしたんです」

 グリにも変化があったようだ。以前、グリは新井さんが帰宅すると“遅~い”とでも言いたげな顔で、ぽつんと寂しそうに玄関で待っていた。今は帰宅時にラヴと一緒に迎えにくるが、2匹で部屋の奥で寝ていたのか、眠そうな、でも満たされた顔をしているという。

「これからも2匹を大事にし、人と猫が心地よく生きるためのアイデアを発信したい。今は小さな活動でも、共感している方と一緒に大きな風にしていきたいですね」

ラシャトンのHP 
藤村かおり
ペットライター。小説等の創作活動を経て90年代後半から、ペットの取材を手掛ける。2011年~2017年週刊朝日記者、2017年からsippoメインライター。丹念な取材と独自の目線から、動物と人の絆、動物と共に生きる人の心をすくい取る記事に定評がある。ペット関連の著書に『長寿猫』『明日にアクセス』など。現在は保護した黒猫、キジ猫と暮らす。
この特集について
ペットと人のものがたり
ペットはかけがえのない「家族」。飼い主との間には、それぞれにドラマがあります。犬・猫と人の心温まる物語をつづっています。
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